報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「登山前の別れ」

2014-10-01 15:29:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日20:00.“富嶽温泉 花の湯” 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

「じゃあ温泉も入ったし、飲み食いしたし、そろそろ帰ろうか」
「はい」
 ユタは電話でタクシーを呼んだ。
「確かに贅沢に温泉入れたのはいいし、それなりの夕餉にも預かれたが……」
 威吹は着物の両の袂に両手を入れながら呟くように言った。
「お前の弟子が半ば酔い潰れてるのは、どういうことだ?」
「マリアさん、大丈夫ですか?10分くらいでタクシー来ますんで……」
 バッグのストラップに化けているミク人形やフランス人形が見かねて現れ、主人の前に付き添っているくらいだ。
「ああ……」
「外に出て夜風にでも当たってな」
 イリーナが促すと、
「手を貸しますよ」
 ユタが手を差し出した。
「……!」
 マリアはゆっくり立ち上がると、
「おっと!」
 ユタの差し出した手に絡みつくように掴まった。
「外に連れてって」
「は、はい!」
 ユタの手を組んで、外に出るマリアだった。
「あいつ、今のが目的ではないのか?」
 威吹は銀色の眉を寄せて言った。
「……かもね」
 イリーナはニッコリ笑った。
 何故か人形2体が、
「私達のご主人様に馴れ馴れしくすんな!」
 とばかりに、ユタの足を蹴っていたのが気になるが。
 もっとも、そこは人形。ユタはそれにすら気づいていない。
 せいぜい、一緒についてきてるマリアの人形が足に何か当たってるくらいの認識だ。

「大丈夫ですか?もし何だったら、途中で二日酔いの薬でも……」
「いい。魔道師には魔道師の薬がある。いざとなったら、それを……」
 外に出た時、まだ呼んだタクシーはいなかった。
「珍しいですね。マリアさんがあんなに飲むなんて……」
「こうしでもしないと、なかなか踏ん切りが付かないから……」
「どういうことですか?」
 するとマリアはユタの方を向くと、少し背伸びをし、
「!!!」
 ユタの唇に自分の唇を重ねた。
(あ……)
 ユタは一瞬、何が起こったか分からなかった。
 人形達も似たようなものだったらしく、女主人と間男(人形達の認識)を茫然と見ていた。
「……こういうこと、だ」
 マリアがさっきより顔が赤いのは、酔いのせいではなかっただろう。

[同日同時刻 東京都江東区森下 ワン・スター・ホテル ポーリン・ルシフェ・エルミラ&エレーナ・マーロン]

「騒ぐな!落ち着きなさい」
 ロビーでキャーキャー騒ぐエレーナ。
 その弟子を叱り付ける師匠ポーリン。
 たまたま水晶玉でライバルの動向を見ていたのだが、ちょうどマリアがユタとキスしたところだった。
「このままイっちゃえ!」
「イリーナのヤツ、本当にだらしがないわね。ほんと、あの師匠にしてこの弟子ありだわ」
「先生、きっとこの後マリアンナはホテルに行って、ついに処女を……!」
 エレーナは興奮気味でポーリンの方に乗り出した。
「あのコ、人間時代に何回かレイプされてるから、もう処女ではないと思うけど……。とにかく趣味悪いから、これ以上の追跡は今日のところはやめなさい」
「えーっ!」
 師匠の非情な命令に、エレーナは心底残念な顔をした。
 が、師匠の命令は絶対である。
 エレーナは言われた通り、水晶玉の画像を消した。
「せっかくだから、予備用にあなたの杖も新調する?」
「えっ、いいんですか?」
「あっちが富士山の麓なら、こっちは本場イングランドね」
「おーっ!“ハリー・ポッター”みたい!」
「エレーナ、それ違うから」
 実はあまり西欧には行っていない東欧系魔女の2人だった。

[同日21:00.富士急富士宮ホテル ユタ、威吹、イリーナ、マリア]

「じゃあ、また明日ね。明日、駅まで送って行くわ」
「ありがとうございます」
 富士宮駅からも、大石寺直通バスが1往復運転されている。
 無論、大石寺行きは午前中の(ダイヤ通りに走れれば)布教講演に間に合うダイヤになっている。
 その後、イリーナはユタにそっと耳打ちする。
「私に遠慮することはないし、人形達にはマリアと私から言っておくから」
「は、はい!」
 マリアとキスした後、我に返った人形達に、
「うちのご主人様に何さらすんじゃい!」
 とばかりに襲われそうになったユタだった。
 今でもバッグのストラップに化けた人形達が、ユタに目を光らせている。
「躾がなっておらんな、お前の人形は……」
 威吹は眉を潜めてマリアに言った。
「ひっ……ヒック……!……ひゃっ……くり……!しゃっくり……止まんない……!もうダメ……!」
「あー、ハイハイ。早く部屋に戻って休もうね」
「お前の人形、引き取れ!」
 何故か威吹の左肩に乗っかって降りようとしないフランス人形軍団の1体、レイチェル。
 メイド服のような衣装を着ている。
「あらまぁ。威吹君、気に入っちゃったのね。しょうがないから、今夜は一緒にいてあげて」
「とか何とか言って、オレ達に対する草(スパイ)じゃないだろうな!?」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさー!」
 ユタもまた我に返った後は終始、鼻の下が伸びっ放しだったという。
「どうするんだよ、この人形……。人形に言い寄られても、嬉しくないのだが……」
 威吹は迷惑そうにマリア達の隣の部屋に入った。
「言われた通り、預かってたら?」
 と、ユタ。
「いい加減、オレの肩から降りろ!」
 威吹はフランス人形レイチェルを肩から引き離し、ベッドに放り投げた。
 自我や意識はあるのか、表情を変える。
「絶対、オレ達の動向を探る為の間者だよ」
「そうかもね」
 2人の会話に対し、レイチェルは無言でフルフルと首を横に振った。
 ユタはレイチェルをライティングデスクの椅子に座らせた。
「とにかく、明日は予定通り、支部登山だ。多分、御山の近くに陣取ってる藤谷班長達が先に宿坊に行ってて、僕達が後から合流する形になるだろうね」
「キノのヤツ、よく寺のすぐ隣に泊まれるもんだ」
「それだけ栗原さんのことが好きなんだよ」
「キノ本人はともかく、陽気な妹が巻き込まれて哀れだな」
「『人間界の社会勉強の為だ』だってさ」
 ユタはスマホを片手に言った。
 どうやら、藤谷や江蓮とメールのやり取りはしていたらしい。
「なるほど」
 威吹は頷いた。
「若いうちから別世界の空気に触れさせること自体は、悪いことではないがな……」
 多分、自身の体験も入っているだろう。

[8月30日08:00.富士急富士宮ホテル ユタ、威吹、イリーナ、マリア]

「おはようございます」
「あー、おはよー」
 朝食会場であるレストランに行くと、既に魔道師2人が待っていた。
「ほら、お前の人形返すぞ」
 威吹はばつが悪そうに目をそらしているマリアに、レイチェルを返した。
「あらあら。そのまま持ってても良かったのに」
 イリーナは残念そうな顔をした。
「あいにくと、その人形はオレの趣味ではない。ユタにあげたらどうだ?」
「ユウタ君には後で、別のものをあげるつもりだから」
「はあ?何だそれは?」
「大丈夫ですか、マリアさん?二日酔いとかは……」
 ユタがマリアの顔を覗き込むと、マリアは俯いて、
「昨夜はあんな失態を……」
「いやいや、いいんですよ!僕は嬉しかったですよ!」
 ユタは両手を振って、慌てて取り繕うように言った。

 朝食会場ではパンやコーヒーなどが食べ放題だったが、朝カレーもある。
 むしろ威吹は、そっちを食べていた。

[同日10:30.JR富士宮駅北口バスプール ユタ、威吹、イリーナ、マリア]

「あいにくと私達、これから行く所があるからさ、あいにくとお寺までは一緒に行けないの」
「いえ、いいんです。本当に、ありがとうございました」
 バス停の前にバスが1台やってくる。
 普通のワンステップバスだった。
 フロント上の大きな行き先表示板にはオレンジ色のLEDで、『特急 大石寺』と書かれていた。
 新富士駅からのバスもそうだが、何故か普段は出口用の前扉から乗るという不思議なシステムである。
「9月に杖を取りに行くんですね?」
「まあね。でもその時はさくっと取りに行っちゃうから、新しい杖は後で見せてあげるわ」
「そうですか」
「ほら、マリア。少しの間、会えなくなるから、ちゃんと握手して」
 ユタはマリアの小さな手を握った。
「じゃあ、また……」
「うん……」

〔「10時30分発、大石寺行き、まもなく発車致します」〕

「それじゃ」
「気をつけてね」
 ユタと威吹はバスに乗り込んだ。
 この2人が最後の乗客であり、2人が乗り込むと、すぐに前扉が閉まった。

〔「発車します。ご注意ください」〕

 ユタ達は2人席に座った。
 いわゆるワンロマというヤツで、2人席が多く、網棚も付いているタイプである。
 バスがバスプールを出るまで、魔道師2人は車中の人達を見送った。
「そういえば威吹、イリーナさんと何か2人で話をしてなかった?」
 ユタが聞くと威吹は、
「ああ。だが、変な話ではないよ。まあ、適当な世間話でもなかったがな」
「え?」
「ま、気にせずユタは参拝を楽しめばいい。ボク達は御多聞に漏れず、寺の外で待たせてもらうよ」
「そ、そう?」
 バスは昨日の朝と違い、穏やかな青空の下、今日ははっきり見える富士山に向かって駒を進めて行った。

                                                 夏編その2 終

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3 コメント

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つぶやき (作者)
2014-10-01 18:09:42
 新しくJR東海の新社長に就任された柘植康英氏。
 その座右の銘は、
「1人の10歩より10人の1歩」
 だという。
 素晴らしいと思うが、顕正会や法華講とは相容れないか。何故なら、
「1人で10人折伏より10人で1人折伏」
 なんて受け入れられると思うかい?
 特に顕正会なんて、1人で10人折伏することが喜ばれるのだから、やはり違うのだと思う。
 そしてそれは、法華講も同じだ。
返信する
Unknown (ANP)
2014-10-01 19:55:35
ttp://news.mynavi.jp/photo/news/2014/09/24/326/images/002l.jpg

前面になにか出っ張りがあったのですが案の定先頭車転落防止幌でしたw

jr東とかでも増解結する車両とかがありそうなのでこれを採用しないんですかね?
返信する
ANPさんへ (作者)
2014-10-01 21:13:32
 こんばんは。

 気動車のキハ100系やキハ110系などの一部では転落防止幌が取り付けられています。
 しかし、それ以外の電車などでは見たことが無いですね。
 多分、デザイン上、不格好なのと、寒冷地などでは却って雪をフロント部分に溜め込んでしまうので、使い勝手が悪いんだと思います。
 首都圏の通勤電車は基本的に固定編成ですし、中距離電車では必ずしも2編成以上で運転するとは限りませんから。
 だから、JR西日本でも雪の多い所を走る車両や基本的に固定編成だけで走る線区には幌は無いんじゃないでしょうか。
 写真にあった207系、松井山手行き、これって確か福知山線脱線事故の電車のルートでしたよね。まあ、事故電車は京田辺行きだったかな。
 あれも確か3両編成と4両編成の2台連結だったから、それが日常的な207系には必要な装備なんでしょうね。
 207系なら雪の多い所も走らないでしょうし。
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