男の冷(つめ)たい無表情(むひょうじょう)な目が月島(つきしま)しずくを見つめていた。しずくは男の手を振り解(ほど)こうともがいていたが、だんだん力が抜(ぬ)けていき、意識(いしき)が薄(うす)れていく。
男がしずくの胸(むね)に刃物(はもの)を突(つ)き立てようとしたとき、男の腕(うで)を掴(つか)んだ手があった。男は振り向く間もなく、次の瞬間(しゅんかん)には道路(どうろ)へ倒(たお)れ込み、そのまま動かなくなってしまった。
「大丈夫(だいじょうぶ)?」と女の声がした。しゃがみ込んでいたしずくは、喘(あえ)ぎながら見上げる。その視線(しせん)の先には、女性がひとり立っていた。そこへ、友だち二人か駆(か)け寄って来る。
――パトカーや救急車(きゅうきゅうしゃ)の赤いランプが辺(あた)りを染(そ)めていた。周辺(しゅうへん)は騒然(そうぜん)となっている。男は駆(か)けつけた警官(けいかん)たちに取り押さえられ、被害者(ひがいしゃ)の女性は救急車で運ばれて行った。手当(てあて)を受けていたしずくのところへ刑事(けいじ)がやって来た。しずくは事情(じじょう)を訊(き)かれて、
「突然襲(おそ)われて…。でも、女の人が助(たす)けてくれたんです」
刑事は興味(きょうみ)を持って訊き返す。「それは、どんな人でした?」
しずくは周(まわ)りを見回したが、その女性はいつの間にか消(き)えていた。
「髪(かみ)の長い人で、顔は…、よく覚(おぼ)えてません」
しずくはそばにいた友だちに、「あなたたちも見たでしょ? 私を助けてくれた人」
水木涼(みずきりょう)がそれに答えて、「何を言ってるの? そんな人いなかったわ。しずくが犯人(はんにん)を突き飛ばしたんじゃない。私たち、もう死んじゃうんじゃないかって…」
涼の目に涙(なみだ)が光った。川相初音(かわいはつね)は、しずくをギュッと抱(だ)きしめた。
<つぶやき>謎(なぞ)の女性はどうして消えたのか? つくねの言ったことが本当になって…。
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