詩の現場

小林万利子/Arim 「詩のブログ」 詩をいつも目の前に
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桃の木

2012-03-05 | 詩を歩く
私の住んでいる町は桃の里だ。
今頃の桃の木の色は、冬枯れの様子とは
少し、違って見える。

どの木の芽も、まだ固く閉じられているが、
一足先に、桃畑の木々からは、
花の色の気配が感じられる。

桃畑の一帯が、ほのピンク色の雰囲気を、
漂わせているのは、気のせいではないと思う。

染織作家志村ふくみさんの名著『一色一生』の
一節を思い出す。

「桜が花を咲かすために、樹全体に宿している
命の色をとらなければならない」

桜の色を取り出すためには、桜の花弁ではなく、
まだ花の咲かない3月の冬の桜の木を、
切らなければならない、という。
木々の幹、枝には、もう準備まぢかの桜の色が
充満しているのだという。

「すべてのみえるものは、みえないものにさわって
いる‥‥」詩人ノヴァーリスのことばを引用して、
植物の背後の色の世界に触れている。

自然界から望みの色を生み出すためには、
一生をかけても悔いはない、と言い、
「恵みの色」を、植物の命そのものの色と捕らえ、
祈るように取り出し、見える世界へ織りあげていく、
染織家としての厳粛な覚悟が、綴られている。
詩的示唆に富む、感動的な著書だ。

今、目前に見えなくても、実在しているという、
命あるものの尊い不思議さ。

花咲く季節の手前で立ち止まり、
まもなく、踊り出ようとする桃畑の花の色を
感じるこの時期。
見えないものと、見えるもの、
無限界との境界線を垣間見るような時間は、
幽玄で美しい。



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