最近、「ヒーローズジャーニー」(英雄の旅)という言葉を知りました。これは、米国の神話学者であるジョセフ・キャンベル氏が、古今東西の神話、民話にみられる「英雄伝説」を研究した結果、そこに共通のストーリーモデルがあることを発見したものです。
①天命を知る(Calling)
まず、物語の始まりとして主人公は何かのきっかけで、旅へ使命(自分の生きる意味や役割)と出会う。
そのきっかけは、主人公が自分で見つける場合や、誰か(神、老人、天の声)との出会いや、不運な事故などさまざまだ。
主人公が不運な事故で生死を彷徨っている時に天の声を聞くみたいなパターン。
②決断して旅を始める(Commitment)
主人公は、天命によって旅に導かれるが、そこで困惑する。
「自分はその道に進むべきなのか?」と、そして多くの場合、天命を受け入れることができず一旦は旅に出ることを拒否する。
そこに自己との対立が生まれ、主人公の弱さが露呈する。
最終的には「現在の世界に留まるのか?それとも新しい世界へと踏み出すのか?」という問いかけに対して、「踏み出す」という決断をして旅を始める。
この決断は物語において重要なシーンとなる。
なぜなら、人間は誰しもが変化を受け入れることに抵抗感を覚えるもので、読者の多くは新しい世界に踏み出せずいるからである。
だからこそ、自己との葛藤に打ち勝つ新しい世界へ踏み出す主人公に感情移入して応援したくなる。
③境界を超える(Threshold)
旅を始める決断をした主人公だが、新しい世界とこれまでの世界を境界まできたところで、最初の試練にぶつかる。
本当に新しい世界へ踏み出す覚悟があるのかどうか試されるわけです。
「この線を超えたらもうあと戻りはできないぞ。お前にはこの線を超える勇気はあるのか!」といった感じで試されるとき、メンター(助言者)と出会い、その励ましを受けて、乗り越ええいく。
④仲間との出会い(Guardians)
新しい世界へ突入した主人公は、新しい経験を始めていきます。その過程で、信頼できる真の仲間と出会って、さらに成長を遂げていく。
⑤最大の試練とぶつかる(Demon)
旅を続ける主人公は、ついに最大の試練とぶつかる。多くの物語では、その試練の相手が敵(悪魔、怪物)や強力なライバルだったりする。
このシーンも重要で、主人公が「もうダメだ。」と崖っぷちに追い込まれることで、読者は物語に引き込まれていく。
⑥変容・成長する(Transformation)
最大の試練を克服した主人公は、英雄へと成長をしていく。
ごくごく普通の人であった主人公が、旅立ち、困難を乗り越えることで技量や洞察力を身につけ、英雄へ成長することになる。
読者は、その姿に感動し、勇気をもらう。
⑦試練の達成(Complete the task)
英雄へと変化を遂げた主人公は、これまでの自分の旅を振り返り、その意味を悟る。
旅の過程で経験した苦労(自己の葛藤、敵の戦いなど)や得た事(仲間との信頼など)が、統合されていき1つの結論に達する。
その結論が物語で一番で伝えたいメッセージとなる。
⑧帰還(Return home)
そして、旅は終わり、主人公は元の世界へと帰還し、物語は幕を閉じる。
日本の桃太郎も金太郎も、ギリシャ神話も、インド神話も、また世界中の各民族や各地方で語られている英雄伝説も、すべて同じ構造から成り立っているというものです。
人種も文化も言語も違うのに、すべての英雄伝説が同じストーリー構造を用いられているのは、驚くべき話です。
これは、人間が共感し感動するストーリーの構成が、人種や文化、言語を越えて同じであることを証明しているとともに、人間が潜在的にこういう生き方を望んでいるということでしょう。
確かに、言われてみれば、私が子どものころからテレビで見てきた特撮ヒーローものも、こうこう構成のドラマが非常に多いことに気がつきます。
でも、これはテレビや映画の世界だけの話でなく、私たちの日常でもよく見られることです。
私は、共産党の仕事をしていて、ここでいう「ヒーローズジャーニー」によく出会います。
ある青年は、自らの勤務していた職場で解雇され、組合に入ってたたかい共産党と出会う中で、「今度は自分が、非正規雇用で苦しんでいる若者を救いたい」と共産党の議員候補者になっています。
私は、共産党の予定候補者の個人リーフを作成する仕事にも携わってきましたが、そこで見聞きする若い共産党員の生きざまは、まさに「ヒーローズジャーニー」(英雄の旅)を現実に歩む姿です。決して、ギリシャ神話や特撮の世界の話だけではありません。
考えてみれば、私自身もこの仕事を「天命」だと思って活動しています。若い時代、まったく空っぽだった自分を救ってくれたのが、民青同盟であり日本共産党でした。共産党綱領と科学的社会主義を勉強したことで、自分を苦しめてきた元凶(端的にいえば、財界と自民党政治)を知り、それとたたかうことなしに、自分と同じように苦しんでいる青年を救うことはできないと考え、民青同盟の専従者の道を選択しました。これは私の「天命」だと思っています。
私はいま、息子の不登校という難しい問題にぶつかっていますが、この4ケ月間、この問題に真剣に向き合い勉強する中で、これまでの自分の人生では知りえなかった方に直接、また書物を通じて出会い、多くの知見を学んでいます。人間に対する洞察は、この4ケ月で非常に深まったと感じています。息子の不登校は解決途上なので安易なことは言えません。息子につらい思いをさせた親の責任も感じてはいます。しかし、息子のおかげで、私たち家族のあり方を根本からふり返る機会になりましたし、私も人間的に成長させてもらっていると日々感じています。「英雄の旅」とは、試練をくり返しながら進んでいく、こういうものかと思います。