白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(133)「ある夜の忠治」について

2016-09-03 06:34:11 | 梅沢劇団
  
梅沢武生の少年期の思い出話 
夜中フト目を覚ますとコリコリという音がする 何だろうとみると父梅沢清の戦友で大原さんという人が掻巻をかぶってガリ版の原稿を書いている音だった 進駐軍に台本を提出して許可を貰わないと上演出来なかったので大原さんが台本を書いていたのだ 大原さんは肺病を患っていて時折コホンコホンと咳をしながらの作業であった 刷り上がった原稿を見て父親がダメだしし それに反発して意見を言う そんな延々と続く二人の口論は幼い武生にとって羨ましい光景だった その後武生は学業に専念するため劇団を一時離れる 戻ってきたときには大原さんはいなかった

その大原さんが残したといわれる芝居に「ある夜の忠治」がある
そのラストシーンを採録する


   その時 鮫の権三一家 木戸より出る

権三  弥太、土手下の殺しは手前だな
弥太郎 何を この野郎
権三  うるせえ 弥太 神妙にしろ
忠治  喧しいやい
権三  なに、てめえは誰だ
忠治  俺の名前が聞きてえか 聞きたかったら聞かしてやろう 耳の根さらってよおーく聞け 
    俺の名前を手のひらに三度書いてペロリとなめりゃ 瘧が下りる熱が冷める まこと男の守り本尊 
    上州は佐井郡ためがいの荘、国定村 長岡忠治 人呼んで国定忠治のツラをよおく見ろ
権三たち 忠治御用だ
忠治  おかみさん呑み代はここへ置いとくぜ 
    余った金があったなら可愛い子供に何か買ってやっておくんなせえまし 
    弥太、何にも土産はなかったが 土手下の殺しは誰でもねえ この俺だ
権三  忠治 御用だ
忠治  喧しいやい(析)スポット残し

     忠治権三一家との立ち回り
     決まって

忠治  じたばたすんねえ 表に出ろ(析)スポットアウト

  盆回って    その外
    雪景色
    降り続く雪
    権三一家の子分たち 身構えている

子分1 来たぜ

    音楽 ムーンライトセレナーゼが流れる中

    忠治出る
    立ち回り  一家皆殺し(音楽消え雪音のみ)
    吉兵衛出て忠治に挑む
    忠治相手が吉兵衛と知って刀を納め捕まろうとする
    吉兵衛拝みながら捕らえようとするが 弥太郎お吉に止められる
    吉兵衛 思い直し忠治の首に通行手形を掛ける
    忠治それを見て男泣き
    吉兵衛 三度笠 弥太郎合羽を忠治に差し出す
    忠治受け取って三人顔見合わせて  泣き上げ
    忠治行きかける それを止める弥太郎
    それを引き戻す吉兵衛

弥太郎 親分
忠治  弥太郎

    忠治決まって(析)(東海林太郎の「赤城の子守歌」がかかる)

    雪降りしきる中 忠治花道へ入る キザミにて   幕


劇団に戻った武生はまず音響係からの再スタートだった
親父清の忠治のかっこよさに酔ってしまった武生は本来は雪音の太鼓だけでやる立ち回りに大好きな「ムーンライトセレナーデ」のレコードをかけてこっぴどく怒られた 怒られても怒られてもかけ続けた ある日仙台での公演で進駐軍がジープで4台でやってきて 通訳の説明を聞いて神妙にみていたがムーンライトセレナーデが流れるとヤンヤヤンヤの大騒ぎ 舞台の上一杯にタバコ ガム チョコレートが投げ込まれた 翌日には箱ごとのタバコ 缶詰 ソーセージが届けられた 清は洋もくを吸いながら「いい曲を使ったな」とニヤっと笑って言った
 
それ以来梅沢劇団はラス殺陣はズーッとグレンミラーの「ムーンライトセレナーデ」で演じている