報恩坊の怪しい偽作家!

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明日へ

2013-08-09 15:32:31 | 日記
 “新人魔王の奮闘記”より。 前回より更に続く……。

[01:30 魔王城総理公邸 安倍春明]

 うーん……。何だか、今夜は寝付きが悪いな。ちょっとトイレに行ってこよう。行っトイレ。……すいません。
 昼でも薄暗いのが魔界だが、夜の暗さは人間界と一緒。しかし、魔王城内は常に常夜灯が点いているので、けして真っ暗ではない。前政権の民主党の奴ら、これみよがしに薄暗くて不気味な魔王城に電気を引いてパーッと明るくしやがったからな。まあ、人間である私も明るい方がいいので、公務中は使用させてもらっている。
「おっと!」
 廊下に飾ってあるガーゴイルの像が、私が横切ると、目が赤く鈍い光を放った。ただそれだけなのだが、もしこれが登録者以外の部外者だったら、たちまち石像から生身の猛獣の姿に変身し、侵入者を食らうのだ。魔界のセコムは命掛けだ。
 因みにトイレの角には、西洋の騎士の鎧が飾ってあって、これも面の部分が近づくと赤く光る。侵入者の場合、この後【お察しください】。
 大魔王ヴァール政権時代からの遺物らしいが、しっかしよくこんなもの仕掛けたもんだ。暴政に任せて、王室予算を湯水の如く使えた名残りだろうか。
 もっとも、閉鎖されている旧館に行けば、ガーゴイルや鎧の仕掛けがオモチャに見えるくらいの残酷な仕掛けがあるという。

 魔王城は民主党や今の我々の政権になってから、改装・改築が進んで、取りあえずトイレは高級ホテル並みの豪華さに変わった。確かここも水関係のトラップが仕掛けられていた部屋で、トイレの水はその仕掛けから引いているのだとか。
「ふう……」
 トイレが済んで、再び私の居室に戻ろうとした時だ。
「ん?」
 薄暗い廊下を歩く人影が見えた。警備兵だろうか。しかし総理公邸区域部分は、ほとんど“セコム”が入っているようなものなので、あまり警備兵を必要としないのが実情だ。
「何だ……」
 ここ何日か公邸に宿泊しているレナだった。たった1人の弟の一斉捜索が行われているので、その情報を得る為に私が滞在を許可した。無論、魔王城本館へは無許可で立ち入らないようには言ってあるのだが。
「レナ。何してんの?」
 私が声を掛けると、いきなりレイピアを抜いて斬りかかろうとした。
「うっ!」
 私は昔取った杵柄で、サッとかわした。
「あ、何だ。ハルか。びっくりさせないでよ」
「びっくりしたのは、こっちだけどな!」
 ある意味、ルーシーに似てんな、こいつ。私は気を取り直して、
「女子トイレなら向こうだぞ」
「ああ、違うの。トイレじゃなくて」
「ん?」
「この時間って、魔王はまだ起きてるの?」
「えっ?」
 レナは窓から外を指差した。その先には、灯りの灯った本館があった。そして外は昼より暗いが、しかし普段の夜よりは若干明るい。今夜は満月だからだ。魔族達が1番元気になる夜である。で、満月の夜はルーシーも……。
「満月の夜は、魔王が1番力の強い夜っていうからねぇ……」
 よく見たらレナは寝巻きではなく、赤い綿入れに軽装の赤い鎧も着込んでいた。
「ああ、そうだ。だから俺達、新月の日を狙って行ったんだっけ」
 だからだ。ルーシーが民主党の裏切りに遭った時、翻した民主党人民軍に比較的簡単に捕らえられてしまったのは。思ったより強い魔力が使えず……。救い出した時の憤怒の形相は今でも忘れない。
「だったらレナ、予想通り、今夜のルーシーは寝ないでいるはずだ。何しに行くんだ?」
「王宮見学会」
「!」
「顔色が変わったね。ハルは昔から変わんないねー」
 レナは笑みを浮かべた。
「公務の忙しい魔王様が、満月の夜だけ城下から一般市民を招いて行われる見学会。表向きは、『一般市民に、王室にもっと親近感を持ってもらうため』ということになってるけど、何で満月の夜なの?」
「そ、それは……。ルーシーが決めたことだ。俺は知らん」
「政治家になってから、素直じゃなくなったね」
「悪かったな。素直な政治家なんて、『失脚させてくれ』って言ってるようなもんだろうが」
「で、見学会の受付はどこでやってるの?」
「完全予約制だ。当日の飛び入り参加は認められてない」
「それでもドタキャンする奴はいるだろうから、その枠に入らせてもらうわ」
「だから、ダメだって!」
「何で?」
「だ、だから、その……。魔王と直接会うわけだから、申込者の身辺なんか調査してから決めるわけで……」
「見学会の参加対象は人間だけなんだってね。何で?」
「人間が1番、魔王城から遠い所にいるからだよ。うちの党は偏った政治はしないことに決めてるから……」
「それは亜人もそうなんじゃないの?魔族でも、一生魔王城に近づいたことすらない奴もいるはずだよ」
「う……。そ、それは……」
 そしてレナは、キッとハルを睨みつけた。
「魔王の奴、見学会と称した“生贄”を求める儀式をしてる。私はそう見てる。そしてあんたは、それを阻止する為に首相になったはずなのに見逃してる!」
「ち、違う……!」
「堕落した『元・勇者』が!」
 レナはそう言い放つと、本館に向かって足早に向かった。
「ま、待て!待ってくれ!」
 レナの言ってることは……半分当たってる。だけど、半分間違ってる。
「どうしました?何かありましたか?」
 と、そこへ巡回中の警備兵がやってきた。
「首相閣下!どうかなさいましたか?」
「れ、レナを取り押さえてくれ!」
「ははっ!」
 警備兵が数名、レナの後を追う。
(くそっ!傭兵の情報力をナメていた)
 春明は近くにある内線電話を取った。そして、ある場所へ掛ける。
{「……はい。本館警備室です」}
「安倍だけど、陛下は居室におられるか!?」
{「総理!……あ、はい。大至急確認致します。お待ちください」}
 それから、
{「お待たせしました。陛下は謁見の間に向かわれておられます。“王宮見学会”の……」}
「くそっ!」
 春明はガチャンと乱暴に電話を切った。
 何としてでも、レナとルーシーの衝突は避けなくてはならない。

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