田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

奇跡の高校 札幌新陽高校の実像

2018-12-21 15:31:15 | 講演・講義・フォーラム等

 新陽高校の若き荒井優校長は力むこともなく、いやむしろ淡々と自校の実像を語った。その意欲的な実践の裏には、荒井氏の豊かな体験、そして確かな考え方があった。僅か3年にして廃校の危機に遭遇した高校を奇跡的に回復、そして躍進を続ける新陽高校の真の姿を見た思いだった。 

 12月17日(月)午後、かでる2・7の研修室において、北海道教育委員会が主催する「子ども・地域生活習慣向上プロジェクト事業全道フォーラム」が開催され、先にレポした「人権教育指導者研修会」同様、門外漢ではあったが一市民として参加した。

 そのフォーラムの基調講演に登壇したのが札幌新陽高校々長の荒井優氏だった。

 荒井氏は「社会教育を取り入れたら学校教育が変わった~新陽高校の改革の事例から~」と題して120分にわたって講演された。

           

       ※ 荒井氏は写真のようなラフな格好で登壇した。併設する保育園の職員のユニフォームだということだ。

 まず新陽高校のことを「奇跡の高校」と称したのは、どうやら朝日新聞らしいのだ。朝日新聞は新陽高校の実践を3回シリーズで紹介している。その新聞記事をウェブ上で見つけることができたので、その新聞記事を紹介するのでお読みいただきたい。

           

           ※ 少し文字がつぶれて読みづらいが、ぜひ一度目を通してください。

          

                     

 この新聞記事をお読みいただくと、新陽高校が取り組んでいる改革のおおよそがお判りいただけると思う。

 その改革をリードするのが荒井優氏である。その荒井氏の履歴が大変興味深い。

 まず、荒井氏は新陽高校の創設者である荒井龍雄氏の孫であり、衆議院議員の荒井聰氏の息子だということである。荒井氏が新陽高校の校長として招かれたのは、理事長を務める父親の聰氏からの要請に応えたということだ。というのも、当時の新陽高校は定員を大きく割り、校長が毎年のように変わり学校閉鎖も寸前といった状況だったという。

 父親からの要請を受けた優氏はなかなか特異な経歴の持ち主である。まず学生時代(早稲田大学)の2年次に1年間休学して「YOSAKOIソーラン祭り」の第5回目の実行委員長を務めた経験があるという。そこで彼は一つのことを成し遂げる醍醐味のようなものを感得したのではないだろうか。そして大学卒業後は、ソフトバンクに入社して、社長室に配属され孫正義氏のもとで薫陶を受けたという。そうした中、東日本大震災が起こり、孫氏より東日本の復興に関わるよう指示されると、(公財)東日本大震災復興支援財団を起ち上げ、そこの専務理事に自ら就任し、東日本地域の復興に携わるようになったそうだ。           

 荒井氏はこの復興支援財団に関わるようになったことで、これまで交流のあった人たちとはまったく違った分野の人たちとの知己を得ることとなる。例えば、公民館学で著名なジャック天野こと天野和彦氏(福島大特任教授)、水俣市で地元学を提唱する吉本哲郎氏、NPO教育支援協会代表理事の吉田博彦氏、等々…。それまで付き合いのあったビジネスパーソンとは一味も二味も違う方々と出会いによって、教育への可能性を感じ始めたという。

 そうしたタイミングでの父親からの校長就任要請だったそうだ。前出の吉本哲郎氏に新陽高校々長に転身することを報告した時、吉本氏から「あきらめろ! 覚悟しろ! 本物を作れ!」という言葉をいただいたという。

  2016年2月1日、荒井氏は若干40歳で札幌新陽高校の校長に就任した。就任時は定員280名のところ155名しか入学しなかった新入生が2017年4月には322名の新入生が入学するまでにV字回復したという。

 荒井氏はその秘策について隠すことなく能弁に語った。早口ではあるが、けっして聞き取りにくい声ではなく、ほとばしる思いを語りたくて早口となったようにも思えた。荒井氏が取り組まれている数々の改革をここに再現するには私の手に余る。興味にある方はウェブ上に多くのレポートが紹介されているのでそちらを参照いただきたい。

          

          ※ 熱が入った(?)荒井氏は後半上着を脱ぎ捨て、Tシャツ一枚で講演を続けた。

  荒井氏はけっして剛腕を発揮するようなタイプではなく、むしろソフトな語り口で爽やかな感じを周りに与えるような好漢といった感じである。お話をうかがっていて、札幌新陽高校はますます進化していくだろうとの予感を持たせてくれた。札幌から高校教育が変わっていくのでは、と思わせるほどのインパクトのあった講演だった。

 フォーラム自体はこの後、全道各地の市町村が子どもの生活習慣向上のためのさまざまな実践の事例発表があったが、私にとってこのフォーラムは荒井氏の講演がすべてだったように感ずるほど感銘をおぼえた基調講演だった。