松阪牛
最近、テレビの食レポを見ていると、口に入れた瞬間に目を大きく開け、背筋を伸ばして、ウマッと叫ぶ。その後に、ジューシー、軟らかい、甘い、溶ける、絶妙なバランスなどと言う。何も褒める言葉がないと、言葉が出ないほどの美味しさとかクセになる美味しさなどと誤魔化す。食レポで、これは口に合わないとか、もう二度と食べたくないという言葉を聞いたことがない。本音が言えないタレントやレポーターが気の毒になることもある。女性の局アナが黒マグロの赤身を食べて、「甘くて柔らかい」と言っているのを聞いて、硬いマグロの刺身があるのかとビックリしたことがある。京都の一子相傳の半熟鶏卵が有名店で、隣にいた女性が「このお粥さん、ふっくらと柔らかく炊いてある」と言っているのが聞こえた。お粥を褒めることが出来るのは京都の女性ぐらいかなとそのとき思った。地方に食べに行きたい所がいくつかあった。その一つが松阪牛で、松阪では金銀の店が有名だという。和田金と牛銀という店でどちらの店に行くか迷ったが、前から名前を聞いていた、すき焼きを「寿き焼」という和田金に予約して行った。予約の5分前に店に着いた。準備が出来るまで、なにか団体専門の旅館みたいな感じのする広いロビーの一階で待つように言われる。
テーブルのある和室に通された。テーブル席は座るのが辛くなってきた年寄りは助かる。仲居さんが炭火起こしから始める。外国人ならこんな演出を喜ぶだろうなと思う。
仲居さんが付きっ切りで調理して取り分けてくれる。調理方法は関東が割下を使うのと異なり、砂糖と溜り醤油と少量の出汁で調理する。和田金の自社牧場で飼育したというお肉がでてきた。あれと思うほどサシが大まかなお肉だった。
三重県で認定した松阪牛ブランド業者は松阪牛協議会と有)和田金と2業者となっていた。消費者にはその差がよくわからない。和田金には松阪牛を全国区に広めたというプライドで協議会に加わらないのだろうか。松阪牛協議会のサイトに特産松阪牛特徴というのが出ていた。その一つが「眼で見えないほどのきめの細かいサシ(霜降り)」だという。眼に見えないほどのサシでは、ど素人には肉の良しあしなんて判らないのも無理はない。金箔がのっている前菜がでてきた。
2、30年前に山の中の老舗旅館の料理に金箔がのっていた。久しぶりに飾り金箔に出会った。これも外人向けなのかな。ウマッと叫びたかったがそうもいかなかった。
甘みが強い「寿き焼」も砂糖が貴重な時代の味を守っている老舗の味と思えば納得する。松阪の老舗店で、自社牧場生産牛の「寿き焼」を食べさせてもらったという感じだった。