[8号車]
私はメモ帳を読み上げた。
愛原:「『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!嗚呼、神の復讐よ!嗚呼、何ということだ!』」
透明な牛頭(ごず)は驚いた顔をしてこちらを見ている。
まさか、私が何か魔法でも使うとは思わなかっただろう。
だがしかし、私は私立探偵だ。
魔法使いなどではない。
それでもこのメモ帳には、何か大きな力が秘められているような気がする。
私は3枚あるメモのうちの1枚を読み上げた。
愛原:「『パル・プ・ンテェ』!」
一体何が起こるだろうか!?
愛原:「…………」
牛頭:「…………」
敷島:「…………」
高橋:「…………」
山根:「…………」
な、何も起こらない!?
そ、そう言えば某有名RPGの似たような名前の呪文に、唱えても何も起こらないというオチがあったような……?
牛頭:「ウガァァァァッ!!」
バカにされたとでも思ったのか、牛頭は憤怒の雄たけびを上げ、一気にプロレスラーみたいな大男を踏み潰して殺した。
血しぶきなどが車内にぶちまけられる。
その中から、牛頭が私に金色の瞳を光らせて睨みつけた。
その下にある口には鋭い牙、そして両手には牛の蹄……ではなく、かつて霧生市のバイオハザードで遭遇したクリムゾンヘッドのような長くて鋭い爪を持っていた。
愛原:「!!!」
もはや、これまでか……!
???:「見つけたぞ、牛頭!こんなとこでサボってやがったのか!!」
車内に若い男の声が響いた。
まるで、高橋みたいな感じの男だ。
牛頭はビックリして動きを止めた。
鋭い爪の切っ先が、正に私に触れようとした時だった。
???:「牛頭!……それと馬頭(めず)!クサい芝居するんじゃねぇッ!!」
7号車のドアの向こうから、着物姿の男が現れた。
黒い着物の下に、同じく黒い袴をはいて草履をはいている。
右手にはどこかで血を吸ったのか、一部が赤く染まった刃が目に付く日本刀を手にしている。
髪は着物と同じ長い黒髪で、それを後ろで束ねていた。
肌は色黒で、額の所に一本角のようなものが生えている。
踏み潰された大男のような長身ではあったが、この着物の男に関してはスラッとした体型であった。
牛頭:「ほ、蓬莱山鬼之助様……!な、何故……!?」
キノ:「閻魔庁から指名手配食らってんぜ、テメェら!」
すると踏み潰されて肉塊と化したはずの大男も、その肉塊が元に戻って行く。
そしてそれは踏み潰される前の大男の姿ではなく、馬の頭が特徴の馬頭鬼に変わっていった。
そうだ。地獄界の獄卒と言えば、牛頭鬼の他に馬頭鬼もいたはずだ。
馬頭:「魔界まで逃げてしまえば高飛びできると思ったのに……!」
キノ:「とっとと来い!テメェらには仕事がたんまり残ってるからなぁ!」
如何に長身の男とはいえど、それぞれがプロレスラーみたいな体格の牛頭と馬頭を恫喝して、蓬莱山鬼之助と呼ばれた……あれも地獄界の鬼の一種なのだろう。彼はその2人の獄卒を後ろの車両に連行していった。
きっと私達を何か罠に嵌める為に、『クサい芝居』をしたのだろうな。
山根:「待って!」
幸太郎君があの鬼達の後を追うように7号車に向かったが……。
山根:「あっ!」
愛原:「どうした?」
山根:「7号車が無くなってる!」
敷島:「何だって!?」
私達は再び7号車の方へ向かった。
すると7号車へ通じる貫通ドアは堅く閉ざされていたのだが、窓越しに向こうを見ても、そこにあるのは真っ暗闇でしかなかった。
その向こうの6号車もだ。
電車は未だに走り続けているのが不気味だが……。
敷島:「とにかくこれは、前に向かって進むしかないということでしょうな」
愛原:「そ、そうですね」
もはや文字通り、退くは地獄か。
今まで後ろの車両に引き返そうかと思った選択肢があったが、あれは恐らく間違いだったのだろう。
地獄の闇に呑まれるなどして、バッドエンドだったか。
私達は前の車両に進むことにした。
敷島:「愛原さん、さっきのパルプンテ。ちゃんと発動したみたいですよ」
愛原:「どういうことです?」
敷島:「あの魔法には、『とてつもなくおそろしいものをよびだしてしまった!』というものがあるそうです。あの牛頭と馬頭にとって、あの着物の男は『とてつもなくおそろしいもの』だったのでしょう。そして、敵全員が逃走して戦闘が強制終了とあいなったわけです」
愛原:「なるほど。実際は逃走ではなく、連行でしょうがね」
敷島:「私達にとっては結果オーライです」
愛原:「確かに」
高橋:「先生、魔法も使えるんですか!さすがです!やはりこれからの探偵は、魔法も使えないといけないということでしょうか!?」
愛原:「何でそうなる」
敷島:「高橋君、『愛原さんが魔法が使えること』よりも、『愛原さんが魔法を使おうとした』というその発想こそが探偵に必要なインスピレーションってヤツなんじゃないのかい?」
高橋:「!?」
愛原:「おおっ!さすが敷島さんですね!」
高橋:「な、なるほど……」
高橋が自分のノートに今の言葉をメモっていた。
その間、敷島さんが先に9号車の中を覗く。
こちらの貫通扉はさっきの牛頭・馬頭が壊したので、9号車にはすぐに入れる。
敷島:「死体に慣れてないコは目を瞑って行ってくれ」
敷島さんが不快そうな顔で言った。
私にも分かっていた。
5号車も酷い有り様だったが、9号車は更にそれ以上だった。
9号車だけまるで事故に遭ったかのように車内はメチャメチャに壊れ、そこに乗っていたであろう乗客達の惨殺死体が転がっていた。
愛原:「霧生市のバイオハザードでも、似たような光景は見たんだが……」
高橋:「あそこは死体が歩いていたんで、逆にまだマシでしたね」
とはいえ、5号車の件もある。
頭が無事な死体もあり、これがいきなり起き上がって襲って来る恐れもある。
幸太郎君には私が目を押さえてやって、10号車に進むことにした。
愛原:「敷島さんは大丈夫なんですか?」
敷島:「100%平気といったらウソになりますよ。ただ、こういう惨劇をリアルで目の当たりにした経験は過去に何回かあるので、ある程度の免疫はあるんです」
愛原:「そうですか……」
車内は蛍光灯が所々点いているだけで薄暗いものだった。
それに関しては霧生電鉄の車内を思わせる。
ただ、あれには死体は乗っていなかったが。
高橋:「先生、これを!」
愛原:「ん?」
高橋が何か拾い上げた。
それはハンドガン。
高橋:「本物ですよ。弾も入ってます」
愛原:「マジか!?」
この車両には警察官でも乗っていたのだろうか。
確かにこの拳銃、警察官が持っているものに似ているような……?
さっきの牛頭・馬頭みたいな妖怪が現れて応戦しようとしたが、間に合わずに殺されたのだろうか。
愛原:「一応、もらっていこう。他には無いのか?」
敷島:「まあ、そう簡単に銃が転がってるわけが無いですからね」
しかし、敷島さんは網棚の上に何かを見つけた。
敷島:「猟銃あったし!」
愛原:「何故に!?」
ショットガンだった。
まあ、確かに猟銃としてのものだろう。
こんなもん電車に持ち込んでいたヤツがいたのか?
で、やはりこれも使う間も無く殺されたわけか。
愛原:「高橋君!お前はハンドガンの方が使いやすいって言ってたな?」
高橋:「ハイ」
愛原:「じゃあ、これはキミが持って。俺は猟銃を使うから」
高橋:「分かりました」
敷島:「あなた達、本当に探偵ですか?」
愛原:「え、ええ、まあ……」
高橋:「そういうアンタこそ、本当に芸能事務所の社長かよ!」
愛原:「まあまあ。とにかく、先に進もう」
私はついに最後の車両、先頭車である10号車への扉を開けた。
私はメモ帳を読み上げた。
愛原:「『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!嗚呼、神の復讐よ!嗚呼、何ということだ!』」
透明な牛頭(ごず)は驚いた顔をしてこちらを見ている。
まさか、私が何か魔法でも使うとは思わなかっただろう。
だがしかし、私は私立探偵だ。
魔法使いなどではない。
それでもこのメモ帳には、何か大きな力が秘められているような気がする。
私は3枚あるメモのうちの1枚を読み上げた。
愛原:「『パル・プ・ンテェ』!」
一体何が起こるだろうか!?
愛原:「…………」
牛頭:「…………」
敷島:「…………」
高橋:「…………」
山根:「…………」
な、何も起こらない!?
そ、そう言えば某有名RPGの似たような名前の呪文に、唱えても何も起こらないというオチがあったような……?
牛頭:「ウガァァァァッ!!」
バカにされたとでも思ったのか、牛頭は憤怒の雄たけびを上げ、一気にプロレスラーみたいな大男を踏み潰して殺した。
血しぶきなどが車内にぶちまけられる。
その中から、牛頭が私に金色の瞳を光らせて睨みつけた。
その下にある口には鋭い牙、そして両手には牛の蹄……ではなく、かつて霧生市のバイオハザードで遭遇したクリムゾンヘッドのような長くて鋭い爪を持っていた。
愛原:「!!!」
もはや、これまでか……!
???:「見つけたぞ、牛頭!こんなとこでサボってやがったのか!!」
車内に若い男の声が響いた。
まるで、高橋みたいな感じの男だ。
牛頭はビックリして動きを止めた。
鋭い爪の切っ先が、正に私に触れようとした時だった。
???:「牛頭!……それと馬頭(めず)!クサい芝居するんじゃねぇッ!!」
7号車のドアの向こうから、着物姿の男が現れた。
黒い着物の下に、同じく黒い袴をはいて草履をはいている。
右手にはどこかで血を吸ったのか、一部が赤く染まった刃が目に付く日本刀を手にしている。
髪は着物と同じ長い黒髪で、それを後ろで束ねていた。
肌は色黒で、額の所に一本角のようなものが生えている。
踏み潰された大男のような長身ではあったが、この着物の男に関してはスラッとした体型であった。
牛頭:「ほ、蓬莱山鬼之助様……!な、何故……!?」
キノ:「閻魔庁から指名手配食らってんぜ、テメェら!」
すると踏み潰されて肉塊と化したはずの大男も、その肉塊が元に戻って行く。
そしてそれは踏み潰される前の大男の姿ではなく、馬の頭が特徴の馬頭鬼に変わっていった。
そうだ。地獄界の獄卒と言えば、牛頭鬼の他に馬頭鬼もいたはずだ。
馬頭:「魔界まで逃げてしまえば高飛びできると思ったのに……!」
キノ:「とっとと来い!テメェらには仕事がたんまり残ってるからなぁ!」
如何に長身の男とはいえど、それぞれがプロレスラーみたいな体格の牛頭と馬頭を恫喝して、蓬莱山鬼之助と呼ばれた……あれも地獄界の鬼の一種なのだろう。彼はその2人の獄卒を後ろの車両に連行していった。
きっと私達を何か罠に嵌める為に、『クサい芝居』をしたのだろうな。
山根:「待って!」
幸太郎君があの鬼達の後を追うように7号車に向かったが……。
山根:「あっ!」
愛原:「どうした?」
山根:「7号車が無くなってる!」
敷島:「何だって!?」
私達は再び7号車の方へ向かった。
すると7号車へ通じる貫通ドアは堅く閉ざされていたのだが、窓越しに向こうを見ても、そこにあるのは真っ暗闇でしかなかった。
その向こうの6号車もだ。
電車は未だに走り続けているのが不気味だが……。
敷島:「とにかくこれは、前に向かって進むしかないということでしょうな」
愛原:「そ、そうですね」
もはや文字通り、退くは地獄か。
今まで後ろの車両に引き返そうかと思った選択肢があったが、あれは恐らく間違いだったのだろう。
地獄の闇に呑まれるなどして、バッドエンドだったか。
私達は前の車両に進むことにした。
敷島:「愛原さん、さっきのパルプンテ。ちゃんと発動したみたいですよ」
愛原:「どういうことです?」
敷島:「あの魔法には、『とてつもなくおそろしいものをよびだしてしまった!』というものがあるそうです。あの牛頭と馬頭にとって、あの着物の男は『とてつもなくおそろしいもの』だったのでしょう。そして、敵全員が逃走して戦闘が強制終了とあいなったわけです」
愛原:「なるほど。実際は逃走ではなく、連行でしょうがね」
敷島:「私達にとっては結果オーライです」
愛原:「確かに」
高橋:「先生、魔法も使えるんですか!さすがです!やはりこれからの探偵は、魔法も使えないといけないということでしょうか!?」
愛原:「何でそうなる」
敷島:「高橋君、『愛原さんが魔法が使えること』よりも、『愛原さんが魔法を使おうとした』というその発想こそが探偵に必要なインスピレーションってヤツなんじゃないのかい?」
高橋:「!?」
愛原:「おおっ!さすが敷島さんですね!」
高橋:「な、なるほど……」
高橋が自分のノートに今の言葉をメモっていた。
その間、敷島さんが先に9号車の中を覗く。
こちらの貫通扉はさっきの牛頭・馬頭が壊したので、9号車にはすぐに入れる。
敷島:「死体に慣れてないコは目を瞑って行ってくれ」
敷島さんが不快そうな顔で言った。
私にも分かっていた。
5号車も酷い有り様だったが、9号車は更にそれ以上だった。
9号車だけまるで事故に遭ったかのように車内はメチャメチャに壊れ、そこに乗っていたであろう乗客達の惨殺死体が転がっていた。
愛原:「霧生市のバイオハザードでも、似たような光景は見たんだが……」
高橋:「あそこは死体が歩いていたんで、逆にまだマシでしたね」
とはいえ、5号車の件もある。
頭が無事な死体もあり、これがいきなり起き上がって襲って来る恐れもある。
幸太郎君には私が目を押さえてやって、10号車に進むことにした。
愛原:「敷島さんは大丈夫なんですか?」
敷島:「100%平気といったらウソになりますよ。ただ、こういう惨劇をリアルで目の当たりにした経験は過去に何回かあるので、ある程度の免疫はあるんです」
愛原:「そうですか……」
車内は蛍光灯が所々点いているだけで薄暗いものだった。
それに関しては霧生電鉄の車内を思わせる。
ただ、あれには死体は乗っていなかったが。
高橋:「先生、これを!」
愛原:「ん?」
高橋が何か拾い上げた。
それはハンドガン。
高橋:「本物ですよ。弾も入ってます」
愛原:「マジか!?」
この車両には警察官でも乗っていたのだろうか。
確かにこの拳銃、警察官が持っているものに似ているような……?
さっきの牛頭・馬頭みたいな妖怪が現れて応戦しようとしたが、間に合わずに殺されたのだろうか。
愛原:「一応、もらっていこう。他には無いのか?」
敷島:「まあ、そう簡単に銃が転がってるわけが無いですからね」
しかし、敷島さんは網棚の上に何かを見つけた。
敷島:「猟銃あったし!」
愛原:「何故に!?」
ショットガンだった。
まあ、確かに猟銃としてのものだろう。
こんなもん電車に持ち込んでいたヤツがいたのか?
で、やはりこれも使う間も無く殺されたわけか。
愛原:「高橋君!お前はハンドガンの方が使いやすいって言ってたな?」
高橋:「ハイ」
愛原:「じゃあ、これはキミが持って。俺は猟銃を使うから」
高橋:「分かりました」
敷島:「あなた達、本当に探偵ですか?」
愛原:「え、ええ、まあ……」
高橋:「そういうアンタこそ、本当に芸能事務所の社長かよ!」
愛原:「まあまあ。とにかく、先に進もう」
私はついに最後の車両、先頭車である10号車への扉を開けた。
因みにこのパルプンテ、全員の体が砕け散ってゲームオーバーという展開もあり、それによるバッドエンドも考えていたのですが、そうなると他に正解ルートが無くなってしまうのでボツにしました。
もちろん、2番目のメガンテは無いですね、ハイ。
メモを全部読み上げる選択をしてしまうと、魔法の効果が無くなり、牛頭に殺されてバッドエンド。
如何に法華経とはいえ、二十八品全部読んでしまうと功徳が無いでしょう?あれと一緒。
最初の呪文だけ読み続ける選択肢を選んでも、やっぱり魔法は発動できずに殺されて終了です。
御題目三唱だけでは、あまり効果が無いでしょう?あれと一緒。