みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1244「鬼芽」

2022-05-12 17:33:33 | ブログ短編

 人の中にそれは生まれた。それは何千年も前から存在(そんざい)していて、ことあるごとに表面(ひょうめん)に現(あらわ)れてくる。それは嫉妬(しっと)や妬(ねた)みを養分(ようぶん)にして、芽生(めば)え成長(せいちょう)していくのだ。
 ――女は見知(みし)らぬ男に声をかけられた。中年のその男は、まるで浮浪者(ふろうしゃ)のようなみすぼらしい恰好(かっこう)をしていた。男は、足を止めた女に言った。
「お前さん、気をつけなよ。鬼芽(おにめ)が出始(ではじ)めているぞ」
 女は軽蔑(けいべつ)したように、「何なの? あたしに話しかけないで」
 男はため息(いき)をついて、「そうかい…。なら、これだけは言っておく。一年後、お前さんはまるで別人(べつじん)になっているだろう。今の生き方を変えるんだ」
 女は、男の言葉(ことば)など耳(みみ)に入らなかったようだ。そのまま行ってしまった。いつの間(ま)にか、男の隣(となり)に女の子が立っていた。彼女は男を見つめて言った。
「また、おせっかいをやいたの? もうやめなよ。何を言ったってムダだよ」
「そうだな…。なに、鬼芽が出てたんだよ。あれは、妬みだな…。そんなもん捨(す)ててしまえばいいのになぁ。あのままだと、鬼女(きじょ)になって地獄(じごく)行きだ」
「いいじゃない。さぁ、行きましょ。早く逃(に)げ出した鬼(おに)を見つけないと、閻魔様(えんまさま)に怒鳴(どな)られるわよ。あ~ぁ…。わたしたち、いつになったらお休(やす)みがもらえるのかしら」
「そうだな…。二、三百年はかかるかもなぁ」
<つぶやき>この人たちはいったい…。気をつけて。あなたにも鬼芽が生(は)えているかも?
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