報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「時を超える魔道師」

2014-05-31 15:17:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月31日17:15.大石寺・第2ターミナル 稲生ユウタ、威吹邪甲、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

「え?ここでお別れですか?」
「ああ。本当はもう少し一緒にいたいんだけど、師匠と合流しないと……」
 マリアも少し残念そうな顔をした。
「何でも、拠点たる屋敷の再建をしなければならないそうだ。お前達の魔法なら、数日で再建可能だろうが」
 威吹は補足するように言った後、呆れた様子でマリアを見た。
「ただ、再建すればいいってもんじゃない。幻想郷の入口を塞ぐ必要があるのと、また隕石を落とされては元も子もないので、その対策も必要だ」
「そうですか」
「まあ、ポーリン師やエレーナもしばらくは動きが取れないだろうから、しばらくは安心して良いとのことだ」
「イリーナさんが?」
「どことなく抜けてるヤツが言ったところで、大船の気分が湧かないのだが……」
「師匠のお考えが分からないうちは、そうなるだろう」
「あー、そうかい」
 そう話しているうちに、呼んでいたタクシーがやってきた。
「マリアさん、もうバスは無いんですけど、本当に大丈夫ですか?」
「ああ。別に市街地に行く必要は無い」
 ユタと威吹はタクシーの後部座席に乗り込んだ。
「ユウタ君、色々とありがとう」
「いえ、僕は別に……」
 窓越しに握手を交わした後で、タクシーがバスの営業所に向けて走り出した。
(師匠じゃないけど、本当にもったいない。魔道師の素質があるのに……)

[5月31日17:45.静岡県富士宮市内、国道139号線 稲生ユウタ&威吹邪甲]

〔「夕焼けを2人で♪半分ずつ♪分け合おう♪私は昼♪」「ボクは夜♪」「手を繋げばオレンジの空〜♪」「……鏡音リン・レンで“トワイライト・プランク”でした。ではここで、交通情報をお送りします。……」〕

 春先なら本当に夕方なのだろうが、夏至の近づくこの時季はまだまだ外は明るい。
 タクシーのラジオから流れてくる歌を聴きながら、ふとそう思う威吹だった。
「あ、運転手さん。そこのファミレスに入ってもらえます?」
「はいはい」
 タクシーは国道沿いのファミレスに入った。
「ユタ?」
「いや、まだ時間があるから、何か食べて行こうと思って」
「ああ」
 それで威吹は納得した。
「バスの営業所、すぐそこだし」

[5月31日18:00.ガスト富士宮店 ユタ&威吹]

 夕食時ではあるが、まだピークではないのか、店内はそんなに混雑していなかった。
 夕食を取りながら、ユタが言った。
「そういえば、僕が六壺にいる間、マリアさんと何か話したの?」
「いや、あの魔道師は無口だから。特に、信頼に値しないヤツとは、話もしたくないって感じだね」
「なるほど……」
「ああ、でも、あんなことは言ってたな……」
「なに?」
「『師匠が、魔道師達の抗争に巻き込んでしまって申し訳無い、と謝っていた』と……。これはユタにも言いたいことだから、ボクにも言ったんだろうね」
「そうかぁ……」
「何を今更言ってるんだって感じだけどね」
 威吹は苦笑いした。
「そりゃ1000年……いや、それ以上前からヤツらが抗争しているんだから、ボク達もグゥの音も出ないよね」
「ははは……。『歴史を陰から操る者』か。日本史や世界史の教科書に載ってる、色んなことに関わってきたのかな」
「多分ね」

[同日18:30.富士急静岡バス富士宮営業所→“やきそばエクスプレス”18号 7A席:ユタ、7B席:威吹]

 今日最後の東京行きは定刻通り、バス営業所を発車した。営業所前の道路は狭いので、そこを出発する時は一苦労である。

〔……本日もJRバス関東をご利用頂きまして、ありがとうございます。このJRバスは東名江田、東名向ヶ丘経由、東京行きです。……〕

 行きと違って広いタイプの座席ではなかったが、威吹的には“獲物”と密着しやすくて却って良いらしい。
 始発のバス営業所を出た時点では、乗客はユタと威吹しかいなかったが、乗客名簿をチラッと見たら途中の富士宮駅や富士宮市役所前などから乗って来るらしい。
 昔はイオン富士宮の前(ジャスコ富士宮)にも止まっていたが、踏切を渡らなくてはならなく、定時性確保に難ありということでルート変更の際、廃止された。

[同日19:00.場所不明 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット、ポーリン・ルシフェ・エルミラ、エレーナ・マーロン]

「師匠、稲生君達は予定通り、バスで東京に向かいました」
「何の予知も出なかったから、予定通り着けるでしょう」
 イリーナは、少し離れた場所にいる魔道師師弟をチラ見しながら納得したように頷いた。
「もう時間ね」
 ポーリンはローブの中に隠した懐中時計を見て、イリーナ達に近づいて来た。
「言っておくけど、大師匠の前ではケンカは無しよ?」
「分かってるって」
 イリーナはポーリンに釘を刺したが、ポーリンは無表情のまま頷いた。

 突然、雷が鳴り出し、それが近づいてくる。
 4人の魔道師(見習も含む)は、頭頂部が平場になっている岩に向かって片膝をついた。
 雷がその岩に落ちる。
 落雷したにも関わらず、岩自体には何の損傷も無い。
 マグネシウムを燃やしているかのような光が輝いた後、その岩場の上には黒いローブにフードを被った魔道師が立っていた。
「お久しぶりです。師匠」
 イリーナは頭を深く下げながら言った。
 フードを被ったイリーナとポーリンの師匠は、顔が全く分からなかった。
 この4人の弟子(更には孫弟子)の前にいる大師匠は、本当に正体を現しての姿なのかも分からない。
 大師匠はイリーナの言葉には全く答えず、声を発した。
「お前達の仲の悪さには、今更とやかく言うつもりはない……」
 その声はしわがれた老人の声だった。
 老婆ではない。
「ただ、歴史の表に出て騒ぎを起こすことは本意ではない。今後は、個人的な争いを禁ずる。良いな?それと……」
 まるでLEDの光のような強い眼光をイリーナに向ける大師匠。
「私の元を飛び出して、何をしたかと思えば……。良かろう。あの功績に免じて、正式に免許皆伝をしよう」
「ありがとうございます」
「師匠!?」
 その裁決に納得できなかったのはポーリンの方だった。
「待ってください!私は師匠の元で真面目に修行してきました!何で不真面目なコイツを“卒業”させるのですか!?」
「だから、お前には最初に免許皆伝をした。こいつが私の元を飛び出て、早700年。その後の功績を考えれば今、免許皆伝をさせても良かろう。そこの者……」
 大師匠はマリアに魔道師の杖を向けた。
「は、はい……」
 マリアは緊張した面持ちで前に出た。
「名を何と申す?」
「マリアンナ・ベルゼ・スカーレットと申します」
「勝手にミドルネームも与えて、イリーナは傲慢過ぎます!」
 ポーリンは大師匠に異議申し立てを行った。
「ふむ……」
 大師匠はマリアの全身を見つめていたが、
「マリアンナとやらをイリーナの正式な弟子として認める。……が、まだミドルネームは時期尚早であろう。しばらく、『ベルゼ』の名は私が預かる。そこにいるエレーナ・マーロンと共に切磋琢磨をせい」
「は、はい……!」

[同日19:25.東名高速足柄SA 稲生ユウタ&威吹邪甲]

「あれ?」
 サービスエリアに向かうに従って、急に天候が悪化した。
 上空では稲光が光り、雷鳴も響いて来て、大粒の雨がバスの窓ガラスを叩いた。
「夕立かな?」
「随分暗くなってから降る夕立だねぇ……」
 バスは大型のワイパーを規則正しく動かしながら、広大な駐車場の中に入った。
「どうしよう?傘持ってないや」
「お任せを」
 威吹は腰まである長い銀髪の中に手を入れた。
 その中から、ビニール傘が2本出て来た。
「はい、傘」
「さ、さすがだ……」
 因みに妖刀と脇差も隠しており、こういう帯刀できない場所では髪の中に隠している。

 夕立が降る中、ユタ達を含む乗客達はバスを降りた。
「東京では止んでるといいなぁ!」
 バシャバシャと水たまりを避けながら、小走りにトイレに向かうユタと威吹。
「ホトケに祈ってくれ!」
 威吹はユタの言葉に答えた。
(それにしても、何らかの恣意性を感じる夕立だなぁ……)
 と、威吹は思った。

 休憩時間が終わり、バスが再び発車する頃には小降りになっており、下り線の右ルートと左ルートが合流する辺りにある大きな橋を渡る時には雨は止んだ。

 後日、ユタ達はカンジが購読している週刊誌で、魔道師達の抗争が停戦化したこと、マリアのミドルネームが外されたことを知った。
 ただ、ユタは休戦と停戦の違いが良く分からなかった。
 イリーナは停戦だと思い、ポーリンは休戦だという認識であるという。
 大師匠の命令で仕方なくということだったようだが、いずれにせよ何かの拍子でまた抗争が始まるのだろうと予想した。
 マリアのミドルネームが外されたことにユタは驚いたが、当のマリアとしてはあっけらかんとしていて、むしろ、
「イリーナ師匠の正式な弟子と認めてくれたことの方が嬉しい」
 とのことだった。更に、
「魔道師としてあるまじきことをやったのだから、本来なら破門の上、追放にされてもいいくらいだ。ミドルネームを外された程度で済んで、本当に良かったよ」
 と、ホッとした様子だったという。
                         マリア編 終

※6月7日 表現方法に一部誤りがありました。お詫びして訂正致します。

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