みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1341「魔のトンネル」

2022-12-25 17:37:50 | ブログ短編

 <山の中にある魔(ま)のトンネルに入ると、二度と戻(もど)って来られなくなる>
 学校の友だちの間で、そんな噂(うわさ)が広まった。真偽(しんぎ)のほどは分からないが、それを聞いて僕(ぼく)は小さい頃(ころ)に聞いた祖父(そふ)の話を思い出した。それは、祖父がまだ子供(こども)の頃の話である。
 祖父がひとりで近くの山に行ったときのこと。道に迷(まよ)って旧道(きゅうどう)に出てしまった。そこは新しい道ができてからは使われなくなっていて、獣道(けものみち)のように草(くさ)が生(お)い茂(しげ)っていた。その道をたどって行くと、岩(いわ)をくり抜(ぬ)いただけのトンネルを見つけた。ほんの数メートルほどしかなく、向こう側(がわ)がよく見えた。祖父はトンネルの前で立ち止まった。
 その時だ。雷(かみなり)が落ちたような大きな音がして、祖父は驚(おどろ)いてトンネルに飛(と)び込んだ。そして、向こう側へ――。そこで祖父は空気(くうき)が変(か)わったのを感じた。いや、空気だけじゃない。あれだけ生い茂っていた草がなくなり、人が通れるちゃんとした道になっている。
 祖父は木々(きぎ)の間から村(むら)が見えるのに気がついた。「あれは、どこの村だろう?」
 祖父はそこへ行ってみようと思った。歩き出そうとしたとき、下の方から人がやって来るのが見えた。着物(きもの)を着ている若者(わかもの)たちで、鋤(すき)や鍬(くわ)をかついでいた。若者たちは祖父を見つけると、なぜか声を上げて追(お)いかけて来た。祖父は慌(あわ)てて逃(に)げ出した。そして、あのトンネルへ飛び込んだ。トンネルを抜けると、そこは草が生い茂った道に戻っていた。
 祖父はすでに亡(な)くなっていて、詳(くわ)しく聞かなかったことを後悔(こうかい)するばかりである。
<つぶやき>別の世界(せかい)に迷い込んだのか…。それとも、時間を遡(さかのぼ)ったのかもしれません。
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