[10月12日18:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷1F大食堂]
稲生:「屋敷内の窓、全て雨戸を閉めました」
イリーナ:「御苦労様。それではディナーにしましょう」
稲生:「はい」
稲生はイリーナの向かい、いつもの席に座った。
雨戸といっても洋風建築にあるような、観音開きタイプのものではない。
雨戸の必要性に迫られたのは来日してからで、それで後付けで取り付けられた。
その為か、雨戸といってもそれはシャッターである。
それも電動や手で直接開閉するのではなく、クランクを差し込んで回して開閉するタイプの。
マリアのメイド人形達がシャッター閉鎖作業を行い、稲生がそれを確認していた。
マリア:「これで窓が割れることはないでしょう。問題は停電ですけどね」
イリーナ:「問題無いわ。この屋敷は私がいる限り、停電の心配は無いから」
マリア:「それもそうですね」
イリーナ:「浸水の被害だけ無いようにしてちょうだい」
稲生:「先生、屋敷から県道に繋がる道はどうしましょう?さすがに崩壊の危険性があるかと思いますが?」
マリア:「それも大丈夫。今は隠してあるから」
稲生:「分かりました」
マリアの屋敷は都合3回ほど壊れている。
が、3回ともその理由は自然災害ではない。
イリーナ:「むしろ東京と埼玉の心配をした方がいいわね」
稲生は食堂内に設置されたテレビを見た。
どのチャンネルも、今は台風ニュースばかりをやっている。
稲生:「台風の進路上ですからね。もしかして、東京や埼玉に被害が?」
イリーナ:「出るわよ。私が占うまでもなく」
稲生:「ま、まさか、僕の実家は……?」
イリーナ:「私の占いでは凶と出なかったから、それは大丈夫でしょう」
稲生:「良かった……」
マリア:「しかし勇太んちの辺り、レベル4の『避難開始』とあるけど?」
稲生:「ええっ?」
イリーナ:「勇太君、すぐに御両親に連絡して。もし外が暴風雨になっているのなら、無理に避難しなくていいって」
稲生:「分かりました」
稲生は自分のスマホを手にすると席を立った。
マリア:「この屋敷は師匠のおかげで安全地帯ですけど、勇太は実家に帰さなくて良かったんですか?」
イリーナ:「この屋敷が安全だから帰さないのよ。どうして可愛い弟子をわざわざ危険地帯に帰すの?」
マリア:「それはそうですが……」
しばらくして稲生が戻って来た。
稲生:「取りあえず自宅待機と言っておきました」
イリーナ:「うん、ありがとう。わざわざ死亡フラグを立てるまでもない」
イリーナはそう言ってワインを口に運んだ。
稲生:「エレーナは大丈夫なんでしょうか?東京も直撃コースですが……」
エレーナ:「あのコは如何なる時も常に通常運転だから大丈夫」
稲生:「そうですか。むしろワンスターホテルの方が安全かな?」
エレーナ:「そうかもね」
バチン!(停電した音)
稲生:「うわっ!停電した!?」
イリーナ:「ありゃ?」
マリア:「ちょっと師匠!どうなってるんですか?!」
すぐにメイド人形達がローソクに火を点け、それを燭台に差した。
おかげで真っ暗にはならなくなったのだが……。
イリーナ:「地下の魔法具に不具合かしら?後で見て来るわ。取りあえず先に食べましょう」
マリア:「いや、先に見て来てださいよ」
稲生:「まあまあ、マリアさん、落ち着いて。僕が見に行きますから」
マリア:「でもテレビが観れなくなって、台風情報が……」
稲生:「占いがあるじゃないですか」
マリア:「常に刻々と変わる台風情報を常に占えってか?」
稲生:「あっ……」
イリーナ:「勇太君のスマホ、ワンセグ入ってるんじゃないの?」
稲生:「すいません。アンドロイドには入っていたんですが、iPhoneには入ってないんですよ」
イリーナ:「あらまっ」
稲生:「一応、ラジオアプリは入れてますけどね、こんなこともあろうかと」
イリーナ:「ラジオ点けて」
稲生:「分かりました」
稲生はラジオアプリを開いて、それでラジオを受信した。
[同日19:00.天候:雨 マリアの屋敷地下1F]
マリア:「いや、だから師匠には今すぐ確認に行かせないとって言ったの!」
稲生:「すいませんでした……」
稲生がマリアに怒られている理由、それはイリーナがワインの飲み過ぎで酔い潰れたからであった。
この屋敷の光熱を担う魔法具は、屋敷の地下室に保管されている。
その部屋の名目上は電気室ということになっている。
プールのある場所とは同じフロアにある。
基本的に大事な魔法具であるから、イリーナしか入れない部屋にはなっている。
だがマリアはイリーナがどこに鍵を隠してあるのか、その魔法具の再起動の仕方については既に知っていた。
まず2人は食事を終えた後、イリーナを主人の部屋に運び込んだ。
そしてイリーナのローブの中からルビーのような魔法石を取り出すと、暖炉の上に置いてある小箱の蓋に空いている穴に差し込んだ。
小箱がパカッと開くと、中に古い形の鍵が入っているので、それを取り出す。
それはまるでキーコーヒーのロゴマークのような形をしている古めかしい鍵だった。
今度は図書室に行って、件の魔法具の再起動方法が書かれた魔道書を取りに行く。
たったそれだけの為の本なのに分厚いのは、半分以上がくり抜かれていて、中に起動キーが2つ入っているからだった。
それだけの準備をして、やっと現場に向かうのである。
マリア:「ここに行くまでの間にも、デストラップが仕掛けられてる。もちろん私達には作動しない上、そもそも魔法具が停止している間は作動しないけどね」
稲生:「作動されたら困ります」
マリア:「……だね」
マリアは鍵を手に電気室のドアを開けた。
稲生は懐中電灯を手に中の様子を探る。
稲生:「良かった。停止の原因が浸水だったらどうしようかと思いました」
マリア:「それは困るな。でも、有り得ないことじゃない。浸水してもいいように、早いとこ再起動させないと」
稲生:「浸水してもいいように?」
マリア:「排水ポンプがあるんだけど、結局それも停電したんじゃ使えない」
稲生:「そ、それもそうか」
マリア:「あれだよ」
稲生:「これが魔法具ですか!?」
稲生は目を丸くした。
そこにあったのは、どう見てもただの配電盤だったからだ。
据置型の大きな配電盤だ。
マリア:「見た目はね。そっちに鍵を差し込んで」
稲生:「はい」
マリア:「で、こっちにもう1つの鍵を差し込む」
稲生:「はい」
マリア:「いい?私が呪文を唱えるから、合図したら同時に鍵をONの所に回してよ?」
稲生:「分かりました」
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」
マリアが呪文を唱えると、配電盤のランプが点灯した。
マリア:「Restart!」
マリアが2つの鍵の1つを回した。
同時に稲生も同じ方向に回す。
すると、メーターが動いて正常値レベルの所を差した。
マリア:「真ん中のレバーをONにして」
稲生:「はい」
大きなレバーをガチャンと上に押し上げると、電気室内の照明が点灯した。
マリア:「これでいい。再起動完了だ」
稲生:「まるで本当に電気室ですね。魔法とは思えない」
マリア:「私じゃ無理だ。こういう風に上手くカムフラージュできるところは、さすがグランドマスターだと言えるな。今現在はただの酔い潰れたオバハンだけど」
稲生:「まあまあ」
マリア:「早く戻ろう。台風が心配だ」
稲生:「はい」
2人の魔道士は電気室をあとにして、地上に上がる階段へと向かった。
稲生:「屋敷内の窓、全て雨戸を閉めました」
イリーナ:「御苦労様。それではディナーにしましょう」
稲生:「はい」
稲生はイリーナの向かい、いつもの席に座った。
雨戸といっても洋風建築にあるような、観音開きタイプのものではない。
雨戸の必要性に迫られたのは来日してからで、それで後付けで取り付けられた。
その為か、雨戸といってもそれはシャッターである。
それも電動や手で直接開閉するのではなく、クランクを差し込んで回して開閉するタイプの。
マリアのメイド人形達がシャッター閉鎖作業を行い、稲生がそれを確認していた。
マリア:「これで窓が割れることはないでしょう。問題は停電ですけどね」
イリーナ:「問題無いわ。この屋敷は私がいる限り、停電の心配は無いから」
マリア:「それもそうですね」
イリーナ:「浸水の被害だけ無いようにしてちょうだい」
稲生:「先生、屋敷から県道に繋がる道はどうしましょう?さすがに崩壊の危険性があるかと思いますが?」
マリア:「それも大丈夫。今は隠してあるから」
稲生:「分かりました」
マリアの屋敷は都合3回ほど壊れている。
が、3回ともその理由は自然災害ではない。
イリーナ:「むしろ東京と埼玉の心配をした方がいいわね」
稲生は食堂内に設置されたテレビを見た。
どのチャンネルも、今は台風ニュースばかりをやっている。
稲生:「台風の進路上ですからね。もしかして、東京や埼玉に被害が?」
イリーナ:「出るわよ。私が占うまでもなく」
稲生:「ま、まさか、僕の実家は……?」
イリーナ:「私の占いでは凶と出なかったから、それは大丈夫でしょう」
稲生:「良かった……」
マリア:「しかし勇太んちの辺り、レベル4の『避難開始』とあるけど?」
稲生:「ええっ?」
イリーナ:「勇太君、すぐに御両親に連絡して。もし外が暴風雨になっているのなら、無理に避難しなくていいって」
稲生:「分かりました」
稲生は自分のスマホを手にすると席を立った。
マリア:「この屋敷は師匠のおかげで安全地帯ですけど、勇太は実家に帰さなくて良かったんですか?」
イリーナ:「この屋敷が安全だから帰さないのよ。どうして可愛い弟子をわざわざ危険地帯に帰すの?」
マリア:「それはそうですが……」
しばらくして稲生が戻って来た。
稲生:「取りあえず自宅待機と言っておきました」
イリーナ:「うん、ありがとう。わざわざ死亡フラグを立てるまでもない」
イリーナはそう言ってワインを口に運んだ。
稲生:「エレーナは大丈夫なんでしょうか?東京も直撃コースですが……」
エレーナ:「あのコは如何なる時も常に通常運転だから大丈夫」
稲生:「そうですか。むしろワンスターホテルの方が安全かな?」
エレーナ:「そうかもね」
バチン!(停電した音)
稲生:「うわっ!停電した!?」
イリーナ:「ありゃ?」
マリア:「ちょっと師匠!どうなってるんですか?!」
すぐにメイド人形達がローソクに火を点け、それを燭台に差した。
おかげで真っ暗にはならなくなったのだが……。
イリーナ:「地下の魔法具に不具合かしら?後で見て来るわ。取りあえず先に食べましょう」
マリア:「いや、先に見て来てださいよ」
稲生:「まあまあ、マリアさん、落ち着いて。僕が見に行きますから」
マリア:「でもテレビが観れなくなって、台風情報が……」
稲生:「占いがあるじゃないですか」
マリア:「常に刻々と変わる台風情報を常に占えってか?」
稲生:「あっ……」
イリーナ:「勇太君のスマホ、ワンセグ入ってるんじゃないの?」
稲生:「すいません。アンドロイドには入っていたんですが、iPhoneには入ってないんですよ」
イリーナ:「あらまっ」
稲生:「一応、ラジオアプリは入れてますけどね、こんなこともあろうかと」
イリーナ:「ラジオ点けて」
稲生:「分かりました」
稲生はラジオアプリを開いて、それでラジオを受信した。
[同日19:00.天候:雨 マリアの屋敷地下1F]
マリア:「いや、だから師匠には今すぐ確認に行かせないとって言ったの!」
稲生:「すいませんでした……」
稲生がマリアに怒られている理由、それはイリーナがワインの飲み過ぎで酔い潰れたからであった。
この屋敷の光熱を担う魔法具は、屋敷の地下室に保管されている。
その部屋の名目上は電気室ということになっている。
プールのある場所とは同じフロアにある。
基本的に大事な魔法具であるから、イリーナしか入れない部屋にはなっている。
だがマリアはイリーナがどこに鍵を隠してあるのか、その魔法具の再起動の仕方については既に知っていた。
まず2人は食事を終えた後、イリーナを主人の部屋に運び込んだ。
そしてイリーナのローブの中からルビーのような魔法石を取り出すと、暖炉の上に置いてある小箱の蓋に空いている穴に差し込んだ。
小箱がパカッと開くと、中に古い形の鍵が入っているので、それを取り出す。
それはまるでキーコーヒーのロゴマークのような形をしている古めかしい鍵だった。
今度は図書室に行って、件の魔法具の再起動方法が書かれた魔道書を取りに行く。
たったそれだけの為の本なのに分厚いのは、半分以上がくり抜かれていて、中に起動キーが2つ入っているからだった。
それだけの準備をして、やっと現場に向かうのである。
マリア:「ここに行くまでの間にも、デストラップが仕掛けられてる。もちろん私達には作動しない上、そもそも魔法具が停止している間は作動しないけどね」
稲生:「作動されたら困ります」
マリア:「……だね」
マリアは鍵を手に電気室のドアを開けた。
稲生は懐中電灯を手に中の様子を探る。
稲生:「良かった。停止の原因が浸水だったらどうしようかと思いました」
マリア:「それは困るな。でも、有り得ないことじゃない。浸水してもいいように、早いとこ再起動させないと」
稲生:「浸水してもいいように?」
マリア:「排水ポンプがあるんだけど、結局それも停電したんじゃ使えない」
稲生:「そ、それもそうか」
マリア:「あれだよ」
稲生:「これが魔法具ですか!?」
稲生は目を丸くした。
そこにあったのは、どう見てもただの配電盤だったからだ。
据置型の大きな配電盤だ。
マリア:「見た目はね。そっちに鍵を差し込んで」
稲生:「はい」
マリア:「で、こっちにもう1つの鍵を差し込む」
稲生:「はい」
マリア:「いい?私が呪文を唱えるから、合図したら同時に鍵をONの所に回してよ?」
稲生:「分かりました」
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」
マリアが呪文を唱えると、配電盤のランプが点灯した。
マリア:「Restart!」
マリアが2つの鍵の1つを回した。
同時に稲生も同じ方向に回す。
すると、メーターが動いて正常値レベルの所を差した。
マリア:「真ん中のレバーをONにして」
稲生:「はい」
大きなレバーをガチャンと上に押し上げると、電気室内の照明が点灯した。
マリア:「これでいい。再起動完了だ」
稲生:「まるで本当に電気室ですね。魔法とは思えない」
マリア:「私じゃ無理だ。こういう風に上手くカムフラージュできるところは、さすがグランドマスターだと言えるな。今現在はただの酔い潰れたオバハンだけど」
稲生:「まあまあ」
マリア:「早く戻ろう。台風が心配だ」
稲生:「はい」
2人の魔道士は電気室をあとにして、地上に上がる階段へと向かった。
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