「社会運動再生への挑戦 歴史的せめぎあいの時代を生きる」(山田敬男著)

2014-09-20 21:10:11 | 私の愛読書

労働者教育協会会長の山田敬男さんの本、「社会運動再生への挑戦」が実に面白い。

特に第2章「これからの社会運動のあり方を考える」は、世代継承に日々悩む活動家は、必読の文献ともいえる。

筆者は、社会変革の大きな可能性とともに労働運動の困難を直視している。いま、職場や地域でぶつかっている困難な問題が、90年代半ば以降の新自由主義的構造改革によって、日本社会が、職場社会が激変し、新しい矛盾と困難性がもたらされていると指摘している。そのうえで、今日、「政治主体形成」とともに、社会の一員として生きるまともな人間集団、市民集団をつくる「社会的主体」の形成という課題を提起している。職場や地域において集団的関係や「まともな人間関係」が奪われているままでは、政治的な自覚を持った活動家の育成はすすまない。筆者は、「政治的主体」の形成(これは誰でもわかることだが)と区別して、「まともな人間関係」の再構築を意識的にすすめる「社会的主体」を特別に重視しているが、これは実に大事な問題提起だと思う。

その他、運動の「世代的継承」という問題意識から、私が特に感心した部分を項目だけ羅列すると…

・「納得」と「共感」にもとづく運動

・職場における「まともな人間関係」の回復と組合民主主義

・「連帯」をどうつくるかー「連帯の3条件」 ①相手の立場を理解する ②自己主張できる人間関係を ③徹底した議論と民主的合意

・多忙化問題を考える

・青年たちとの団結 

 社会性が奪われ、社会を個人中心に見る傾向

 集団的自治能力の欠如という問題

 自立と連帯の可能性

・魅力的な活動家集団の構築

 魅力的でない活動家とは

 活動家の「力」の源泉はどこにあるか

 複眼的に人間をみるー「矛盾の構造」という視点

・最良の科学としての科学的社会主義の基礎理論

・自然発生性と目的意識性の今日的関係

・民主主義的自覚と権利意識の成熟

 

第3章の「人々との出会い」で、「犬丸義一さんとの出会い」の中で、1971年の東大五月祭で、歴史家の羽仁五郎さんと哲学者の芝田進午さんをゲストとするシンポジウムがあり、そのときの様子が紹介されていたが、面白かった。

羽仁五郎さんは、戦前は日本資本主義発達史講座の著者の一人でもあったが、戦後は、東大全共闘を支援するという、「無節操さ」もあった。実は、私も、学生時代に民青に加盟して間もないころ、よく事情を知らずに、羽仁五郎氏の著書「都市の論理」などに、一時期のめり込んだことがあった。後から、羽仁さんが暴力学生を支援していたことを知ってガッカリもしたのだが、でも著書の中での羽仁氏の指摘には、傾聴すべき大事な視点があったことも事実であった。「暴力学生を支援するからすべてけしからん」ではなく、批判すべきことと誠実に傾聴すべきことをきちんと整理する山田氏のような態度こそ、科学的で冷静な態度だったのだと思う。