授業(じゅぎょう)が終わってから、月島(つきしま)しずくは職員室(しょくいんしつ)に呼(よ)ばれた。まさか昨日のこと? と思ったが、担任(たんにん)の先生は、
「月島、悪(わる)いがな、神崎(かんざき)のところへこれを届(とど)けてくれないか?」
先生(せんせい)はそう言うと、学校の名前の入った封筒(ふうとう)を差し出して、
「先生が行ければいいんだが、これから大切(たいせつ)な会議(かいぎ)があってな。神崎のとこは、お前の家がいちばん近いんだ。頼(たの)むよ。大事(だいじ)な書類(しょるい)が入ってるから、ちゃんと届けてくれよ」
いつもなら、え~っと思うところだが、つくねのことを知る絶好(ぜっこう)のチャンスだと思い二つ返事(へんじ)で引き受けた。教室へ戻(もど)ると、水木涼(みずきりょう)と川相初音(かわいはつね)が待っていた。さっそく、しずくは二人を誘(さそ)ってみた。でも、涼はつまらなそうな顔をして、「私はパスね」と言ったきりそっぽを向いた。初音の方は申し訳(わけ)なさそうな感じで、
「あたし、これから塾(じゅく)があるの。もう行かなきゃ。ごめんね」
――二人と別れたしずくは、先生に書いてもらった地図(ちず)を片手(かたて)につくねの家へ向かった。そこは確(たし)かにしずくの家の近くなのだが、今まで足を踏(ふ)み入れたことのない場所(ばしょ)だった。何だか、見るものすべてが新鮮(しんせん)に見えた。
「このへんなんだけどな~ぁ」しずくは地図を見つめながら呟(つぶや)いた。
しずくが足を止めた場所は、古ぼけたアパートの前。しずくは口をあんぐりと開けて、
「まさか、ここ? ここなの!」
<つぶやき>初めて訪れる街(まち)を歩くと、何だがワクワクしません? 何か発見(はっけん)できるかも。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。