白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(401) 大塚克三と壷井栄

2022-01-11 11:30:20 | 演劇資料

大塚克三と壷井栄

現在小豆島でBKがドラマ「二十四の瞳」を撮影中だ ドラマに出演している紅壱子や田村ツトムはがんばっていることだろう 久しぶりのドラマなので張り切っている きっといい出来になるだろう 楽しみだ

さて話は昭和の頭に戻す 道頓堀に新しく出来た松竹座の前に「三亀」という芝居茶屋があった そこの息子の大塚克三は家業の芝居茶屋より絵描きになって身を建てようと考えて小豆島の坂出の奥内旅館に泊まり海や段々畑や茅葺き屋根などのスケッチをやっていた 克三はそこでモデルを頼んだ地元の娘と恋に落ちる 克三はその後別府にスケッチ旅行の足を伸ばすがその娘は追っかけてきて二人は結ばれる 娘は初めてだった 島にもどったら二人のことは小さな島中の評判になっていた 克三は大阪にもどり姉に相談すると姉はこれで家業に精を出して貰えると縁談を勧めるが当の克三がはっきりしない そのうちその娘は遠縁の男との縁談が纏まり嫁入りすると断りを入れてきた 三亀は御祝いに大枚の祝い金を出した 克三は絵描きになる夢は諦め 舞台装置家の山田信吉に弟子入りしてその道を目指す

さてその娘の栄は里帰りしていた作家壷井繁治と結ばれ壷井栄となる 

本人も作家の女房の手習いと作家となり「二十四の瞳」などを残す

さて昭和32年 大阪文楽座で友人宇野千代の「おはん」を観に来た時 番付に装置 大塚克三の名前を見つける 一緒に観ていた妹は逢うことを勧めるが栄は頑なに許否をする

その後新幹線が出来てからも何度か大阪に芝居を見にきたが二人は一度も逢うことはなかった

克三は栄の死後10年経つた昭和51年再び坂手を訪れ「80になり仕事も辞めたのでまた坂手に参ります」と言って帰ったが翌年死去

死後克三のアトリエを整理していたら壷井栄の戦前からの著作が大量に出て来た