報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

原案紹介 14

2013-10-16 18:15:10 | 日記
(視点は再び三人称へ)

 威吹は確信した。ユタには実は死生樹の葉は効いていないのだと。何故ならユタはバスに乗る前、生花店で花束を買い、洋菓子店でケーキを買い求めたからだ。
 車中でバスに揺られながら、威吹は意を決したかのように聞いた。
「もうユタは思い出したんじゃないのかい?」
「うん。思い出した」
 あっさり認めた。
「最初から?」
「いや、1番変だなと思ったのが、飯田線に乗ろうと言った時。何か……本来なら中央本線を名古屋方面まで行く計画だったのに、飯田線って言った理由が分かんなかった」
「そこからか……」
 そして目的地の町まで行った時、確信したという。
「あんなに苦労して魔界に行ったのになぁ……」
 威吹は残念そうな顔をした。
「いや、甲斐はあったと思うよ」
「えっ?」
「とにかく、マリアさん達に話があるんだ」
「……?」

 バスはいつもの通り、森の入口に到着する。魔道師のことだから、屋敷ごと行方をくらますことは序の口だと思ったが、そんなことは無かったようで、立て札形式の道標は健在だった。
「うへ、もう1度クイズやれって?」
「更に難しくなってる……」
 ここで1時間くらいはロスしたかと思う。

 どうにか屋敷に到着した時だった。
「ん?何か、中から音楽が聞こえない?」
 威吹が長くて尖った耳を澄まして言った。
「ピアノの音が?」
「それもあるけど……」
「あれ?こんなの、前あったっけ?」
 玄関ドアの横に、インターホンが付いていた。押すとちゃんと、ピンポーンって鳴る。
「こんにちはー」
 ドアが開くと、そこにはフランス人形達がいた。
「マリアさん、いらっしゃいます?」
 すると、人形がスーッと奥へ向かった。
「誰か歌ってるな?」
「あいつが?」
「いや、マリアさんの声でも、イリーナさんの声でもない」
 ユタ達は人形に誘われ、奥へ向かった。

「わたしは歌うの♪誰の為に♪あなたの為に♪でもわたしが1番歌いたいから♪」
 歌詞が聴き取れるくらいにまで、はっきりと歌声が聞こえてくる。
「一体、誰が歌ってるんだ?」
「ボク達以外に、来客があるのかな?」
 ドアを開けると、そこにいたのは……。
「あ、あなた達……」
 マリアとミク人形だった。

 マリアはミク人形を膝に抱いて、ソファに座った。
「少し魔力が向上したので、このコに魔法を掛けてみた。そしたら望み通り、歌えるようになったのだ」
「名実共に、ボーカロイドか」
 ユタは納得したように頷いた。
「来る度にヒヤリとさせる連中だ。ここに来たということは、死生樹の葉は効かなかったのか?」
「いや、それは効いたと思いますよ」
「ならば……」
「マリアさん達の想定通りにはいかなかっただけの話で」
「稲生よ。私が口添えするから、イリーナに弟子入りしたらどうだ?相当な魔道師になれるかもしれんぞ?」
「いえ、結構です。僕は普通の人間でいたいんで」
「それは残念だ」
「それより、気になったのはもっと別のことです」
「?」
「もともと、死生樹の葉なんてものは存在しなかったんじゃないかって」
「は?」
「どうしてそう思う?では、そこの狐妖怪が嘘情報流したというのか?」
「いや、威吹は悪くない。威吹が持って来てくれた情報は本当でしょう」
「では……」
「当初は『死んだ人を生き返らせる』という、はっきりとした内容でした。それがいつの間にやら、『悲しみを無くすだけ』という曖昧なものに変わってしまった。妖狐族に伝わる内容と、僕達が取ってきた葉っぱは別物の可能性も……」
「…………」
 マリアは、参ったような顔になった。
「おい、マリアンナ。お前が嘘情報流したのか!」
 威吹が憤慨するように言った。
「いや、私も嘘は言ってない。ちゃんと稲生氏にも、内容に沿う資料を見せた」
「それにしたって、内容がかけ離れ過ぎてる。本当は別に、あるんじゃないですか?」
「責任問題を言うなら、多分そこの妖狐にあるだろう」
「何だって!?今度は責任逃れか!」
「死生樹には、確かにある部分に死人を蘇らせる効果のあるものが存在する。それは、葉っぱではない」
「ええっ!?」
「何だ、それ!?」
「花だよ」
「花ぁ!?」
「花なんて咲いてなかったけど……。うっ、桜と同じで季節物か!?」
「季節物どころではない。100年に1度咲けばいいだけだ。前回咲いたのは10年前と聞いた」
「てことは……次に咲くのは90年後!?……僕、生きてない……」
「そこでもう1度相談だ。魔道師になれば、90年なんぞ風の一吹きだぞ?何せ師匠は概算で1000年は生きてることになるくらいだ」
「それでも、結構です」
「ユタ……」
「……そうか。やはり、葉っぱなど飲ませるべきではなかったか」
「悲しみを消す効果があるというのは本当のようですね。おかげで今、スッキリしています」
「そうか」
 それで魔界に行った甲斐はあったと言ったのか。
「何だかんだ言って、マリアさんやイリーナさんにはお世話になりましたので、お礼を……」
 ユタは花束とケーキを差し出した。
「ああ。……ありがとう」
「イリーナさんはどちらへ?」
「今は日本にいない。いつまたここに来るかも分からん。師匠には、あなた達のことは伝えておく」
「よろしくお願いします」

 珍しく屋敷の外まで、マリアが見送ってきた。
「今までありがとうございました」
「歳を取ってからでもいいので、もし魔道師になりたくなったら、いつでも訪ねてきてくれ。時と場合によっては、私が師匠になるかもしれん」
「はい。それじゃ……」
 ユタ達は屋敷をあとにした。
 見送った後で屋敷に戻るマリア。
「それにしても……」
 マリアは抱き抱えていたミク人形のぜんまいを巻いて、床に置いた。自分で床の上を歩くミク人形。
「……やっぱりあの稲生氏、ただ霊力が高いだけの人間ではないような気がする」
「ふふふ。やっぱり私の弟子ね」
「あっ」
 いつの間にか屋敷の中に、イリーナがいた。
「師匠。ヨーロッパ放浪に行ったんじゃなかったのでは?」
「気がかりなことがあって、戻ってきたのよ」
「気がかり?」
「この国でね、何かありそうな気がしてね」
「この国で?」
「まあ、たまに私の取り越し苦労ってのもあるんだけど……」
「それは何ですか?」
「まだ調査中。でも、この国の人間達も薄々気づいてるみたいだから、大丈夫なんじゃないの?」
(富士山でも噴火するのか?それとも、南海トラフ?)
「それよりこの人形、一段と可愛くなったね?」
「ああ。私の魔力というより、あの稲生氏の霊力によるものが大きい。本当に歌まで歌うようになってしまった」
「名前は何ていうの?」
「何か知らんが、『初音ミク』という名前だった」
「いい名前ね。よろしくね」
 イリーナが右手を差し出すと、小さな右手を差し出してコクコク頷くのだった。

 帰りのバスが無いので、本当に威吹に背負ってもらうユタだった。
「悪いねぇ……」
「想定内だからいいよ。ったく!葉と花を間違うなんて、笑い話にも程がある!あの魔女も、最初から花だと言えばいいものを……!」
 結局、最初から最後まで振り回されたのは威吹であったようだ。
「花だと最初から言ってたら、僕は悲しみを抱えたままだったよ。むしろ、マリアさんの優しさだったと思うね」
「ま、おかげで魔女というのがどんな奴らか分かったけどさ」
 そして、その恐ろしさも。
(今は味方になってくれたからいいようなものの、敵に回ってきたら厄介だな……)
「威吹の跳躍力で行けば、快速“みすず”に間に合うな。これで飯田まで行って、そこで1泊して、明日は特急“(ワイドビュー)伊那路”2号に乗ろう」
「……鉄道マニアの記憶も消して欲しかったかな?」
「ん?何か言った?」
「何でもなーい」
 以上がユタが顕正会を辞めてから法華講に入るまでの、不思議な不思議な体験の一部始終である。
 尚、御受戒後、ユタが再び長野県を訪れた記録は残っていない。
                                  終

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