彼の特技(とくぎ)は、どんな女でも瞬時(しゅんじ)にたらしこむことができること。――彼にとって女は、遊(あそ)び相手(あいて)であり、暇(ひま)つぶしの道具(どうぐ)に過(す)ぎなかった。今までに手に入れた女も、恋人(こいびと)にしたいわけではなく、手に入れたらそれでお終(しま)いくらいにしか考えていなかった。
そんな彼でも、一人だけ落(お)とせない女がいた。彼には、それがどうにも許(ゆる)せなかった。どうしてもその女を手に入れたい、と思うようになった。そんなに入れ込(こ)む女だから、さぞ美人(びじん)だろうと誰(だれ)もが思った。しかし、その女はごく普通(ふつう)の、どこにでもいるような顔(かお)だちで、金持(かねも)ちというわけでもなさそうだ。
彼は、毎日(まいにち)彼女にアプローチをかけた。その度(たび)に断(ことわ)られ、無視(むし)されたりと、散々(さんざん)だった。そんな時だ。その彼女が、男と楽(たの)しそうにしていたと噂(うわさ)が流(なが)れた。それを聞いた彼は、頭に血(ち)が上り、すぐに彼女に会いに行った。
ちょうど彼女は男と一緒(いっしょ)だった。何か楽しそうに言葉(ことば)を交(か)わしている。彼は駆(か)け寄(よ)ると、男の胸(むな)ぐらをつかんで睨(にら)みつけた。辺(あた)りは騒然(そうぜん)となり、今にも取(と)っ組(く)み合いが――。
彼女が二人の間(あいだ)に割(わ)って入り、彼に言った。「止めて下さい。この人は、兄(あに)です」
それを聞いた彼は、思わず手を離(はな)して彼女を見つめた。彼女は兄に言った。
「ごめんなさい。この人、あたしの…ストーカーなの…」
お兄さんは彼の顔をまじまじと見つめて、「君(きみ)か…。こいつから聞いてるけど…。ほんとにいいのか? 俺(おれ)から言うのもなんだけど、大変(たいへん)だぞぉ」
<つぶやき>彼女はどんな人なんでしょうか…。これからの展開(てんかい)は、どうなっていくのか?
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