[期日不明 時刻不明(昼間) マリアの屋敷2F・イリーナの部屋 稲生勇太&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
気がつくと、稲生はクイーン・アッツァー号の絵の前にいた。
「……?」
「ユウタ君、お帰りなさい」
「はっ?!」
背後から聞き覚えのある声がして振り向くと、そこにはイリーナがいた。
「イリーナ先生!?」
「マリアからね、ユウタ君が行方不明になったって大騒ぎされたのよ」
「ぼ、僕が行方不明ですって!?僕はほんの少しの時間、どこかに……クイーン・アッツァー号という船にテレポートしてしまったようですが……」
「やっぱり、この絵の中に引きこまれていたか」
イリーナは、いつもの穏やかな顔ではなく、細目を少し開けていた。
「あなたがこの絵の中にいた時間は、ほんの数時間くらいかしら?」
「多分……」
「はい、これ、あなたのスマホ」
イリーナはポンと稲生のスマホを投げて寄越した。
受け取った時、電源ボタンに触ったこともあってか、モニタにホーム画面が映り出す。
そこに表れた日付と時間。
時間は14時13分を指していた。
しかし、日付が……。
『2015年10月26日』
「はあーっ!?」
まるまる1ヶ月であった。
「この絵の中の世界と、こことは次元が違う。つまり、時間の流れ方が違うのね。浦島太郎の世界と同じ。あなたは数時間だけいたつもりだろうけど、実際ここでは1ヶ月経ってた」
「……!……!?」
稲生は信じられないという顔をした。
「信じなさい。現実なんだから」
「どうして僕が船の中にいると……?」
「推理するしか無かったわよ。この屋敷から勝手に出ようとすれば、すぐに分かる。何だかんだ言って、人形達が見ているからね。私もしばらく留守にしていたこともあったし、この部屋で寝ることも無かったから、気づくのも遅くなった」
「気づくのも?」
稲生が首を傾げた。
すると、イリーナが手持ちの魔道師の杖を持ち上げた。
カーテンが勝手に閉まり、外が暗くなる。
すると、絵の中の船が、稲生が引き込まれる前とその後で違いがあった。
船橋部分の明かりが点灯している。
確かに稲生が点灯したものだ。
「3日前、久しぶりにここで寝ようとして、何だか絵が明るいのに気づいてね。いや、船の明かりが灯るなんて仕掛け、魔道師が持つ絵画なら当たり前なんだけど、アタシ、たまたまそれが点く瞬間を見たからね」
マリアの屋敷には、他にもさり気なく風景画などが飾られていたりするが、確かにその絵が動く所を稲生も見たことがある。
動いている最中は触らないようにという注意を受けた記憶はあるが、この船の絵に触った時、船は動いていなかったようだが、実は動いていたのか。
そうだよな。
船橋に行った時、船は自動航行システムが作動していたのだから。
「もしかしたらユウタ君、この絵の中にいたりしてと思ったわけ」
「その通りでした」
稲生は項垂れる様子で頷いた。
イリーナが外側から魔法を駆使して、何とか稲生を呼び戻したらしい。
「戻ってきたばかりで何なんだけど、早速その船の中で見聞きしたことを教えてちょうだい」
「……はい」
[10月26日14:30.マリアの屋敷1F食堂 稲生勇太&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
人形達が入れてくれたお茶とお菓子のセットに手を付ける。
何だかとても喉が渇き、空腹感があった。
「お茶のお代わり、あるからね」
「はい。……あの、マリアさんは?」
「ユウタ君が見つからなくて、部屋で不貞寝してるわ」
「不貞寝!?」
「人形達には教えたから、そのうちここに来るでしょう」
大きなテーブルで、1度に十数人が喫食できそうな長方形のテーブルだが、普段は稲生とマリア、それにたまにイリーナが加わるだけだ。
稲生が絵の中に引き込まれた経緯と船の中での出来事を話しているうちに、段々とイリーナの顔は険しくなった。
「なるほどね……!そうなの……!」
明らかにイリーナの目が大きく開きつつある。
明らかに怒りのオーラが漂っているようだった。
(まずい!やっぱ僕、怒られる!?)
と、その時、エントランスに出るドアとは反対側のドアから、マリアがやってきた。
「ユウタ君……!」
急いで来たのか、ワンピース型の寝間着のままだ。
「マリアさん、すいません!何か急に……。!?」
マリアが泣きながら稲生に抱きついて来た。
「良かったよぅ……!」
「御心配、おかけしました……」
弟子達の涙の再会を見届けることなく、明らかに不機嫌な顔をしているイリーナはガタッと席を立ち、エントランスホールに出る方のドアを開けて出て行った。
[同日15:00.マリアの屋敷2F・イリーナの部屋 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
「あーっ、ちくしょうっ!逃げられた!!」
イリーナは大きく目を見開いた。
室内にはそれまであったはずのクイーン・アッツァー号の絵が、最初から無かったかのように消えていた。
そして水晶球を出すと、そこに向かって怒鳴りつけた。
「アタシのシマ荒らした上に、弟子まで危険に遭わせやがって!大したタマね!え!?」
{「果てさて、何のことかな?私は船長としての責務を執行しただけだが……」}
水晶球に映ったのは、サンモンド船長。
「なーにが船長よ!いい!?2度と余計なことしないで!もしまたやったりしたら……!」
{「おいおい、勘違いしては困る。恐らくキミは直弟子のことを言っているのだと思うが、彼が乗り込んだ船は“クイーン・アッツァー”号の方だぞ?」}
「はあ!?」
{「私が管理している船は同型ではあるが、姉妹船の方だ。そこを勘違いしないでくれたまえ」}
「あのね!」
{「それより、こっちも困るよ。彼には使命があるというのに、勝手に船から降ろされては……」}
「うるさい!何が使命よ!金輪際、関わらないでちょうだい!」
そう言って、イリーナは水晶球の通信を切った。
{「おいおい、それよりクイ……」}
サンモンドは更に何か言いたそうだったが、イリーナに切られてしまった。
この2人、顔見知りのようだが、一体何があったのだろうか?
[同日18:00.マリアの屋敷1F・食堂 稲生、マリア、イリーナ]
3人で夕食を囲む。
さすがにマリアも、寝間着からいつもの服に着替えて来ていた。
「イリーナ先生、あのサンモンド・ゲートウェイズ船長って……」
稲生が聞くと、イリーナはナイフとフォークの手を止めた。
「魔道師さんですか?」
稲生の質問に、イリーナはナイフとフォークを置くと、ワインに手を伸ばした。
「ええ、そうよ。だけど、ダンテ先生の弟子ではない」
「ということは、他門の魔道師さんですか」
「そう。といっても、表舞台に出ることはないけどね」
「師匠、魔道師自体、表舞台に出ることはないですよ」
マリアが苦笑いを浮かべるような顔になって言った。
「だからぁ、魔道師の世界においてもなかなか人前に現れないってことよ。アタシらは何だかんだ言って、他の魔道師と交流があるじゃない?」
「まあ、そうですね」
マリアの反応に、稲生はエレーナやポーリンの姿を思い浮かべた。
「とにかく、あいつは私利私欲で動くヤツだから、ユウタ君も気をつけなさいよ」
「は、はい。あの、それで“魔の者”についてはどうなりました?僕が1ヶ月留守にしている間、何か動きは?」
それにはマリアが答えた。
「全く無い。あまりにも無いものだから、色々なデマが流れたよ。ジェシカの行方も、全くとして知られることもなかったし」
「では、あの船の中で会った人が……」
「『呪われた絵』だね。正しく」
イリーナはワイングラスを置いてポツリと言った。
空になったグラスに、メイド服姿で人間形態になった人形が、徐にワインのボトルを持って来てイリーナのグラスにワインを注いだ。
「あの絵が消えたということですが……」
「正に、あの絵自体が“魔の者”そのものと言っていいでしょう。もし見かけたら直接触らず、私に言ってちょうだいね。すぐに処分するから」
「はい。でも何であの絵が、先生の部屋にあったのでしょう?」
稲生が疑問を投げかけると、マリアも同調した。
「そうそう、私も気になってた。前からありましたか?あの絵……」
「あの絵はねぇ……」
イリーナは新しいワインに口を付けながら、その経緯を語り出した。
気がつくと、稲生はクイーン・アッツァー号の絵の前にいた。
「……?」
「ユウタ君、お帰りなさい」
「はっ?!」
背後から聞き覚えのある声がして振り向くと、そこにはイリーナがいた。
「イリーナ先生!?」
「マリアからね、ユウタ君が行方不明になったって大騒ぎされたのよ」
「ぼ、僕が行方不明ですって!?僕はほんの少しの時間、どこかに……クイーン・アッツァー号という船にテレポートしてしまったようですが……」
「やっぱり、この絵の中に引きこまれていたか」
イリーナは、いつもの穏やかな顔ではなく、細目を少し開けていた。
「あなたがこの絵の中にいた時間は、ほんの数時間くらいかしら?」
「多分……」
「はい、これ、あなたのスマホ」
イリーナはポンと稲生のスマホを投げて寄越した。
受け取った時、電源ボタンに触ったこともあってか、モニタにホーム画面が映り出す。
そこに表れた日付と時間。
時間は14時13分を指していた。
しかし、日付が……。
『2015年10月26日』
「はあーっ!?」
まるまる1ヶ月であった。
「この絵の中の世界と、こことは次元が違う。つまり、時間の流れ方が違うのね。浦島太郎の世界と同じ。あなたは数時間だけいたつもりだろうけど、実際ここでは1ヶ月経ってた」
「……!……!?」
稲生は信じられないという顔をした。
「信じなさい。現実なんだから」
「どうして僕が船の中にいると……?」
「推理するしか無かったわよ。この屋敷から勝手に出ようとすれば、すぐに分かる。何だかんだ言って、人形達が見ているからね。私もしばらく留守にしていたこともあったし、この部屋で寝ることも無かったから、気づくのも遅くなった」
「気づくのも?」
稲生が首を傾げた。
すると、イリーナが手持ちの魔道師の杖を持ち上げた。
カーテンが勝手に閉まり、外が暗くなる。
すると、絵の中の船が、稲生が引き込まれる前とその後で違いがあった。
船橋部分の明かりが点灯している。
確かに稲生が点灯したものだ。
「3日前、久しぶりにここで寝ようとして、何だか絵が明るいのに気づいてね。いや、船の明かりが灯るなんて仕掛け、魔道師が持つ絵画なら当たり前なんだけど、アタシ、たまたまそれが点く瞬間を見たからね」
マリアの屋敷には、他にもさり気なく風景画などが飾られていたりするが、確かにその絵が動く所を稲生も見たことがある。
動いている最中は触らないようにという注意を受けた記憶はあるが、この船の絵に触った時、船は動いていなかったようだが、実は動いていたのか。
そうだよな。
船橋に行った時、船は自動航行システムが作動していたのだから。
「もしかしたらユウタ君、この絵の中にいたりしてと思ったわけ」
「その通りでした」
稲生は項垂れる様子で頷いた。
イリーナが外側から魔法を駆使して、何とか稲生を呼び戻したらしい。
「戻ってきたばかりで何なんだけど、早速その船の中で見聞きしたことを教えてちょうだい」
「……はい」
[10月26日14:30.マリアの屋敷1F食堂 稲生勇太&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
人形達が入れてくれたお茶とお菓子のセットに手を付ける。
何だかとても喉が渇き、空腹感があった。
「お茶のお代わり、あるからね」
「はい。……あの、マリアさんは?」
「ユウタ君が見つからなくて、部屋で不貞寝してるわ」
「不貞寝!?」
「人形達には教えたから、そのうちここに来るでしょう」
大きなテーブルで、1度に十数人が喫食できそうな長方形のテーブルだが、普段は稲生とマリア、それにたまにイリーナが加わるだけだ。
稲生が絵の中に引き込まれた経緯と船の中での出来事を話しているうちに、段々とイリーナの顔は険しくなった。
「なるほどね……!そうなの……!」
明らかにイリーナの目が大きく開きつつある。
明らかに怒りのオーラが漂っているようだった。
(まずい!やっぱ僕、怒られる!?)
と、その時、エントランスに出るドアとは反対側のドアから、マリアがやってきた。
「ユウタ君……!」
急いで来たのか、ワンピース型の寝間着のままだ。
「マリアさん、すいません!何か急に……。!?」
マリアが泣きながら稲生に抱きついて来た。
「良かったよぅ……!」
「御心配、おかけしました……」
弟子達の涙の再会を見届けることなく、明らかに不機嫌な顔をしているイリーナはガタッと席を立ち、エントランスホールに出る方のドアを開けて出て行った。
[同日15:00.マリアの屋敷2F・イリーナの部屋 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
「あーっ、ちくしょうっ!逃げられた!!」
イリーナは大きく目を見開いた。
室内にはそれまであったはずのクイーン・アッツァー号の絵が、最初から無かったかのように消えていた。
そして水晶球を出すと、そこに向かって怒鳴りつけた。
「アタシのシマ荒らした上に、弟子まで危険に遭わせやがって!大したタマね!え!?」
{「果てさて、何のことかな?私は船長としての責務を執行しただけだが……」}
水晶球に映ったのは、サンモンド船長。
「なーにが船長よ!いい!?2度と余計なことしないで!もしまたやったりしたら……!」
{「おいおい、勘違いしては困る。恐らくキミは直弟子のことを言っているのだと思うが、彼が乗り込んだ船は“クイーン・アッツァー”号の方だぞ?」}
「はあ!?」
{「私が管理している船は同型ではあるが、姉妹船の方だ。そこを勘違いしないでくれたまえ」}
「あのね!」
{「それより、こっちも困るよ。彼には使命があるというのに、勝手に船から降ろされては……」}
「うるさい!何が使命よ!金輪際、関わらないでちょうだい!」
そう言って、イリーナは水晶球の通信を切った。
{「おいおい、それよりクイ……」}
サンモンドは更に何か言いたそうだったが、イリーナに切られてしまった。
この2人、顔見知りのようだが、一体何があったのだろうか?
[同日18:00.マリアの屋敷1F・食堂 稲生、マリア、イリーナ]
3人で夕食を囲む。
さすがにマリアも、寝間着からいつもの服に着替えて来ていた。
「イリーナ先生、あのサンモンド・ゲートウェイズ船長って……」
稲生が聞くと、イリーナはナイフとフォークの手を止めた。
「魔道師さんですか?」
稲生の質問に、イリーナはナイフとフォークを置くと、ワインに手を伸ばした。
「ええ、そうよ。だけど、ダンテ先生の弟子ではない」
「ということは、他門の魔道師さんですか」
「そう。といっても、表舞台に出ることはないけどね」
「師匠、魔道師自体、表舞台に出ることはないですよ」
マリアが苦笑いを浮かべるような顔になって言った。
「だからぁ、魔道師の世界においてもなかなか人前に現れないってことよ。アタシらは何だかんだ言って、他の魔道師と交流があるじゃない?」
「まあ、そうですね」
マリアの反応に、稲生はエレーナやポーリンの姿を思い浮かべた。
「とにかく、あいつは私利私欲で動くヤツだから、ユウタ君も気をつけなさいよ」
「は、はい。あの、それで“魔の者”についてはどうなりました?僕が1ヶ月留守にしている間、何か動きは?」
それにはマリアが答えた。
「全く無い。あまりにも無いものだから、色々なデマが流れたよ。ジェシカの行方も、全くとして知られることもなかったし」
「では、あの船の中で会った人が……」
「『呪われた絵』だね。正しく」
イリーナはワイングラスを置いてポツリと言った。
空になったグラスに、メイド服姿で人間形態になった人形が、徐にワインのボトルを持って来てイリーナのグラスにワインを注いだ。
「あの絵が消えたということですが……」
「正に、あの絵自体が“魔の者”そのものと言っていいでしょう。もし見かけたら直接触らず、私に言ってちょうだいね。すぐに処分するから」
「はい。でも何であの絵が、先生の部屋にあったのでしょう?」
稲生が疑問を投げかけると、マリアも同調した。
「そうそう、私も気になってた。前からありましたか?あの絵……」
「あの絵はねぇ……」
イリーナは新しいワインに口を付けながら、その経緯を語り出した。
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