参院選挙中、安倍首相は街頭演説で「アベノミクスを全開に」「この道しかない」と絶叫した。憲法「改正」という真の狙いを隠すものだが、あらためて「アベノミクス」とは何なのか、まとめておきたい。
「アベノミクス」は、「何本の矢」とかいわれるが、中心は、量的質的金融緩和政策といわれるものである。
その狙いは、日銀を政権の支配下におき、超金融緩和政策を徹底させることでグローバルビジネスを展開する大企業と大手金融機関が最も活動しやすい国をつくることにある。
「アベノミクス」は、政府の説明では、日銀が強力な金融緩和政策を断行し、大量のマネーを民間銀行に供給すれば、企業や家計への貸し出しがふえ、経済活動が活性化し、物価が上がり、景気回復と経済成長が達成できる、というものだった。
しかし、この3年間、経済成長はマイナス成長に陥り、3年間の平均成長率は、最低の0.6%にすぎない。黒田日銀総裁が言っていた2%の物価上昇の目標も達成できず、先延ばしになっている。
中央銀行と金融政策の目的は、物価の安定(物価の番人としての中央銀行)、信用秩序の維持(最後の貸し手としての中央銀行)である。景気対策や経済財政政策への責任はない。それは政府の責任である。しかし、安倍政権は、政権維持のため株高を演出するために、日銀という禁じ手を使い、日銀を最大限に利用している。
超金融緩和政策は次の3つである。
① 「量的」金融緩和
年間80兆円のペースでマネタリーベース(世の中に流通している現金と民間銀行が預金の払い戻しなどに備えて、日銀に預けている当座預金残高の合計、資金供給量ともいう)が増大するように、日銀が民間銀行から国債を買い取り(国債買いオペ)、その買い取り代金を民間銀行に供給する政策。民間銀行は、莫大な国債売買益を手に入れる。
②「質的」金融緩和
日銀の供給する資金ルートを国債の買いオペだけでなく、株式市場に資金を供給し、日経平均株価をつりあげる株価連動型の上場投資信託(ETF),不動産投資信託(J-REIT)などについても、日銀の買い入れ対象に組み込んだこと。
③「マイナス金利」の導入
民間銀行が日銀に預けている預金金利(日銀当座預金金利)に対して、マイナス0.1%の金利を適用。マイナス金利で、民間銀行が日銀から預金を引き出し、企業や家計への貸し出しに向かうというもくろみは実現せず。
マイナス金利は、適用開始となる2016年2月でみると、民間銀行の日銀当座預金総額260兆円のうち、約10兆円だけに適用。民間銀行は、年間100億円の利子を日銀に支払う。民間銀行は、日銀がマイナス金利を導入すると、みずからの預金者に転嫁、普通預金金利を0.02%から0.001%に。他方、民間銀行は、実は、リーマンショック以来、日銀当座預金の基礎残高部分(210兆円)にプラス0.1%の利子を受け取っているので、民間銀行は日銀から年間2100億円を受け取っているのだ。だから、マイナス金利で年間100億円減っても、差し引き2000億円の利子収入を日銀から受け取り続けている。
一方、国民は金利が引き下げられた結果、銀行に預けている800兆円の預金(定期・普通)に対し、利子所得が1600億円から80億円になんと1520億円も減らされた。この分が銀行の利益に移転することになる。
「アベノミクス」の真の目的は、「2%の物価上昇」「経済成長」にあるのでなく、不況と低成長のもとでも、金融政策で大手の企業と富裕層に金融的な利益獲得のチャンスを与え、さらに富を蓄積することにあったのである。
「アベノミクス」の重要な特徴は、中央銀行を支配下に置き、前例のない超金融緩和政策で、政府自身が円安(輸出大企業の利益となる通貨の切り下げ)と官製バブル(バブルマネーの提供)を誘導したこと。その目的は、実体経済の成長が達成できなくなった時代にもかかわらず、なお資本の高収益を実現することにある。
一通り生活必需品を手にする「成熟社会」に到達した現代日本経済は、戦後の高度経済成長時代の幕は閉じられ、かつて繁栄したヨーロッパ諸国がたどってきた歴史のように低成長の時代を迎えている。高度経済成長の結果、生活必需品のほとんどが家庭に備わる時代になると、高度経済成長を実現した時代の条件は消滅した。日本の経済成長は、1957~1973年が9.4%、1974~1990年が4.2%、1991年~2008年が1.2%。OECDも、今後の日本の経済成長を、年1%以下と予測している。安倍政権が声高に叫んだGDP600兆円など、達成できる条件は存在しない。
近年の超金融緩和政策は、円安とバブルで、大企業と金融機関に、低成長のもとで、本来の営業利益が低迷する中で、為替相場や投資など金融ビジネスで、新たな利益を生み出すというものである。
しかし、実体経済へのテコ入れなしに、金融政策だけで経済を立て直すことはできない。格差と貧困が拡大する一方である。しかし、株高を演出することで、アベノミクスへの「幻想」をふりまき、高支持率を維持して、憲法「改正」へむけた政権基盤を確立しようとする動きは危険である。アベノミクスは、選挙対策でもある。
しかし、「幻想」はいつまでも続かない。世界大恐慌やリーマンショックなど、バブルが崩壊した歴史は数え切れない。
実体経済を立て直す経済政策への転換がもとめられている。