[11月5日09:53.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅]
〔まもなく終点、仙台、仙台。お出口は、右側です。新幹線、東北本線、常磐線、仙石線、仙山線、仙台空港アクセス線、地下鉄南北線と地下鉄東西線はお乗り換えです。……〕
E721系に限り、自動放送が首都圏JRのそれと同じ声優、同じ言い回しである。
稲生:「……おっ。僕も少し寝ちゃったなぁ……」
マリア:「そう、か」
稲生:「何だか寝過ごして、上野駅まで来ちゃったって感じですよ」
もちろん、線路は実際に繋がっているわけだが。
いかに休日と言えど、ここまで来れば車内もそこそこ賑わっている。
座席は全て埋まり、ドア付近などに立ち客が目立ち始める頃。
なもんで、4人用ボックスシートに座る稲生達の空席にも他人が……。
稲生:「ん!?」
そこに座っていたのは1人だけではなかった。
5〜6歳くらいの少女が2人。
だが、どこかで見たことがある。
マリア:「ああ。ミカエラとクラリスか。そんな中途半端に化けるなよな」
稲生:「どこかで見たことがあると思ったら!?」
ミカエラ:「はははははは」
クラリス:「はははははは」
稲生:「怖っ!無表情で笑われると怖っ!」
もちろん、成人女性形態も慣れてないと怖い。
ミカエラとクラリスはそれだとだいぶ表情も感情も豊かにはなるのだが、概してマリアの作ったメイド人形はホラーチックな個体が多い。
稲生専属メイド人形を率先して行っているダニエラもその1つ。
イリーナ:「んあ?……なに、もう着いたの?」
稲生:「そうなんですよ、先生」
イリーナ:「あら?このコ達、どこのコ?」
マリア:「私の人形……ミカエラとクラリスです」
イリーナ:「おお、そうか。幼女形態に変化させられるなんて、マリアも成長したわねぇ」
稲生:(成人女性より幼女の方が難しいの!?)
マリア:「いや、私は故意にはしていないんですが……。多分、私も少し居眠りしていたので、寝言か何か言ったのかもしれません」
稲生:(寝言で魔法!?)
イリーナ:「そう。でも困ったわ。これだと、子供運賃払ってないから不正乗車を疑われてしまうわ」
稲生:「魔法で変化したところを見られたとか、そういう所は気にしないんですか?」
だが周りを見てみても、そういうことで騒いでいるような乗客はいなかった。
マリア:「私の人形達、気配を隠すのが得意だから、『何かいつの間にそこにいた』っていうのが上手いから」
稲生:「あー、ダニエラさんなんかいつもそうですもんね」
電車がホームに停車してドアが開いた。
終点駅に着いても半自動ドアのままだから、ボタンの前に立っている乗客が必然的にドアを開ける係をするのがこの地方のルール。
稲生:「それでは、次は地下鉄に乗り換え……」
イリーナ:「あ、ちょっと待って。何だか小腹が減ったから、ちょっとカフェにでも寄っていかない?」
稲生:「そういえば、まだ朝食自体取ってませんでしたね」
マリア:「このコ達を人形形態にするから、その前にトイレ寄っていい?」
稲生:「どうぞどうぞ。それにしても、珍しいものですね」
稲生はトイレに行っている間、あの幼女形態のミク人形とハク人形について何かを思い出そうとしていたのだが、なかなか思い出せなかった。
[同日10:30.天候:晴 仙台駅3階 ずんだ茶寮]
稲生:「あっ、思い出した!座敷童!」
イリーナ:「えっ、何が?」
稲生:「あれ見てたら、さっきの幼女形態のミカエラさんとクラリスさんが何かに似ていると思ったんですよ」
稲生は着物の女性のポスターを指さした。
イリーナ:「座敷童。東北地方じゃ有名な幼女の妖怪ね。佇まいは不気味だけど、実際はそこにいてくれた家は栄えるというお話ね」
稲生:「そうです。で、逆に出て行かれるとその家は潰れるという……」
イリーナ:「お〜、いいじゃない。屋敷に新たなホラーの色どりを添えられるわ。マリア、今度はあのコ達に着物でも作ってあげなさい」
マリアは人形を作るのと同時に、人形達の服も作っているのである。
最初はフランス人形の衣装をモデルに作っていたが、稲生が来てからはメイド服に変わった。
何故そうなったのかは、あえて言わない。
まあ、強いて挙げるなら、マリアがどうしてブレザーにプリーツスカートをはくようになったのかという理由と一致するのだが。
マリア:「私、着物は作ったことが無いんですが……」
イリーナ:「どこかでオリジナルを手に入れないとダメか」
稲生:「七五三のシーズンなら、もしかしたら手に入るかもしれません」
イリーナ:「なるほど。それはいつ?」
稲生:「10日後です。11月の15日です」
イリーナ:「さすが日本人だね。よく知ってるね」
稲生:「僕も子供の頃はしましたし、日蓮正宗でもやるんですよ。正証寺でもやるんですが、まあ最近は子供の数も少ないので、毎年ってわけではないんですね。目師会(もくしえ)のみ行われることが多々……」
イリーナ:「それだけ有名な行事だってことは分かったわ」
稲生:「藤谷班長の強面ぶりに、泣く子供が大半だったりするんですが……」
イリーナ:「それはそれで藤谷さん、可哀想ね」
稲生:「今じゃ開き直って、『泣く子は居ねがー!!』ってやってるそうです」
イリーナ:「あえて八寒地獄の獄卒を演じる日蓮正宗法華講員」
稲生:「何ですか、それ?」
イリーナ:「なまはげは八寒地獄の獄卒だよ。知らなかった?」
稲生:「そんなこと、キノは言ってませんでしたよ!?」
イリーナ:「八大地獄とはあんまり繋がりが無いしね」
何を基準に堕獄する亡者で、そこから更に八寒地獄に落とされるのかの説明が、どの文献にも書いていないらしい。
イリーナ:「とにかく屋敷に帰る前に、このコ達の着物を一着ずつ購入しましょう。後で人形形態のものをオリジナルで作るわけだから、既製品でいいわね」
稲生:「でも先生。いくら既製品だからって、着物は高いですよ?だからレンタルとかが流行ってるわけで……」
イリーナ:「お金なら、あります」
イリーナは普段使いのアメリカン・エキスプレスのプラチナカードの他に、世界各国の富豪からもらったという他のカード会社のプラチナカードやブラックカードを取り出した。
稲生:「す、凄いですね」
マリア:「そこは札束を出してもらった方が絵面的に面白いんですが」
欧米の富豪はカードである。
イリーナ:「ユウタ君の家の近くで、着物を売ってる店があったら教えて」
稲生:「分かりました。(埼玉で買うつもりか)」
しかし稲生の頭には、どうしてもイオンモールしか思い浮かばなかった庶民である。
〔まもなく終点、仙台、仙台。お出口は、右側です。新幹線、東北本線、常磐線、仙石線、仙山線、仙台空港アクセス線、地下鉄南北線と地下鉄東西線はお乗り換えです。……〕
E721系に限り、自動放送が首都圏JRのそれと同じ声優、同じ言い回しである。
稲生:「……おっ。僕も少し寝ちゃったなぁ……」
マリア:「そう、か」
稲生:「何だか寝過ごして、上野駅まで来ちゃったって感じですよ」
もちろん、線路は実際に繋がっているわけだが。
いかに休日と言えど、ここまで来れば車内もそこそこ賑わっている。
座席は全て埋まり、ドア付近などに立ち客が目立ち始める頃。
なもんで、4人用ボックスシートに座る稲生達の空席にも他人が……。
稲生:「ん!?」
そこに座っていたのは1人だけではなかった。
5〜6歳くらいの少女が2人。
だが、どこかで見たことがある。
マリア:「ああ。ミカエラとクラリスか。そんな中途半端に化けるなよな」
稲生:「どこかで見たことがあると思ったら!?」
ミカエラ:「はははははは」
クラリス:「はははははは」
稲生:「怖っ!無表情で笑われると怖っ!」
もちろん、成人女性形態も慣れてないと怖い。
ミカエラとクラリスはそれだとだいぶ表情も感情も豊かにはなるのだが、概してマリアの作ったメイド人形はホラーチックな個体が多い。
稲生専属メイド人形を率先して行っているダニエラもその1つ。
イリーナ:「んあ?……なに、もう着いたの?」
稲生:「そうなんですよ、先生」
イリーナ:「あら?このコ達、どこのコ?」
マリア:「私の人形……ミカエラとクラリスです」
イリーナ:「おお、そうか。幼女形態に変化させられるなんて、マリアも成長したわねぇ」
稲生:(成人女性より幼女の方が難しいの!?)
マリア:「いや、私は故意にはしていないんですが……。多分、私も少し居眠りしていたので、寝言か何か言ったのかもしれません」
稲生:(寝言で魔法!?)
イリーナ:「そう。でも困ったわ。これだと、子供運賃払ってないから不正乗車を疑われてしまうわ」
稲生:「魔法で変化したところを見られたとか、そういう所は気にしないんですか?」
だが周りを見てみても、そういうことで騒いでいるような乗客はいなかった。
マリア:「私の人形達、気配を隠すのが得意だから、『何かいつの間にそこにいた』っていうのが上手いから」
稲生:「あー、ダニエラさんなんかいつもそうですもんね」
電車がホームに停車してドアが開いた。
終点駅に着いても半自動ドアのままだから、ボタンの前に立っている乗客が必然的にドアを開ける係をするのがこの地方のルール。
稲生:「それでは、次は地下鉄に乗り換え……」
イリーナ:「あ、ちょっと待って。何だか小腹が減ったから、ちょっとカフェにでも寄っていかない?」
稲生:「そういえば、まだ朝食自体取ってませんでしたね」
マリア:「このコ達を人形形態にするから、その前にトイレ寄っていい?」
稲生:「どうぞどうぞ。それにしても、珍しいものですね」
稲生はトイレに行っている間、あの幼女形態のミク人形とハク人形について何かを思い出そうとしていたのだが、なかなか思い出せなかった。
[同日10:30.天候:晴 仙台駅3階 ずんだ茶寮]
稲生:「あっ、思い出した!座敷童!」
イリーナ:「えっ、何が?」
稲生:「あれ見てたら、さっきの幼女形態のミカエラさんとクラリスさんが何かに似ていると思ったんですよ」
稲生は着物の女性のポスターを指さした。
イリーナ:「座敷童。東北地方じゃ有名な幼女の妖怪ね。佇まいは不気味だけど、実際はそこにいてくれた家は栄えるというお話ね」
稲生:「そうです。で、逆に出て行かれるとその家は潰れるという……」
イリーナ:「お〜、いいじゃない。屋敷に新たなホラーの色どりを添えられるわ。マリア、今度はあのコ達に着物でも作ってあげなさい」
マリアは人形を作るのと同時に、人形達の服も作っているのである。
最初はフランス人形の衣装をモデルに作っていたが、稲生が来てからはメイド服に変わった。
何故そうなったのかは、あえて言わない。
まあ、強いて挙げるなら、マリアがどうしてブレザーにプリーツスカートをはくようになったのかという理由と一致するのだが。
マリア:「私、着物は作ったことが無いんですが……」
イリーナ:「どこかでオリジナルを手に入れないとダメか」
稲生:「七五三のシーズンなら、もしかしたら手に入るかもしれません」
イリーナ:「なるほど。それはいつ?」
稲生:「10日後です。11月の15日です」
イリーナ:「さすが日本人だね。よく知ってるね」
稲生:「僕も子供の頃はしましたし、日蓮正宗でもやるんですよ。正証寺でもやるんですが、まあ最近は子供の数も少ないので、毎年ってわけではないんですね。目師会(もくしえ)のみ行われることが多々……」
イリーナ:「それだけ有名な行事だってことは分かったわ」
稲生:「藤谷班長の強面ぶりに、泣く子供が大半だったりするんですが……」
イリーナ:「それはそれで藤谷さん、可哀想ね」
稲生:「今じゃ開き直って、『泣く子は居ねがー!!』ってやってるそうです」
イリーナ:「あえて八寒地獄の獄卒を演じる日蓮正宗法華講員」
稲生:「何ですか、それ?」
イリーナ:「なまはげは八寒地獄の獄卒だよ。知らなかった?」
稲生:「そんなこと、キノは言ってませんでしたよ!?」
イリーナ:「八大地獄とはあんまり繋がりが無いしね」
何を基準に堕獄する亡者で、そこから更に八寒地獄に落とされるのかの説明が、どの文献にも書いていないらしい。
イリーナ:「とにかく屋敷に帰る前に、このコ達の着物を一着ずつ購入しましょう。後で人形形態のものをオリジナルで作るわけだから、既製品でいいわね」
稲生:「でも先生。いくら既製品だからって、着物は高いですよ?だからレンタルとかが流行ってるわけで……」
イリーナ:「お金なら、あります」
イリーナは普段使いのアメリカン・エキスプレスのプラチナカードの他に、世界各国の富豪からもらったという他のカード会社のプラチナカードやブラックカードを取り出した。
稲生:「す、凄いですね」
マリア:「そこは札束を出してもらった方が絵面的に面白いんですが」
欧米の富豪はカードである。
イリーナ:「ユウタ君の家の近くで、着物を売ってる店があったら教えて」
稲生:「分かりました。(埼玉で買うつもりか)」
しかし稲生の頭には、どうしてもイオンモールしか思い浮かばなかった庶民である。
むしろ、イオンモールが身近にある者ならではの感覚だろう。
そこはイリーナもマリアも、素直に従わざるを得ないというわけだ。
もしかしたらイリーナが稲生を弟子入りさせたのは、稲生が類稀なる霊力を持っていたからというのもあるだろうが、日本国内での活動を円滑に行う為の協力者を手元に置いておきたいというのもあったのかもしれない。