田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

山崎豊子にはまる

2019-12-26 16:07:55 | 本・感想

 今さらの感もあるのだが、山崎豊子の作品にはまってしまった。彼女の社会の中の矛盾を鋭く突く小説の数々にすっかり魅了されてしまっている。そしてまた、彼女の小説のスケールの大きさが私がはまる一つの要因にもなっている。

 

 年の暮れである。私の2019年を特徴づけるあることに触れておくことにしたい。

 10月の初めころだったと記憶している。ある日ぷらっと中古本販売の「ブック〇〇」に立ち寄った。何気なく手にしたのが山崎豊子著「沈まぬ太陽」だった。一冊108円の文庫本で5冊分冊になっていた。そこで「睡眠薬代わりにちょうど良いかも?」と購入した。

          

 これが面白かった!明らかに日本航空をモデルとしたと思われる国民航空のあまりにも腐敗した会社経営、そして人事の扱い、等々が赤裸々に描かれている。組合の執行委員長であったばかりに主人公・恩地元に対する会社ぐるみのいじめともとれる執拗な左遷人事の数々、半官半民の親方日の丸体質の会社から甘い汁を吸おうと群がる人たち、等々。さらには大型ジャンボ機墜落事故に対しての責任逃れの対応、等々…。もう魅力満載だった。

 私は一気に山崎豊子本にはまってしまった。(単純?)それからは「ブック○○」通いが始まった。「華麗なる一族」「大地の子」「不毛地帯」「白い巨塔」とこのところおよそ3ヵ月、山崎豊子作品に没頭した。ちょっと大げさに言うと「寝る間も惜しんで」状態だった。

    

 私は拙ブログにおいて読書のことには触れないようにしてきた。それは私のようなブログおいて、いわゆる「書評」のような形になることを私は恐れていたのだ。「書評」ほど、その人間の読解力、そしてそれを表現する力など、「書評」をする者の力が如実に現れることを恐れたからだ。だからここでも一つ一つの作品についての感想には触れないようにしたい。

 だからここまで山崎豊子の五つの作品を読んできて、山崎本の魅力について考えてみることにしたい。(これって「書評」??)

 魅力の第一は「スケールの大きさ」である。「沈まぬ太陽」では、恩地元が左遷されて勤務するイラン、そしてナイロビ、さらには航空機墜落事故に伴う御巣鷹山と舞台が展開し、「大地の子」、「不毛地帯」では中国、極東ロシアなどに及んでいる。山崎の凄さはそれらの地に自ら赴いて取材を敢行しているらしいということだ。「華麗なる一族」、「白い巨塔」は地域的な広がりはないものの、巨大な組織である銀行、病院を舞台としてその状況を余すところなく描き切っている。

    

 魅力の第二は「徹底した取材力」である。各作品を執筆するにあたって山崎は執拗に取材を繰り返し、銀行でも、商社でも、病院でも、完全に自分のものにしてから執筆にとりかかっているようである。特に山崎が渾身の力を注いで完成したという「大地の子」の執筆にあたっては数度にわたり中国を訪れ各地を取材している。この取材時には当時の中国共産党総書記だった胡耀邦氏の知己を得たことからより深く中国内部を観察することができたようである。ともかく、どの作品においても作品のスケールの大きさと共に、微に入り細に入り細かな描写にもその才を発揮している。

    

 第三には「ストーリー展開の鮮やかさ」である。私の場合は、どの作品でも2~3ページ読むと、もう作品の中にどっぷりとはまり込んでしまう。それほど彼女の筆力が優れているということなのではないだろうか。そして彼女の作品は必ずしもハッピーエンドではない場合があるということだ。「沈まぬ太陽」では主人公・恩地元の最後は再びアフリカの僻地ナイロビに飛ばされてしまうし、「華麗なる家族」では倫理観の欠片もない阪神銀行頭取・万俵大介に対して異を唱える正義漢の長男・鉄平は自殺に追いやられるし、「不毛地帯」の主人公・壱岐正は会社(近畿商事)のために身命を賭して貢献するが、最後は自分から身を引いてしまう。ただ一つ、「白い巨塔」はなりふりかまわず自己の栄達を画策する主人公の外科医・財前五郎が誤診で訴えられるも裁判(地方裁判所)で無罪を勝ち取った。その裁判において医師の良心を示し、財前に不利な証言をしたとされた同僚(里見脩二)は大学を去ることになって小説は終わりを迎えた。ところが、読者の多くがあまりにも理不尽な終わり方をしたストーリーに疑問の声を挙げたことを受けて、山崎は続編を書くことになった。その続編において財前はさらに栄達を願い学術会議会員選挙に立候補をし、あらゆる手を講じて当選を勝ち取る。一方、地方裁判で敗訴した遺族は高等裁判所に上訴した。その結果、裁判は第一審の結果を覆し財前の敗訴となる。同時に財前は自らがガンに侵されて志半ばで死を迎えるという結末を辿った。

    

 ともかく一時も読者を離さないストーリー展開は見事の一言に尽きる。

 山崎豊子は「社会派作家」と呼ばれているが、銀行、商社、病院、航空会社、などの内幕をまるでノンフィクションに近い人間ドラマとして描くところに大きな魅力があるようだ。そういう点で私は山崎の初期の作品である大阪の商人や風俗を描いた作品には今のところあまり興味がない。私は昨日「ブック〇〇」から「二つの祖国」(4分冊)、「運命の人」(4分冊)を購入してきた。お正月に楽しもうと思っている。

 今さらながら山崎豊子にはまってしまっている自分である。