みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0923「風鈴」

2020-07-15 18:07:59 | ブログ短編

 男は風鈴(ふうりん)売りのおじいさんから可愛(かわい)い金魚(きんぎょ)の絵柄(えがら)の風鈴を買った。どうしてそんな気になったのか…。一人暮(ぐ)らしの淋(さび)しさからか、ただの気まぐれなのかもしれない。
 男は窓(まど)の外へ風鈴を吊(つる)してみた。そして満足(まんぞく)したように部屋にごろりと横になった。男は風鈴に目をやった。風がまったく吹(ふ)かないので、風鈴はチリンとも言わない。いつしか、男は転(うた)た寝(ね)を始めた。
 どのくらいたったろう。窓から陽(ひ)が射(さ)し込んで、男は目を覚(さ)ました。男は目を細めて風鈴を見た。だが、やはりうんともすんとも動く気配(けはい)はなかった。男は寝ながら大きく伸(の)びをする。そして、窓に背(せ)を向けて起き上がった。
 その時だ。風鈴がチリリンと涼(すず)しげに鳴(な)った。男はハッとして振(ふ)り返った。男は、思わず息(いき)を呑(の)む。窓のところに、赤い金魚柄の浴衣(ゆかた)を着た娘(むすめ)が座っているのだ。その娘は、にっこり微笑(ほほえ)んで男を見つめていた。あまりのことに男は目を閉じてしまった。男が再(ふたた)び目を開けると、そこには誰(だれ)もいなかった。娘の姿(すがた)は消(き)えていた。
 今のは何だったのか…。男は幻(まぼろし)を見たのか。それとも夢(ゆめ)を見ていたのか…。どうにもすっきりしない。それに、何だか惜(お)しい気がしてきた。男は風鈴を見つめた。風鈴は一度鳴ったきり、まただんまりを続けている。男はため息をついた。
 男は、窓のところへ行って風鈴に手を伸ばした。だが、途中(とちゅう)で手を止めると呟(つぶや)いた。
「まぁ、いいか…。きっとまた現れてくれるだろう。その時は――」
<つぶやき>そんなに美しい娘だったの? もう、何で? 声をかければよかったのに。
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