報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「信州帰行」

2016-02-19 00:28:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月26日14:30.天候:晴 フジドリームエアラインズ212便機内 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 稲生達を乗せたジェット機は5分遅れで、新千歳空港を離陸した。
 離陸する時の加速など、飛行機にまだ乗り慣れていない稲生には手に汗握るものであった。
 飛行機は大型機ではなく、中央の通路の両脇に2人席が並んでいるだけというものだった。
 窓側にマリア、その隣に稲生が座り、マリアの前にイリーナが座っている。
 イリーナの隣に座る者はいなかった。
 離陸後、水平飛行に入ってシートベルト着用サインが消えると、イリーナは空港で買った空弁に手を付けた。
 稲生達は、CAが配る飲み物を受け取る。
「マリアさんが鼻息荒くして、横田理事を追い回した時には驚きましたよ」
 稲生がコーヒーに砂糖を入れながら、マリアを見て言った。
「さすがに脱衣所忍び込みと、下着泥棒は立派な性犯罪だと思っている。あのヘンタイ野郎、10着も盗んでやがった」
「10着も!?ひえー……」
 その横田、盗んだ下着には大してこだわりは無いらしい。
 ただ、盗まれた被害者の女性達が、最年少は9歳、最年長が42歳と年齢にバラつきがあり過ぎた。
 横田にとっては、女児ショーツでも派手なヒモパンでも何でも良いらしい。
 マリアのような、女子高生向きのものでも似合う者など、しっかり対象に入っているということだ。
「じゃあ、今頃横田理事は警察の御厄介に……」
「いや」
 マリアは首を横に振り、そして不気味な笑みを浮かべた。
 目の瞳孔が収縮するのかブルーの瞳がグレーのようになり、中央に小さな黒点が入る。それは“魔女の目”である。
「“魔女”が性犯罪者を、フツーに警察に引き渡すわけがないだろう。日本の法律は緩いからな」
「で、では……」
「取りあえず、一緒に長野まで飛んでもらうことにした」
「は???」
 稲生は周囲を見たが、横田らしい姿を見ることはできなかった。
「私達からは見えない位置にいるよ」
「な、何か気になるなぁ……」

「……ハァ、ハァ……!も、もっとキツく縛ってくださいぃぃぃぃぃ!」
 盗んだ女性のショーツを頭に被りつつも、尾翼に括りつけられている横田。
 信州まつもと空港着陸後、彼の運命や如何に?

[同日16:50.天候:晴 松本バスターミナル 上記メンバー]

 飛行機はほぼ定刻通りに着陸した。
 その後、松本駅に移動する為にエアポートシャトル(アルピコ交通バス)に乗り換えた。
 といっても、乗車時間30分では、普通の路線バスであったが。
 バスターミナルと駅は、目と鼻の先である。
「先生、大糸線に乗り換えるには時間があります」
 稲生が残念そうな顔をした。
「それじゃ少し早いけど、ここで夕食でも取って行きましょう」
「いいんですか?」
「それなら時間ある?」
「ええ、大丈夫だと思います」
 稲生は頷いた。

「……止まった駅ごと〜♪変わる人達〜♪どこかで必ず〜♪また会える〜♪……キミは今〜♪北海道〜♪」
 マリアの使役人形、ミク人形ことミカエラとハク人形ことクラリスが、今さら“北の大地”を歌っている。
 JR北海道の社歌だが、ダークダックスの持ち歌でもある。
 本当に社歌として歌う場合、最後の歌詞が『JR北海道』に変わるらしい。

 バスターミナルのビルには飲食店が入居しており、そこで魔道師達は早めの夕食を取った。
「もう少しで帰れるね。あと電車の乗り継ぎはどれくらい?」
 イリーナが稲生に聞いた。
「松本発、信濃大町行き普通列車と、信濃大町発、南小谷行き普通列車に乗るので2回ですね」
「そうかい。なかなかいい旅じゃないか。でも、不便なようで便利でしょ?」
「そうですね。よく魔界では徒歩で旅をしたものですよ」
「人間界では、ローカル線とはいえ、ちゃんと電車が走っているんだから、これほど楽なことはないよ。あ、白馬駅からはさすがに迎えを呼ぶけどね」
「ありがたいです」
「でも、さすがに疲れました。帰って早く休みたい」
 と、マリア。
「まあ、気持ちは分かるけどね。日付が変わるまでには帰れるさ。ねえ、ユウタ君?」
「ええ。白馬着19時40分です。日本の鉄道はローカル線でも時間に正確ですから」
「だよねぇ……」
 魔界高速電鉄の電車には、基本的に時刻表表示が無い。
 地下鉄や路面電車だと、『現在、10分間隔』とか、高架鉄道だと『先発 急行。前駅発車』『次発 各停。前々駅発車』という表示があるくらいだ。

[同日17:59.天候:曇 JR大糸線3243M電車内 上記メンバー]

 日が暮れた頃に、長野県の北へ向かう電車が発車した。
 イリーナはドア横の席に座り、仕切り版にもたれ掛って寝入りの体勢を取っていた。
 マリアはそんなイリーナと稲生の間に挟まれるようにして座っているが、マリアは魔道書を取り出して、それを読んでいる。
 ダンテ著の魔道書はラテン語で書かれており、それはマリアも読めない為、専用の眼鏡を掛けていた。
 赤い縁の眼鏡である。
(マリアさん、眼鏡も似合うな……)
 夕方のラッシュのせいか、電車は211系3両編成で、それはロングシートのみの電車である。
 どうせならマリアと向かい合って座りたかった稲生だが、これはこれで体が触れ合うので、いいかもしれない。
「……ユウタ」
「はい!?」
「私を見るのもいいけど、そろそろ魔道書を読んでいた方がいいよ」
「あ、はい。そうですね!」
 そういえば魔界に行ってたり北海道に行ってたりしてた為に、なかなか魔道書を読む期間にブランクが出てしまっていた。
 稲生も荷物の中から魔道書を出すと、それに目を通した。

[同日20:15.天候:雪 長野県白馬村郊外・マリアの屋敷 上記メンバー]

 信濃大町駅から、また電車に乗り換えた。
 今度はE127系の2両編成だったが、こちらはボックスシートがあって、それに座ることができた。
 その電車で更に北上を続けると、途中で雪が降り出してきた。
 迎えの車はイリーナが頼んだこともあって、ベンツSクラスの高級車であったが、ちゃんとチェーンを巻いているほどの積雪であった。
「何だか、久しぶりに帰って来たって感じだなぁ……」
 稲生は車を降りながら、マリアの屋敷を見上げた。
 稲生を魔界に吸い込んだ魔法陣のあった場所は、雪に埋もれてしまっていた。
 だから、まだ魔法陣があるのか、はたまた消えてしまったのかは分からない。
 元々除雪をしない裏庭にあった場所だから、実際にあるかどうかは長野県北部に遅く訪れる春を待たないと直接確認はできないだろう。
「さあ、今夜はゆっくり休んで、明日に備えるよ。魔界に行ったことは実技修行ってことにするけど、それ以外の修行は疎かになってるからね」
 イリーナは弟子達に言った。
「はーい」
「分かりました」
 魔道師達は屋敷の中に入ると、各自分の部屋に向かった。

 稲生の部屋はメイド人形達が掃除してくれていたおかげできれいになっていた。
 シャワーとトイレ、洗面台は部屋備え付けだが、バスタブは共用である。
「あ、ダニエラさん。僕、今夜は風呂に入りたいんだけど……」
 メイド人形のダニエラに言うと、ダニエラは頷いて風呂の用意をしてくれた。
 エントランスホールを挟んで東西のエリアに分かれている洋館だが、東側を使っているのは稲生だけの為、共用と言っても、ほぼ稲生専用である。
 逆に西側に住んでいるマリアとイリーナに気を使って、稲生が西側のバスルームを使うことはない。

 こうして魔界への強制旅は終了し、無事に帰ることができた。
 それでも、“魔の者”からの脅威が消えたわけではない。
 しつこさが特徴の悪魔であるため、未だに稲生を狙っている恐れがある。
 脅威が無くなるまで、しばらく警戒は続きそうである。

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