みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1043「飼育係」

2021-03-12 17:47:33 | ブログ短編

 彼は、そわそわしながら彼女が来るのを待(ま)っていた。待ち合わせの時間(じかん)はとうに過(す)ぎている。しばらくすると、向(む)こうから彼女が駆(か)けて来るのが見えた。彼女は彼の前まで来ると、彼に言った。
「ごめんなさい。遅(おく)れちゃったわよね」
 彼は何か言おうとして、彼女のすぐ後ろに立っている男が気になった。その男は彼に、
「あっ、俺(おれ)のことは気にするな。俺は、ただの飼育係(しいくがかり)だから」
 彼女はふくれ顔(がお)で男に言った。「もう、ついて来ないでって言ったじゃない」
「仕方(しかた)ないだろ。お前の親(おや)に頼(たの)まれたんだから」男は彼にも、「初(はつ)デートなんだって…。こいつ、親に正直(しょうじき)に話すもんだから心配(しんぱい)しちまって。間違(まちが)いがあっちゃいけないって、俺がついて来たってわけさ。まったく、どんだけ箱入(はこい)り娘(むすめ)なんだよ。俺は別(べつ)にいいんぞ。間違いがあっても…。もう子供(こども)じゃないんだしなぁ」
「彼は、そんな人じゃないわ。とっても良(い)い人なんだから。そう言ってるでしょ」
「何だよ。つまんねぇなぁ。それだけが楽(たの)しみで、こっちは来てるのに…」
 彼は彼女に小声で訊(き)いた。「あの…、飼育係って…どういうこと…?」
 男がすかさず答(こた)えた。「それはな、俺が育(そだ)てたってことだよ。こいつの両親(りょうしん)、仕事(しごと)が忙(いそが)しくてなぁ。俺が代わりに、おむつを替(か)えてやったり、風呂(ふろ)にだって――」
「ちょっと、止めてよ」彼女は男を睨(にら)みつけて、「そんなことまで言わなくても…」
<つぶやき>これは育ての親ですね。子供の成長(せいちょう)は楽しみでもあり、心配もつきません。
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コメント
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