報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

作品の最初を読み返してみる。

2013-08-24 02:22:03 | 日記
 “ボーカロイド・マスター”より、『南里志郎とゆかいな仲間たち』編を一人称でやってみる実験

[10:00.東北新幹線“やまびこ”131号10号車 敷島孝夫]

 私を乗せた列車は順調に北に向かって走行している。ついに飛ばされてしまった。若い身空で地方の、それも関連会社どころか、業務提携先の名も無き小さな研究所に出向とは……。
 東京で見た桜は♪これが最後ねと♪……って、冗談じゃねー!!
『いいか?これは左遷じゃない。これとて、立派な会社の業務だと思って頑張ってくれ』
 と、古市課長は言ってたけども……。ノサップ岬支店に飛ばされた長谷蟹リーダーよりは、マシなのかもしれないけれど……。
『“歌うアンドロイド”開発プロジェクトに伴う注意事項について』
 そもそも課長が言うには、オーバーテクノロジーと化したある技術を、いかに世間に受け入れられるものにするかのプロジェクトとのことだ。私を指名したのは、出向先の研究所の責任者だということだが……。

[12:00.仙台市地下鉄南北線・泉中央駅 敷島孝夫]

 東北地方最大の都市、仙台市。この町を南北に貫く地下鉄に乗り換え、北の郊外へと向かう。東日本大震災の爪痕など、市街地はもちろんのこと、地下鉄沿線では見られない。
 資料によると、北の終点駅から更にバスに乗り換えるようだ。うへー、どこまで行かされるんだよーって感じだ。泉区といったら高台のニュータウンといったイメージしか無く、そんな所に研究所が?と思う。少なくとも、震災の津波被害は全く無かった所ではあるだろう。
 バカでかいキャリーバックを引きながらの移動はしんどい。新幹線から地下鉄に乗り換えるのも一苦労だ。で、泉中央駅も……。ホームは地下にあるくせに、改札は地上にありやがる。まあ、東京メトロにもこういう形態の駅はあったけれども……。エスカレーターが無かったら、本当にしんどい。
 確かこの駅で、研究所から迎えが来ているとのことだった。『研究所唯一のガイノイド(女性型アンドロイド)と合流し、研究所へ……』と、計画書には書いてある。が、
「えーと……」
 改札を出ると、同じような待ち人が何人もいる。その中に、薄いピンク色のボブカットに濃紺のワンピースを着た女性が無表情で立っていた。資料にあった特徴と、ほぼ一致している。
「すいません。南里ロボット研究所の方ですか?」
「イエス。大日本電機の・ミスター敷島ですね?」
 うわ、いかにもベタなロボットの喋り方だなぁ……。
「……敷島孝夫さん。認証しました」
「えーと、じゃあキミが“歌うアンドロイド”の初音ミク……?」
「ノー。違います。私は・ドクター南里の・忠実な・マルチタイプ・ガイノイド・エミリーです。これより・研究所へと・ご案内致します」
 そう言ってエミリーと名乗る女性型アンドロイドは、駅からバスプールへと向かったのだった。
「よ、よろしく」
 急いで後を付いて行く私。

[12:30.路線バス車内~研究所下 敷島孝夫]

 駅前からは色々な行き先のバスが出ている。エミリーはその中に止まっていた『のぞみヶ丘ニュータウン循環』という行き先表示のしてあるバスに乗り込んだ。昼間に駅からニュータウンに向かう人はそんなにおらず、車内は閑散としていて私達以外に7~8人ほどの乗客がいるだけであった。
 バスに乗る時、思わずSuicaを当てそうになったが(さっきの地下鉄でもやりかけた)、仙台市交通局その他のバス会社は非対応である。
「交通費は・支給されます」
 というエミリーは、バス共通カードを通していた。
 バスは駅前を出て郊外へ向かうと、ついにぐんぐん坂を登り始めた。周囲には公園とか、真新しい住宅や商店が見え始めている。エミリーの話では、昭和の高度経済成長から開発された地域と、平成バブルから開発された地域の2つに別れているという。
 研究所は前者の地域の外れに存在し、バスの折返し場もそこにあるとのこと。循環路線なのに折返しというのも不思議な話だが。
 と!突然、バスの窓を雨粒が叩きつけた。まだ肌寒いというのに、早くもゲリラ豪雨か?しまったな。傘を持ってきてないんだった。
 すると、エミリーはスリットの深いロングスカートの裾を捲り上げると、左太ももをパカッと開けて、
「折畳傘です。お使い下さい」
 と、私に渡した。……って今、どっから出した?見た目きれいなおみ足で、とても中に配線やら基板やらが詰っている感じはしないのだが……。

〔「ご乗車ありがとうございましたー。終点です」〕
 バスは砂利敷きの広い空き地に入ると、ポツンとあるバス停のポールの前で止まった。一応、それだけでなく、屋根も付いてベンチも置いてはいるのだが……。駅から、だいたい30~40分くらいは乗ったか。
「大人2人・お願いします」
「はい」
 ここで降りるのは私達だけのようだ。運賃を払おうとすると、エミリーがカードで2人分払ってしまった。雨足は意外と強い。私はエミリーから渡された傘を差したが、
「エミリー、キミは?」
「私は・結構です。防水加工が・施されて・います。こちらです」
 バス停のすぐ先には、更に上に登る階段があり、入口には『南里ロボット研究所 此の上↑』という看板もあった。
 このバス折返し場からも麓の景色はよく見え、さぞかし夜景はきれいだろうと思うのだが、肝心の目的地はもっと上かい!山奥のお寺もかくやだな……。
「お荷物・お持ちします」
「えっ?」
 エミリーは私のキャリーバックを持つと、片手でヒョイと持ち上げ、軽々と階段を登り始めた。さっきの傘といい、この力といい、やっぱり彼女は……。
 こりゃ本当に、とんでもない所に来たっぽいぞー!

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