僕(ぼく)には彼女がいる。まあ、誰(だれ)にも紹介(しょうかい)はできないけど…。だって、僕の頭の中にだけ存在(そんざい)している妄想(もうそう)彼女だから。彼女は僕にとって最高(さいこう)の女性だ。まあ、当たり前のことなんだけどね。彼女は僕にとって理想(りそう)であり、憧(あこが)れ…。そして、ぎゅっと抱(だ)きしめたくなるような女なのだ。
僕の妄想は際限(さいげん)なく膨(ふく)らんでいた。こうなったら、誰かに聞いてもらいたい。しかし、そんなことを話せる友だちは……どこにもいないのだ。そんな、悶々(もんもん)としていたとき、僕は出会ってしまった。僕の妄想彼女とそっくりな、瓜(うり)二つの女性と――。
「もちろん話しかけたんだろ?」って…。そ、そんなことはムリだ。そもそも、見ず知らずの女性に話しかけることができるのなら、妄想などするはずがない。
彼女は僕の方へ歩いてくる。僕は目に焼(や)き付けるように彼女を見つめた。彼女の方は…、僕のことなどまったく気づいてないようだ。そりゃ、そうだろ。こんなダサい男が彼女の視線(しせん)に入るわけがない。僕は、そう思っていた。彼女が僕の近くを通り過(す)ぎたとき、それは起(お)こった。彼女が、僕を見たのだ。そして、あろうことか僕に話しかけてきた。
「あれ、松本(まつもと)くん…だよね。いやだ、久(ひさ)しぶりじゃない。元気(げんき)だった?」
確(たし)かに、僕は松本だ。でも、僕には彼女のことが分からない?!
「もう、あたしのこと覚(おぼ)えてないの? ほら、小六のとき、クラスメイトだったじゃない」
<つぶやき>これは、あれですかね。妄想の素(もと)は彼女だったとか…。この先(さき)、どうなるのか?
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