報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

まだ続く。

2013-10-30 15:21:27 | 日記
 [14:20.東京都江東区菊川のマンション 十条伝助&キール・ブルー]

「財団仙台支部の敷島孝夫参事と、エミリーがまもなく到着します」
 長身に清潔感のあるスーツを着たキールが、書斎として使用している部屋に恭しく入って来た。
 十条はパソコンの画面から目を離すと、丸いレンズの老眼鏡を掛け直して意外そうにキールの方を向いた。
「はて?バスで向かってきた割には、随分と早いな」
「先ほど菊川駅前のバス停を降りたので、まもなく到着すると」
 キールが頭を下げる度に、前髪で顔が隠れてしまう。縁の無い丸いレンズの眼鏡を掛けているが、これは理知的さをアピールする為のもので、度の無いものである。
「私の仕事が終わるまで、待ってはもらえんのかね?」
「はい。そう申し上げたのですが、『こちらは仙台からわざわざ来たんですから、お願いしますよ』と……」
「それで言い返せなかったのか?」
「申し訳ありません……」
 この対応はキールらしくないなと十条は思った。いくら相手が財団職員とはいえ、十条の方が理事で立場は上だ。敷島が来るという話を聞いた時、まるで締め切り間近の作家と、その原稿を取りに来る編集者のようだと思った。
 確かに今日まで返事をしなければならぬアンケートがあるにはあったが、無回答はイコール欠席なので、それを決め込んだつもりだった。おおかた、キールが目的だろう。
(キールはあくまで執事ロボットしての存在であり、ボーカロイドみたいな売り方は絶対にお断りだと言ったのだが……。違うのか?)
 いや、それにしても……。
「キールよ。敷島君が来ることといい、お前はどうも敷島君に対して弱気なような気がする」
「は?そんなことは、無いと思いますが……」
「いやいや、そんなことはある。もしかしてお前、何か敷島君に弱味でも握られているのか?ドクター・ウィリーとの決戦の時、敷島君が真っ先にあいつの元へ到着できたのも……」
 しかしキールは十条の言葉が終わらぬうちに、否定する発言を始めた。
「いえ、そんなことはないのですが。そもそも、敷島プロデューサー……いえ、敷島参事とはそんなに面識もありませんし」
「ならば、何故そんなに敷島君に従順なのかね?南里さんの威光なら、もう気にすることはないんだぞ?もう、この世の人ではないんだし
「いや、その……敷島参事というよりは……その……」
「まあ良い。私だけアンケートを無視したことにも責任はあるからな。会おう」
 十条はパソコンを“スタンバイ”の状態にしておくと、書斎を後にした。

[14:30.同場所 敷島、エミリー、十条、キール]

「いやあ、都心とはいえ、仙台からは遠いですなぁ……。それはさておき、懇親会の出欠についてお話を伺いましょうか」
 敷島は嫌味ったらしく言った。
「何が遠路遥々だ。それに、懇親会と言ったって、実態はメイドロボット達をコンパニオンにしただけのドンチャン騒ぎだろうが。うちのキールは出さんぞ」
「あらま、こりゃ帰りの電車は最終になりそうですかねぇ?」
 敷島はちらっとロボット2機を見た。
「御回答を頂けたら、すぐにでもお暇するつもりでしたが……」
「何がだ?」
「じゃあ理事、我々と2人でゆっくり話し合いましょうか。てなわけで、この2人には外に出てもらってもいいですかね?」
「それは構わんが……。何をニヤけておる?」
 敷島はそれには答えず、2人の方を振り向いて言った。
「そういうわけだ。話が終わったら呼ぶから、一緒にその辺歩いてきなよ。お前ら、久しぶりに会ったんだろ?特に、エミリー。せっかくだから、彼に思いっきり甘えちゃいなよ」
「なっ!?」
 エミリーとキールは、同時に顔を赤らめた。
「い、行きましょう」
 キールはエミリーの手を取って、そそくさと部屋を出て行った。
「??? 一体、あの2人は何なんだ???」
「あれ?理事、御存知無かったんですか?」
「は?」
「あの2人は今、財団内で有名な関係なんですよ」
「……親子の設定をした覚えは無いが……?」
「はい、ブブーッ!財団所属のロボットなら、全員知ってますよ。今話題のアツアツ歳の差カップルです」
「…………」
 敷島の言葉に、十条は開いた口が塞がらなかった。
「キールの奴、製造5年であんな……」
「いやあ、理事発明の感情レイヤーは随分と優秀ですねー!その10倍以上もの長い期間稼動しているエミリーを振り向かせたんですからねぇ!」
「……少し、改良が必要かもな」
「またまたぁ……。それより、本題に入りましょうか」
「ここで私が即答したら、せっかくデート中のあの2人を呼び戻すことになるんだろう?」
「ええ、まあ……」
「だったらもう、この時点で最終の新幹線でも予約しておきたまえ。私も今夜は出かけるからな」
「えっ、どちらに?」
「今日は何曜日だ?」
「金曜日です」
「金曜の夜に夜行バスないしは列車で実家に帰省し、土日は実家で過ごす。これが私のライフスタイルだ」
「へえ……で、日曜の夜にまた夜行バスで東京へ?」
「そうだ。本当は列車がいいのだが、廃止になってしまった」
「寝台特急“北陸”、需要はあったのにねぇ……。分割民営化の弊害ですかな」
「よく見ているな?」
「こう見えましても、鉄道好きなもんで」
「それがどうして、東京駅から都バスで?」
「何ででしょうねぇ……」
 敷島は腕組みをして首を傾げた。

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