報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰省の探偵」

2021-01-20 15:38:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月1日11:39.天候:曇 宮城県仙台市青葉区 JR東北新幹線1015B列車1号車内→仙台駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は年明け早々、実家に顔を出す為に東北新幹線に乗っている。
 普通車3人席には、他にリサと高橋も乗っている。
 折からの新型コロナウィルスが猛威を振るう中、私も最後まで判断に迷ったが、結局は顔を出すことにした。
 但し、実家には泊まらない。
 あくまでも土産を渡して、少し話をするだけ。
 リサは体内に有したTウィルスだのGウィルスだのがコロナウィルスを食い殺してしまうから感染の危険は無いが、私や高橋がな。
 もちろん症状など全く無いのだが、だからといって安心できないのが、インフルエンザと違う所。
 インフルエンザは例え抗体があっても重症化しないだけで、感染したら漏れなく発症するのに対し、新型コロナウィルスは感染しても無症状であることがあり、しかもその状態でも他人には感染させるというタチの悪いウィルスなものだから困るのだ。
 もっとも、インフルエンザだって潜伏期間中でも他人には感染させるのだという(潜伏期間は『無症状』とは見做されない。『無症状』とは潜伏期間を過ぎて、本来なら症状があるはずなのに、見当たらない状態のことをいう)。

 リサ:「雪が積もってる」

 窓側に座っているリサが外を見ながら言った。

 愛原:「ああ。予報通りだな」

 栃木県までは見られなかった雪も、福島県に入ってから見られるようになった。
 そして、郡山駅や福島駅では降雪していた。
 仙台市内に入ると雪は止んだが、太陽は時々雲間から少し顔を覗かせるだけで、空は殆ど曇っていた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線、仙石東北ライン、仙台空港アクセス線、仙台市地下鉄南北線と仙台市地下鉄東西線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 列車が速度を落とし始めると、車内に到着放送が響き渡った。

 高橋:「先生。御実家には御両親の他に、例の博士もいらっしゃるんですか?」
 愛原:「いや、どうも小牛田(こごた)の家にいるみたいだな。俺達が訪ねて来るのを待っているんだろう」
 高橋:「先生の先生ですから、『オマエが来い』とは口が裂けても言えませんが、ちょっと微妙っスね」
 愛原:「いや、先生じゃなくて、親戚の伯父さんだよ」
 高橋:「あっ、サーセン!」

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、仙台、仙台です。到着ホームは11番線、お出口は右側です。お乗り換えの御案内を申し上げます。……」〕

 愛原:「降りる準備をしておこう。お餅とお節料理忘れんなよ?」
 高橋:「もちろんっス」

 高橋はいつもラフな服装である。
 この前は何故かスーツを着ており、リサも制服を着ていたが、今は2人とも私服だ。
 リサは相変わらず短いスカートに、ニーソックスを履いている。
 東北の寒さをナメているように見えるのだが、それでもBOWは寒さに強いんだよなぁ……(冬の北欧や東欧で元気に活動した個体もいる)。
 でもさすがに、上にはジャンパーを羽織るリサ。
 列車は下り副線ホームに入った。
 ここから回送列車として、更に北側にある車両基地まで向かうのだろう。

〔仙台、仙台。仙台、仙台。ご乗車、ありがとうございました。……〕

 列車を降りると案の定、乗客の姿は疎らだった。
 一時的にはホーム上の人は多くなるのだが、すぐにまた消えて行く。
 そして何より、東京より寒い。

 愛原:「よし。じゃあ、行くぞ」
 高橋:「はい」
 愛原:「この前の爆発事故からさすがに復旧したみたいだから、もう大丈夫だと思うけどな」
 高橋:「それは良かったっスね」

 因みに裏庭に開いた、旧アンブレラの秘密研究所跡に繋がっている地下道だが、これも塞いだという。
 私達は改札口を出ると、タクシー乗り場に向かった。

[同日12:00.天候:曇 仙台市若林区某所 愛原の家]

 仙台駅から乗ったタクシーは、チェーンを巻いていた。
 平地ならまだしも、台地へ向かおうとすると、チェーンを巻かなくてはならないのだという。
 もっとも、雪深いとチェーンを巻いていても厳しい。
 それでやっと実家に到着する。

 母親:「あらまあ、お節料理作って持って来てくれたの?」
 愛原:「高橋が作ってくれたんだ。これでも食べて、ゆっくりしてよ」
 母親:「お餅もあるのねぇ」
 愛原:「高橋がついて、リサがこねたんだ」
 父親:「そして、『座りしままに食うは学』ってか」
 愛原:「父さん!」
 母親:「こんなにあるんだもの。皆で食べましょう。お雑煮は作ってあるから、それと一緒にね」
 愛原:「悪いね」
 高橋:「ゴチになります!」
 リサ:「わぁ!コタツなのん!」

 寒さに強いはずのBOWだが、コタツに入るとまるで猫のように丸くなる。

 父親:「はっはっは!こっちは寒いだろう。ゆっくり温まって行くといい。伯父さんの所には行くんだろう?」
 愛原:「そういうことになるね。小牛田駅から、何気に遠いんだよなぁ……」
 父親:「迎えに来てくれるよ。プリウスで」
 愛原:「プリウスアタックの責任取らされるのはカンベンだよ」
 父親:「じゃあ、軽トラだな」
 愛原:「定員オーバーだし。いいよいいよ。タクシーで行くよ」
 父親:「仙台駅までだったら、俺が送って行ってやるよ」
 愛原:「あ、そう。悪いねー」
 リサ:「むふー」(コタツの温かさに溜め息を吐いている)
 父親:「そして、これはお年玉だ」
 高橋:「ええっ!?マジっスか!?あざース!いや、ありがとうございます!」
 リサ:「わぁい!ありがとうございますぅ!」
 愛原:「リサはともかく、高橋にも渡すなんて、きっと明日は吹雪だな」
 父親:「うるさいな。どうせオマエのことだから、ロクに冬のボーナスも支給してないんだろ?」
 愛原:「支給したよ!」
 父親:「ボーナスというのはな、学。一定の重量があって、一定の厚みがあって、そして何より机の上に立てることができる額を支給できて一人前の経営者だ。従業員である彼に渡したボーナスというのは、それか?」
 愛原:「う……。そ、それは……」
 高橋:「いや、大丈夫っスよ、おやっさん!俺はボーナスもらえるだけでありがたいっス!」
 愛原:「ほら、高橋もこう言ってるし……」
 愛原:「社員が社長に気を使ってるだけだよ。それに胡坐かくな」
 愛原:「ううっ……」

 さすがは私の親父。
 現役時代、労働組合の委員長だっただけのことはある。

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