私が勤(つと)めている会社(かいしゃ)に、謎(なぞ)だらけの女性がいた。彼女は、会社では無駄話(むだばなし)をすることもなく、ちょっと近寄(ちかよ)りがたい雰囲気(ふんいき)があった。でも、仕事(しごと)は真面目(まじめ)にこなして、みんなから頼(たよ)りにされている。そんな彼女の前に、新入社員(しんにゅうしゃいん)の女の子がやって来た。
その女の子はとても人なつっこい性格(せいかく)のようで、どういうわけか謎の彼女のパーソナルスペースにすんなり入り込んでしまった。新人(しんじん)の女の子は何かにつけて彼女に話しかける。
「あたし、彼がいるんですけど…。この間(あいだ)、彼と食事(しょくじ)に行ったんですよ。で――」
彼女は仕事の手を止めることなく、女の子の話を聞いているようだ。女の子は、
「あたし、辛(から)いのが苦手(にがて)だって知ってるのに、激辛(げきから)のお店に入るんですよ。どう思います?」
「あ…、それは…。大変(たいへん)でしたね」
「あたし、速攻(そっこう)で帰りました。先輩(せんぱい)は、何か嫌(きら)いな食べ物ってありますか?」
「そ、それは…。特(とく)には…、嫌いなものはありませんけど…」
なぜか、周(まわ)りで聞き耳(みみ)を立てていた他(ほか)の社員たちが、無言(むごん)で頷(うなず)き合った。女の子は、
「先輩って、素敵(すてき)だから、彼氏(かれし)とかいるんですよね?」
みんなの視線(しせん)が、一斉(いっせい)に彼女に向いた。彼女は、動揺(どうよう)しているみたいだ。
「そ、それは…。ここで話すようなことではないので…」
「やっぱりいるんだ。そうですよね。その人と、いつ結婚(けっこん)するんですか?」
<つぶやき>いやぁ、攻(せ)めてきますねぇ。彼女の謎がついに明かされる瞬間(とき)がきたのかも。
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