報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「夜中の地震」

2022-04-06 20:38:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月16日23:34~23:36.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は自分の部屋で、書類を作っていた。
 明日までに提出する善場主任宛ての書類である。
 旅行の計画が上手く立てず、その計画書を作成しているのだ。
 たかだか旅行で大袈裟だと思うだろうが、ヘタすりゃ国連軍の一派が超法規的な動きで殺処分に来るようなBOWを連れて歩くというのは、こういうことなのだ。
 ここまで来るとヤフコメ住民の中には、『だったらとっとと殺処分すれば?』という意見を出す者が出てくるだろう。
 だが、核兵器の保有はもちろん、保有国との共有ですら反対する勢力がこの国にいる以上、空白なのは生物兵器らしい。
 ウィルスそのものはさすがにアレだが、本当に生きている物なら新たな抑止力として使い道があるのではと政府は考えているらしい。

 愛原:「ん?」

 その時、私は室内の物がカタカタと揺れるのを感じた。
 どうやら、地震らしい。
 しばらくすると、揺れは治まった。
 だいたい、震度2ってところか。
 大した揺れではないと思うのは地震国日本だからであり、地震国でない国の人間にとっては、震度2ですら大騒ぎらしい。

 愛原:「まあ、いいや。よし、印刷っと」

 私がプリントアウトしている間、トイレに行くことにした。
 既に高橋もリサも自室に戻っている。
 印刷した書類をまとめて、明日は善場主任に提出だ。

 愛原:「あれ?」

 トイレで用を足し、水を流すと、また足元が揺れ始めた。

 愛原:「またか?」

 まさか、水を流した故の振動ではあるまい。
 それにしては、振動が大き過ぎる。

 愛原:「!?」

 震度2の時はカタカタとした揺れであったが、今度はガタガタと揺れ始めた。
 おいおいおい!
 私がトイレから出ると同時に、私の部屋に置いたスマホ、高橋の部屋のスマホ、そしてリサのスマホから同時に緊急地震速報が鳴り始めた。

〔ビューッ♪ビューッ♪ビューッ♪ 地震です〕

 急いで部屋に戻り、机の上に置いていたスマホの緊急地震速報を止める。
 画面には『福島県沖』と出ていた。
 まさか、東日本大震災の余震だろうか。

 高橋:「先生、大丈夫ですか!?」

 高橋が部屋から飛び出した。

 リサ:「先生!これ、どうやって止めるの!?」

 リサのスマホだけが、まだ鳴り止まない。
 テンパったせいか、リサは第1形態に戻っていた。
 鬼の姿になると、どうしても爪が長く鋭く伸びる為、スマホが操作しづらくなる。

 愛原:「こうだよ」

 私が代わりに止めてあげた。
 高橋がリビングの電気を点けて、テレビを点けた。
 幸い、停電にまではなっていないようである。
 こういう時は、NHKの方がいい。
 どうやら、震源地近くは大変なことになっているようだ。

 愛原:「こりゃ大変だな……」
 高橋:「え、これ、旅行どうなるんスか?」
 リサ:「まさか、中止にするの!?」
 愛原:「被害が大きいのは東北の方だからな。俺達が行くのは、関東だから」
 リサ:「あんまり遠くまで行かない」
 愛原:「そういうことだ。だが、逆に影響は少なくて済むかもな」
 リサ:「ふむ……」

 だが、旅行計画の立て直しは必要になるだろう。
 今夜は徹夜になりそうだ。

[3月17日10:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 翌日になり、私は計画書を善場主任の所に持って行った。

 善場:「ありがとうございます。……愛原所長、お疲れのようですが、昨夜の地震のせいで?」
 愛原:「まあ、そんなところです。夜中に来られると困りますね」
 善場:「お手数お掛けしました」

 善場主任は私の計画書に目を通していたが……。

 善場:「なるほど。分かりました」
 愛原:「では、この計画でよろしいでしょうか?」
 善場:「それは却下致します」
 愛原:「はい?」
 善場:「せっかく計画を立てて頂いて、非常に申し訳ないのですが、実は承認できない理由ができました」
 愛原:「それはやはり、地震のせいですか?」
 善場:「いえ、それは関係無いです。愛原所長、以前、宮城の石巻沿岸の漁港に行った際、怪しいクルーザーを見ましたね?」
 愛原:「そうです。どうも、地域の子供達をさらっていたようです」
 善場:「実は昨日、そのクルーザーが見つかりました」
 愛原:「ええっ!?」
 善場:「この計画書によりますと、三浦半島の油壷に行くことになっていますね?」
 愛原:「はい。あの辺りにあるホテルの宿泊券が同封されていましたので……」
 善場:「油壷にはマリーナがあります。要は、クルーザーを含むプレジャーボートの係留地ですね」
 愛原:「ああ、有名ですね。って?」
 善場:「はい。『木を隠すなら森の中』だと思ったのか、そこにありましたよ。で、押収して調べたところ、現在の持ち主は不明です。が、前の所有者は斉藤社長であることが判明しました」
 愛原:「何ですって!?」
 善場:「もちろん、愛原所長が宮城の漁港でそれを見た時点では、既に他人の手に渡ってはいましたが、ちょっとこれは都合が良過ぎると言いますか、怪しいと思いませんか?」
 愛原:「やっぱり斉藤社長が……」
 善場:「もちろん、偶然である可能性もあります。不要になったクルーザーを売却し、たまたまそこから犯人グループの手に渡っただけかもしれませんし。ただ……私には、偶然とは思えないのですよ。かつて所有していたクルーザーで人攫いが行われ、しかもそれが係留されている場所に、特に縁も所縁も無いにも関わらず、愛原所長方を行かせようとしたのは……」
 愛原:「何らかのメッセージがあるということですか。だったら、尚更行ってみた方がいいのでは?」
 善場:「いえ、もう既に私達が行っていますし、警察も捜査を開始しています。あいにくですが、愛原所長方の出る幕は無いかと……」
 愛原:「それでも、油壷に観光に行くくらいはいいのでは?」
 善場:「もちろん、それは愛原所長の自由です。ただ、これらの宿泊券などは証拠品として提出して頂きますので、これを使用する前提で立てられた計画については、承認できないということなのです」
 愛原:「あー、そういうことかぁ……」

 私は脱力してしまった。
 右手で頭を抱えてしまう。
 これではリサ達に、最後の思い出を作ってもらうことができないではないか……。

 善場:「愛原所長。今回、愛原所長には多大な功績があります。その報奨として、代わりの物を御用意させて頂きますので、今しばらくお待ちください」
 愛原:「え?」

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