白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(136)梅沢劇団「芸者の意気地」

2016-09-09 08:51:38 | 梅沢劇団

[六才の歳の六月六日 舞(おど)り始めのその時から 
大太鼓(おおどう)小太鼓(こどう)琴、三味線 茶道、華道は言うには及ばず
行儀作法に至るまで 習い覚えて看板持(いっぽんだち)
十二の歳には あれが柳橋の菊次かと
言われるまでの芸者になったんだよ
憚りながらこの菊次 芸は売っても身は売らぬ
辰巳芸者の心意気」


今月の新歌舞伎座の梅沢劇団の芝居に武生元座長が久しぶりに出演するというので観せてもらった
(9月7日一回公演) 僕はこの芝居はかって武生さんの菊次と前川さんの菊次で見ている
これは劇団を愛するが故の小言だと思って聞いてください

一場 川端 香西かおり演じる菊次が時代錯誤もはなはだしい人力車で登場するのはご愛敬だと目を瞑っても川端のセットに柳がないのは許せない ドロップの前にはせめて柳と切石と石垣くらいは並べて欲しい これじゃあ最初から飛び込めやしない この場を見ていて気持ちが悪いのは飛び込みを止めるのが菊次ではなく女中だということ その女中が菊次の正体を喋ることだった 聞いてみるとこの番頭はもともと梅沢清座長がやっていた役で(菊次は新派あがりの女優さんだったらしい)飛び込みはやはり菊次に助けられる 菊次は数馬に送る五両を番頭に渡してしまったので女将に金を借りる 最後に名前を聞くが
「きれいなお月さんに浮かれ出た酔っ払い芸者の只の座興だと思っておくれ」
と名前を教えないで去っていく(この景もラストと同じ月が出ていたという)
菊次に助けられた番頭は帰って主人に事の次第を話すが怒らせ首になる そこから発奮して五年経つ 商売は大当たり 今や大店の主人となって次の景でかって助けてくれた恩人芸者を探しているということらしい これなら判る
 
二場 お座敷 

冨美男さん演じる姐さん芸者の仇吉はお母さんの龍千代さんがやっていたという 
若き日の武生は板前の玄太 全身にイレズミが入っていた 呼ばれて出て行ってお辞儀するときにチラッとイレズミが見え思わず引っ込める 下座に合わせて菊次を呼びに行く花道の場面はカッコよさから女たちがキャーキャーいったらしい この役をやって芸者衆のひいきが増えたころ 数馬役に回される 「こんな詐欺師みたいな二枚目は嫌だ」と駄々をこねたら 菊次役の女優さんから「悔しかったら私を惚れさせてごらんな」と言われつっころばしの二枚目から魅力ある役に仕立て上げた
昔の恩人の芸者を探して店を訪れた番頭(今じゃ大店の主人)が菊次と仇吉の会話を聞いて菊次を助けることになる

三場料亭の庭 
桜の大木一本では余りにも寂しすぎる 何とかならないのか
菊次が誰彼もなく殺していくが 本来は仇吉と女将と板前の玄太の三人のみである
特に玄太はイレズミと白フンドシ一丁の姿でかなり長い目の立ち回りをしたらしい
立ち回りが終わり 菊次桜の大木にもたれ夜空の月をを見上げ「いい月夜だねえ」
あの夜と同じ月が出ている
数馬の探す声を聴いて持っていた匕首で自決する
そして数馬と今や大店の旦那になった番頭に抱えられながら菊次は息絶える 
菊次がなかなか死なないので仇吉の冨美男が怒って帰るシーンは忠臣蔵の浅野の切腹場面のパロディになっている
ゲストの香西さんが気持ちよく菊次をやってもらう為回りの劇団員の演技力が必要だが
それにしては余りにメンバーが弱すぎる

<舞踊ショウについて>

舞踊ショウはいつもながらブツギレのショウである 暗転が多すぎる 
昔はアッという間に終わったが長く感じるのはその為か、
つなぎの女性の踊りのアレンジが同じ感じなので飽きてしまう
アレンジャーを雇う金くらいあるだろう(ショウは音楽が第一である)
冨美男さんの踊りと相舞踊しか見せるものはないのだから
女性の踊りは簡単に済ませて(着替えのために必要なことは判るが)
昔みたいなコミックショウも入れてみたらどうだろう 
冨美男さんの立ち役は申し訳ないが魅力が半減 
立ち回りを見せるのなら昔の龍を使ったらどうか
吊ものばかりのセットなのでもう少し立体的に出来ないものか
一番盛り上がっていかなければなならない舞踊ショウが尻すぼみになっている
昔のバラエティーみたいなものを復活出来ないものか
最後の大円団 銀メラの発射はこれが限界なら僕なら同時に上から降らす
今ならそれこそ尻すぼみだ
こんなワンパターンなショウを繰り返していたら客は離れて行く一方だ
言いたいことを羅列してみたが再考を期待します

来年の「お笑い勧進帳」は現在のメンバーで出来るのか心配だ ああ!