報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

伏線回収機構

2013-08-24 15:19:03 | 日記
 “ボーカロイド・マスター”より、前回の続き

[13:10.南里ロボット研究所 敷島孝夫]

 不思議な美しい容姿のガイノイド、エミリーに誘われ、ようやく目的地に辿り着いた。研究所は白い外壁が目に付く、2階建ての建物だった。第1印象は、クリニックって感じだ。前に風邪引いて、近所の内科クリニックに行った時、こういった感じの建物だったような……。
「こちらです。敷島さん」
「ああ」
 正面玄関に向かうエミリー。しかし、この研究所にアプローチする道は他にあるらしく、舗装された道が別にあった。
 中に入ると、ソファなどが置かれたロビーがあった。壁際には、誰が弾くのかアップライトピアノが置いてある。
「いらっしゃーい。南里ロボット研究所へ」
 奥からは白髪の老人がやってきた。敷島よりも身長が高く、歳の割には足腰もしっかりしている。それでも白髪のせいで、80歳過ぎには見える。
「ドクター南里。敷島さんを・お連れしました」
「うむ。ご苦労。東京から遠路はるばるご苦労さん。わしは南里志郎じゃ。これからキミは、ここで歴史の証人となるじゃろう。光栄なことじゃぞ」
「あ、あの……」
「ん?どうした?チンケな研究所で脱力したか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
 敷島はエミリーを指差した。
「おお。これがキミの歴史の第1歩になるのかな?わしの人生最高の傑作、エミリーじゃ。何でもできるぞ」
「はあ……」
 得意気に語る老人。やはり本物なのか。
「大日本電機東京本社から参りました敷島孝夫です。よろしくお願いします」
「おお、そんな堅苦しい挨拶はいらん。この研究所には、わしとエミリーとキミしかおらんでな」
「ええっ」
「ここでのキミの表の顔は、研究所の事務員じゃ。裏の顔は、“歌うアンドロイド”に対するテスト要員じゃな。何しろこの研究は、オーバーテクノロジーと化してしまった部分も多々ある。色々と面倒なこともあるので、まずはキミがその要員に相応しいかテストしたい。……ああ、良い良い。そんな難しいことをするわけではない。キミに何か特別な知識や技術を求めるものでもない。肩肘張らず、わしの指示通りに動いてくれれば良い。疑問点があれば、可能な限り回答しよう」
「それで……その、“歌うアンドロイド”初音ミクとはどこに?」
「ああ、ちょっと待っててくれ。本当はキミの到着時刻と同時に、ここに到着する予定だったのじゃが……。少し遅れているようでな」
「ドクター南里。国道4号線・仙台バイパスが・渋滞していました。その影響と・思われます」
「なに、そうだったのか。恐らくあいつのことじゃから、渋滞に巻き込まれるルートをあえて取ったに違いない」
「七海は・ソフトウェアに・問題があると・思われます」
「改善の余地が多々あるのじゃが……。おっ、そうじゃ。長旅で疲れておるじゃろう。初音ミクが到着するまで、休んでいなさい。エミリー、敷島君にお茶を入れてあげなさい」
「イエス。ドクター南里」

[13:30.南里ロボット研究所 敷島孝夫]

 エミリーが入れてくれた紅茶を飲んでいると、やっと日が差してきた。どうやら雨がやんだようだ。それと同時に、外に車が着いたのが分かった。
「どうやら着いたようじゃの」
「えっ?」
 南里所長とエミリーが外に出て行く。私も後から続いた。
「おーっ、遅かったじゃないか!」
「先生、すいません!北環状とバイパスで渋滞にハマりまして……」
 白いワンボックスから降りて来たのは、私より数㎝身長が低く、少しぽっちゃりした感じの男だった。私よりは年上だろう。丸い淵の眼鏡を掛けている。
「ったく!『最短ルート』って言っただろうが!渋滞の無い道路って意味だよ!」
「ごめんなさい……」
 男は助手席から降りて来た女性に怒鳴りつけた。何と、メイド服を着ていた。な、何なんだ?
「ああ、敷島君。紹介しよう。この男は、わしに師事している者で東北工科大学教授やっておる平賀太一君じゃ。隣は彼の作品で、メイドロボットの七海じゃ」
 すると、平賀教授は……って、この若さで教授!?どう見ても、30代前半ってところだが……。
「するとあなたが、大日本電機から来られた方ですか?」
「あ、はい。敷島孝夫と申します」
 私は思わず、営業先の感覚で名刺を出してしまった。
「これはどうも。自分、平賀太一と申します」
 平賀教授も名刺を出してくれた。肩書きには、確かに東北工科大学電子工学科教授なる文字が並んでいる。他には、日本アンドロイド研究開発財団会員とか……。こんな財団法人、初めて聞いたなぁ……。
「ここにいるのはメイドロボットの七海です」
「こりゃまた精巧な……」
「時折、文字変換ミスや予想変換ミスなどをやらかすので、まだまだ改良の余地があります」
「分かっておるのなら、早く改善せい」
「太一様。初音ミクは、中に入れてよろしいのですか?」
「おう。丁寧に運べよ」
 七海もまた力持ちであった。明らかに自分より大きな段ボール箱を、両手で運んでいる。普通、台車で運ばねー?
「あ、そうだ。先生。初音ミクなんですが、起動実験が間に合わなかったので、そのまま財団から連れて来た形です」
「なに?そんなに時間が無かったのかね?」
「そもそもあの時、初音ミクをどの研究所が引き受けるかで、相当もめたでしょう?あれのせいですよ」
 平賀が小声で言った。
「ちっ。こっちはそれどころではないと言うのに……」
 何だか、いきなり波乱万丈な予感。それより、
「所長。あの段ボールの中身、見ていいですか?」
 と、頼んでみた。
「平賀君」
 南里所長は平賀先生に振る。すると平賀教授は申し訳無さそうな顔をした。
「すいません、敷島さん。実はここに運ぶ為に、多少分解してきたんです。それを組み立て直してからでないと……」
「その状態でもいいですよ」
「……スプラッターな状態ですよ?」
「はあ?」
「一応、ボーカロイドもエミリーや七海と同じく、人間そっくりな形状をしています」
「そうなんですか」
「はっきり言って今、バラバラ殺人状態ですが……」
「……すいません。やっぱりやめておきます」
 私はホラーが苦手だ。
「そういうわけじゃから、せっかく来てくれて何じゃが、初音ミクを起動するまで待っていてほしい」
「分かりました」
「適当に昼食でも取って、待っててくれ」
「敷島さん。この坂を下って、右に行くと公園があります。その公園を越えた先にコンビニがありますから」
「ありがとうございます」
「それじゃ平賀君、早速始めるぞ」
「はい」
 2人の研究者達は、中に入って行った。私は昼食を買いに、コンビニへ……。

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1 コメント

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つぶやき (ユタ)
2013-08-24 17:24:11
北与野なう。
北環状とは「仙台北環状線」という名の環状していない県道で、渋滞の名所を多く抱えることで有名な道路です。
それにしても、物語の舞台が仙台の理由は、ただ単に首都圏を舞台にするのが飽きたからです(笑)
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