白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(117)寅さんの愛唱歌(1)

2016-08-06 07:48:44 | うた物語
寅さんの愛唱歌(1)

今年は渥美清が亡くなって20年とやらで次々と特集番組が組まれている(命日は8月4日)

「フーテンの寅」 第一作を改めて見た
 
この映画で酔っ払って御前様のお嬢さん(マドンナ・光本幸子)と
「こーろーしたいほどほれてはいたがー」と歌っている歌は北島三郎の「喧嘩辰」という曲だ

好きなシーンなので少々長いが採録すると

サクラを嫁に出し気落ちしている寅のために連れ出して
初めてやった大井オートレースで2000円も勝った冬子は寅に
「焼き鳥」(BGMに「喧嘩辰」が流れる)を奢る

その帰り道(帝釈天参道)

冬子「こーおろーし たいほーどー ほーれてーはいたがー」
寅「しー!しっ」
冬子「いいじゃないの 歌ったって <口笛は幼き頃の我が友よ 吹きたくなれば 吹きて遊びき>・・・うふふ こーろーしーたいほーど」
注・石川啄木の本歌は「晴れし空仰げばいつも口笛を 吹きたくなりて 吹きてあそびき」

(題経時山門

寅「お嬢さん みんな寝てるんですよ!ね、ね!」
冬子「じゃあ寅ちゃん、私たちも休みましょうか」
寅「そうですね」
冬子「じゃあ、寅ちゃん・・・」
寅「へい」
冬子「さよなら」(戸を開く)
寅「あ、これ」(ハンドバッグを渡す)
冬子「どうも・・ありがと」(戸から手を出す)
寅(その手をそっと握り)
冬子「おやすみなさい」・・・「さようなら」
寅「・・・・・」
冬子「ゆーびもおーふれずーに わーかれえたぜー」
歌声がきえるまで見送る寅 至福の顔 
握って貰った手を見つめ 参道を歌いながら歩く
寅「こーろーしたいほーど 惚れてはいーたーが とくりゃあ!
ゆうびもふれずーに わーかれーたあーぜ
浪花節だと 笑っておくれ
野暮な情けに生きるより(注 元歌はケチな情け)
俺は仁義にいきてえーゆーく(注・元歌は俺は仁義を抱いて死ぬ)」

(寅 とらやを通過して行ってしまう)

このあと有頂天になった寅は冬子が「親戚になる男」がいることを知り奈落に突き落とされ又旅に出るという展開になる 
この有頂天ぶりが大きければ大きいほど その落差が大きくなるという重要なシーンである

ところで第二稿まではこの歌は菅原洋一の「知りたくないの」であった

<題経寺門前>

冬子「あーのひとの ことはー 忘れてほしいー(門前でそっと手を出す)
寅「・・・・}(思い切って握手する)
冬子「(ニッコリ笑って)おやすみなさい
寅「(ぞくっと震えて)おやす・みなさい」
冬子「あなたーの あいが まーこーとなら ただそれだけで うれしーいーの」と去る
茫然と見送る寅 銀鈴をふるような冬子の美しい唄声が森の精のように闇に消えて行く
寅 神妙な顔でペコっと頭を下げ引き返し始めるが 次第に表情がゆるみ やがてその口から朗々と歌声が流れ出す
寅「あなたーの 愛が まーことならー ただそれだけーで うれしいの」
夜のほとんど閉まった参道を寅 踊るような足取りで歌いながら歩いて行く

さてどちらの歌が正解であったのか
                   以下次回

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