報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「女湯の語らい」

2020-06-13 22:56:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月9日23:00.岩手県盛岡市 ホテルドーミーイン盛岡 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 夜食サービスの『夜鳴きそば』というラーメンを食べたマリアと稲生は、1度部屋に戻った。
 大浴場にはタオルが無い為、客室から持って行く必要があったからだ。
 マリアが部屋に戻ると、そこにイリーナはいなかった。
 代わりにシャワールームから使用中の音が聞こえる。

 マリア:「師匠、ただいま戻りましたー!」
 イリーナ:「はいよー」
 マリア:「で、私は勇太と一緒にOnsenに入って来ます」
 イリーナ:「行ってらっさー。ゆっくり入って来ていいよー。アタシゃ、先に寝るからー」
 マリア:「Yes,sir!」

 イリーナとのこのやり取りはマリアにとって想定内。
 別にマリアの予知能力とかではなく、長年の付き合いによるものである。
 マリアは自分の分のフェイスタオルとバスタオルを取ると、もう1度部屋を出た。
 そして、部屋の外で待っていた稲生と合流し、最上階の大浴場へ向かった。

 稲生:「本物の温泉みたい。マリアの体の傷痕、これで治るといいなぁ」
 マリア:「もう治ったと言っても過言じゃないよ。でも、ありがとう」

 マリアは稲生と別れ、女湯に入った。
 稲生とは、しばしの別れである。

 マリア:(本物の温泉か……)

 マリアは早速、館内着と下着を脱いで一糸纏わぬ姿になると、体重計に乗ってみた。
 マリアの体重は……。

 マリア:「言わなくていい!」

 す、すいません……。

 マリア:(温泉、久しぶりに入るなぁ……)

 脱衣所には日本語だけでなく、英語や中国語、ハングルで書かれた注意書きがあるところを見ると、かつてはインバウンドの宿泊客も多くいたのだろう。
 だが、コロナ禍の今にあっては、明らかに外国人と分かる入浴者はマリアしかいなかった。
 もちろん、入浴マナーは既に何度も入っているので熟知している。
 観光ビザで入国したインバウンド旅行客ではなく、『永住者』なのだ。
 内湯にも露天風呂にも、1人用の壺風呂が設置されている。
 露天風呂の大風呂に入っていると、聞こえてくるのは市街地の喧騒。
 何だか、不思議な気分だ。
 ドーミーイン秋葉原にも露天風呂はあって、これがまた地方の温泉旅館の露天風呂みたいな雰囲気なだけに、すぐ近くを走るJRの電車の音が聞こえてくるというミスマッチを楽しむことができる。

 マリア:(今度はあの壺風呂ってのに入ってみよう)

 マリアが立ち上がって、大風呂から出ようとした時だった。

 マリア:「!?」

 誰も入っていない壺風呂から、ゴホゴボと泡が噴き出て来た。
 まるで誰かが潜っていて、そこから息を吐いているかのようだ。

 マリア:「! (まさか、あの変態理事じゃないだろうな!?)」

 さすがに今は魔法の杖は持っていない。
 だが、呪文を唱えて呼び寄せることはできる。
 見習いだとこういった魔法が使えない為、魔法の杖を持っていない時に暴漢に襲われると大変な目に遭う。
 実際それで強姦されてしまった見習い魔女の話を知っているし、自分も危険な目に遭いそうになったことがある。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」
 ???:「プハーッ!」

 ザバーッと壺風呂から現れたのは、某変態理事ではなかった。
 れっきとした女性であるが、しかもマリアにはその女性に見覚えがあった。

 マリア:「マルファ先生!?何してるんですか!?」
 マルファ:「おんや~?そういうあなたはイリーナ組のマリアンナちゃんじゃない。どうしたの?」

 ダンテ一門の1期生の1人、マルファであった。
 個性派揃いの1期生の中でも、特に自由人として知られている。
 ふくよかな体型の白人で、セミロングにした金髪はマリアよりも黄色に近く、それはエレーナとだいたい同じ髪色だった。
 それを束ねて、前の方に持って来ている。
 で、普段は黒縁眼鏡を掛けているのだが、風呂に入っているというのに(しかも湯船に潜水していたというのに)、それを掛けたままであった。

 マリア:「こちらが聞きたいです。びっくりさせないでくださいよー」
 マルファ:「冥界鉄道の列車が今夜、出発するって言うから便乗しようと思ったんだけどォ……」
 マリア:「あ、それって……」
 マルファ:「何か、トレインジャックが起きたせいで大事故が起きたってんで、運休になったみたいなのよ~。しょうがないから、近くのホテルに一泊して、明日帰ろうと思って」
 マリア:「そ、それは残念でしたねぇ……」
 マルファ:「で、マリアンナちゃんはどうしてここに?イリーナから破門された?」
 マリア:「破門された弟子が、何で温泉でゆっくりしてるんですか。私達は魔界に行ってたんです。ところが、帰りの冥鉄列車が正にミッドガード共和国の軍隊に襲われて、それで大事故に巻き込まれてしまったんですよ」
 マルファ:「さすがイリーナだね。1期生の中で1番運が良い」
 マリア:「そうなんですか」
 マルファ:「私の占いではそう出てるよ。ラッキーな先生に付くと、弟子もラッキーになるね~」
 マリア:「喜んでいいんだか悪いんだか……。そういう先生は?今はお1人じゃないんでしょう?」
 マルファ:「イリーナだって1人で出掛けることがあるでしょ?あれと一緒」
 マリア:「先生の弟子も温泉に連れて行ってあげるといいのに……」
 マルファ:「こういうのは日本人の紹介が無いとね。イリーナやマリアンナちゃんだってそうだったでしょ?」
 マリア:「それはそうですけど、別に必ずしも、そうでなくちゃいけないなんてことは……」
 マルファ:「……って、私の占いに出た」
 マリア:「そ、そうですか。まあ、仮にも大魔道師の1人であるマルファ先生の占いにそう出たのであれば、きっとそうなんでしょう」

 だが、マリアは……。

 マリア:(確かこの先生、1期生の中で1番占いがヘタって聞いたことがあるような……?)
 マルファ:「さて、ここで会ったのも何かの縁だからね。先生の背中でも流してもらおうかなっ?」
 マリア:「私はうちの師匠の背中も流したこと無いんですけどねぇ……」
 マルファ:「あら、そうなの?今度やってあげたら?きっと喜ぶよ~」
 マリア:「そうですかね」
 マルファ:「……って、私の占いに出た」
 マリア:「あっ、あー……」
 マルファ:「というわけで、よろしく~」
 マリア:「は、はい」

 マリアは口元を歪めた。

 マリア:(この人が師匠になったらなったで、何だか疲れそうだな……)

 マリアは苦笑をすると一緒に洗い場に行き、組違いの師匠の背中を流し始めた。

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