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北大法学科公開講座№4 多文化主義は死んだのか?

2019-09-02 15:43:36 | 大学公開講座

 外国人の移民を積極的に受け入れてきた国ドイツのメルケル首相が「多文化主義は死んだ」と発言したという。しかし、講師はこの言に疑問を呈する。はたして多文化主義は死んだのだろうか?

 ※ 石狩川河岸遡行トレッキング関連の投稿が続き、8月末に終えていた「北大法学研究科」の公開講座のレポが遅くなってしまった。遅ればせながら最終講義の内容をレポする。

 北大法学研究科附属高等法政教育研究センターの公開講座「外国人の流入と日本社会の変容」の最終回第4回講座はお盆休みを挟み8月22日(木)夜に開講された。第4回目は北大大学院法学研究科の教授で、高等法政教育研究センター長である辻康夫氏「多文化主義政策の妥当性をめぐって」と題して講義された。

               

 辻氏はまず「多文化主義」ついて「文化的・民族的マイノリティの文化・コミュニティを尊重・支援し、全体社会への統合を図る考え方」と規定し、講義を進められた。多文化主義に対して、移民を自国に同化させようとする「同化主義」があるという。(私の理解ではフランスは同化主義を取っていると聞いている~辻氏から伺たのではなく)

 この後、辻氏はマイノリティ集団の存在の必然性や、同化主義の問題点などについて触れ、多文化主義の必要性を強調された。

 辻氏の講義を拝聴していて、私はメルケル首相率いるドイツが長年にわたって多文化主義に基づく移民政策を実施してきたが、近年台頭してきたヘイトクライムの多発や、それに和する国民の増加に抗しきれなくなり「多文化主義は死んだ」というようなことを発せざるをえなくなったのではないか、と察したのだが…。また、イギリスのジョンソン首相の誕生も多文化主義が危うい状況となっていること、などなど。辻氏ご自身がこうした状況に危機を感じられているのかと思われた。

 辻氏の講義は19世紀から20世紀前半の差別的同化政策の弊害を述べられるなど、多岐にわたって人間の差別の歴史社会の病理について述べられ、同化主義の誤りを正した。ただし、辻氏は「多文化主義は万能薬ではない」とも述べられた。例え多文化主義を取ったとしても、「文化」のあつれきがあったり、差別は依然として存在したりするという。また、他国に定住したムスリム・コミュニティの内でのあつれきも存在するという。

 世界のグローバル化、人々の流動化がますます進む中において、もはや同化主義は受け入れられるはずがなく、多少の問題は内在しつつも世界は多文化主義を死なせてはいけない!というのが辻氏の結論であると受け止めた。その多文化主義の問題を解決するためには、①文化のすり合わせ、②差別の防止、③ローカルなムスリム・コミュニティへの包摂、④国際関係改善の努力、などが必要とした。 

 全4回の講義を通して、高等法政教育研究センターは出入国管理法の改正をはじめてして、今後移民制度が我が国に導入されることは避けて通れない道と判断されているように感じた。そのうえで、外国人をどのように受け入れていくべきかについて論じた講義と受け止めた。

 一方で、私が購読している月刊誌「文藝春秋」の8月号の巻頭エッセー(?)において作家で数学者の藤原正彦氏がタイミングよく「ヨーロッパの轍」という一文を寄せている。藤原氏は自らの体験も踏まえて、多文化主義を推し進めたヨーロッパ各国においていかに疲弊が進んでいるかを述べられ、我が国の外国人出入国管理政策について疑問を呈している。

 高等法政教育研究センターの考え方も、藤原正彦氏の指摘も頷ける部分がある。はたして我が国が今後どのような道を辿っていくのか、一人の国民としてこの問題に関心を持ち続けたいと思っている。