白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(318)澁谷久代著「ぼちぼちいこか 今日も前を向いて」を読んで

2018-05-19 10:15:39 | 読書
澁谷久代著「ぼちぼちいこか 今日も前を向いて」を読んで



元松竹新喜劇女優 滝由女路こと澁谷久代さんは二年前2016年5月「膵臓がん・ステージ4」を告知された この本は彼女の壮絶な闘病記のように見えるが そこは「喜劇役者」渋谷天外の女房、楽しくおもろい闘病生活を綴っている
告知を受けた彼女が一番思ったこと 澁谷天外こと「おっちゃん」を残して死ぬわけにはいかない おっちゃんの芝居の切符の手配はどうするのか 犬の世話は誰がするのか
この年は天外と結婚して25年目を迎える年だった

医者に余命を聞くと「三か月ですかね」
ステージ4の5年生存率2%未満

とにかく死ぬわけにはいかない
どうせ死ぬ命みんなで楽しんだらええやん

まず やりたいことをやっていこう

バンド率いて歌いたい
実はこの年BOROの協力のもと夫婦の25週記念としてネット配信する積りで吹き込んだアルバムが企画中であわててCDにしたばかりだった アルバムはジョー中山の「ララバイオブユウ」 越路吹雪の「ろくでなし」「大阪の女」「浪花恋しぐれ」(天外セリフ)という曲が収められている それを中心としたライブ 
8月「澁谷久代オンステージ<夢の路>」道頓堀ZAZAハウスにて
BOROらのゲスト 一流ミュージシャンによるバンド
わずか150といえそなかなか小さな劇団では満員に出来ないZAZAを満員札止めにして
公演は成功に終わった 急遽販売したCDも売れに売れた

この公演の二日前 これも生まれて初めての経験をした 映画出演だ
井上泰冶監督作品「すもも」がそれだ 幕末の信州が舞台の身障者と教育がテーマの時代劇で里見浩太朗さんがちょこっとゲスト出演した映画で天外夫婦は農民の夫婦の役だった天外が監督に事情を話し 「夫婦で画面の隅に出して」と頼んだ結果だった

さらに9月なんと25年ぶりに女優として舞台に立った
新喜劇の曾我廼家寛太郎が日頃演技指導しているサークルと新喜劇の若手がコラボする公演で題名は「裏町の友情」演出は天外で 昔娘役ででた芝居なのだが今回はその母親役
久しぶりの舞台は全く声が出ず 素人さんの中で一人うわずって天外に「お前あがっているのとちゃうか」と言われる始末

さらに翌2017年6月 アメリカ・ロスアンゼルスのワインバーでライブコンサートを行った 「ララバイオブユウ」「ろくでなし」「愛燦々」「サン・トウ・アマミー 」「フライミートウザムーン」これらを普段はワインを提供しそのバックで生演奏を聴かせるバンドをバックに歌い上げた

これらの目を見張る活動は彼女のFacebookで我々はリアルタイムで知ることが出来た
その破天荒な生き方に感動した読者が日に日に増えて行った

その文章のラストには
「今日も元気玉イッパイいっぱい集めて楽しく過ごしましょうか
よろしゅうお願いいたしますぅ~~!!」

で締めくくられる

彼女 澁谷久代は「高田浩吉劇団」のバンマスと女優の間の子供で母はやがて松竹新喜劇に入団して「瀧見すが子」と名乗って幹部女優の一人として活躍していた 高卒の頃(1975) 母が藤山寛美に「そういやあお前の娘どないしてるねん 女優にならへんのか?」と言われ すでに呉服屋に就職を決めていたのを辞めて入団 滝由女路と名乗る 名付け親は寛美と当時劇団付の作家香川登志緒先生 

その翌年2代目澁谷天外の息子天笑が入団
母親に「気いつけや あの男は」と小指を立てて「あれはこれが早いからな」
当時天笑は学生時代「子供が出来て」結婚した嫁と二人の娘がいた
劇団の二世通し 寛美はこのコンビを売り出そうと画策 共演も増えた
そして若い二人は結ばれるべくして結ばれる
これが寛美にバレて 当時は劇団員同士の恋愛はご法度、(自分のことは棚に上げて)すぐにほされた
 
当時天笑が干されて東京に行ったという噂は近くにいた僕らにも聞こえて来た 
しかしそれが劇団内恋愛だとは知らなかった
そして東京に出た天笑はとある有名女優との恋に落ち マスコミを賑わせる
kとの同棲だ 僕はこの頃本多劇場に梅沢公演を見に来た二人を見ている
kが大スターのように立派なコートを羽織っていたから お正月公演だったと思う その脱いだコートを後ろで抱えていたのが天笑だ 
これによって天笑は新喜劇を休団させられる

実は後に中座の新喜劇公演でこの二人を共演させたのは僕だ 
天外こと澁谷喜作 作の「おくてと案山子」という本だ
ダメで元々の提案だったが 巧い具合に誰も反対するものがいなくて拍子抜けだったことを覚えている
この本を読むと滝ちゃんは反対だったろうなあ

僕が新喜劇に関わった頃は滝由女路はもうすでに劇団を辞めていて芝居でご一緒したことはなかったが天外が個人事務所「オフィスてん」を作った頃はよく今里のマンションにお邪魔したのでちょうど同居し始めた天外の娘さん共々お世話になった

今月おっちゃんは東京に他流試合に出掛けている
友人の勝野洋さんの自主公演「スナック・ラ・ボエーム」に出演中だ
なんとうらぶれたオカマ役だ
稽古が長いため その間滝ちゃんは病院に入って おっちゃんの帰りを待っている

この5月で告知から丸3年を迎える
余命3か月が3年だ

         (5月19日)

追記
6月8日 澁谷久代さん死去

     これまでの頑張りに拍手を送りたい
     そして残された天外氏の頑張りに期待したい



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