水木涼(みずきりょう)とアキは、千鶴(ちづる)の指示(しじ)で昼食(ちゅうしょく)の準備(じゅんび)をしていた。みんながお腹(なか)を空(す)かせて帰って来るはずだから。二人とも手慣(てな)れた感じで働(はたら)いていた。アキがぽつりと涼に言った。
「今日は、学校へ行かなくてもいいの?」
涼は一瞬(いっしゅん)考えて、「休校(きゅうこう)じゃないかなぁ。市内に入れないんじゃ、生徒(せいと)も集まれないし…。先生(せんせい)だって――。それに、うちらの担任(たんにん)、他(ほか)へ行っちゃってるしね」
これはあずみのことだ。アキは、楽(たの)しそうにしている涼を見て可笑(おか)しくなった。千鶴はふと烏杜高校(からすもりこうこう)に目を向けた。千鶴は千里眼(せんりがん)が使えるのだ。
千鶴は二人に聞こえるように言った。「そうね。学校は誰(だれ)もいないみたい」
涼がそれを聞いて自慢気(じまんげ)に言った。「でしょ。私には何でも分かるんだからぁ」
「ちょっと待って…」千鶴が緊張(きんちょう)した声を上げた。「誰かいるわ。若い男ね。大きな荷物(にもつ)を持って…。あら、足に怪我(けが)をしてるみたい」
涼がすかさず言った。「私、見てくるよ。ねぇ、いいでしょ?」
「そうねぇ。悪(わる)い人には見えないから…。そうだ、アキを連れて行って」
アキは嬉(うれ)しそうにうなずくと、手際(てぎわ)よく必要(ひつよう)な物(もの)を鞄(かばん)に詰(つ)め込んだ。千鶴は涼に言った。
「私はここから見てるから。もし危険(きけん)なことがおきたら、アキをお願(ねが)いね」
「心配(しんぱい)ないよ。私がちゃんと守(まも)るから、大丈夫(だいじょうぶ)!」
<つぶやき>この若い男はいったい何者(なにもの)なのか? そして、これから何が起きるのか…。
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