報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「南会津での一夜、その後明けて」

2020-11-18 19:51:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日22:00.天候:晴 福島県南会津郡南会津町 ダイワリンクホテル会津田島 善場とリサの部屋]

 夕食と買い物が終わった後、私達はホテルに戻った。
 リサにはもう寝る準備をさせ、そこで例の妙薬を投与することになった。
 それは注射であった。
 白いTシャツに黒い短パンを穿いて、もう寝る準備のできたリサ。
 私が立ち会っている。

 善場:「いい?注射したら眠くなると思うから、そのまま寝ていいからね」
 リサ:「はい……」

 さすがのリサも不安そうだった。

 愛原:「明日になれば目が覚めるから、それまでの辛抱さ」

 善場主任は注射を取り出した。
 やり方としては、インフルエンザの予防接種のような皮下注射ではなく、筋肉内注射だという。
 これは注射の中でも痛い方だ。
 但し、同じ予防接種でも、小児や高齢者以外では筋肉注射が行われることもある。
 善場主任はそういった資格があるのだろうか。
 看護師か、あるいは救急救命士か……。
 どちらかというと、後者のイメージがあるな。
 救急救命士というと、消防署に勤務していて、救急車に乗って出動するというイメージがあるが、その数は限られている。
 その為、せっかくこの国家資格を取得しても、それを最大限生かせる職場に就職できない者もいるという。

 リサ:「うん……」

 善場主任はリサの左腕に注射針を刺した。
 うん、確かインフルエンザの予防接種をする時と同じような位置である。

 善場:「これから眠くなると思いますよ」
 リサ:「…………」

 リサはすぐに眠りに落ちた。

 愛原:「すぐに眠るものなんですね」
 善場:「添加物として鎮静剤が入っていますので」
 愛原:「主任は、リサの体にどんな変化があると思いますか?」
 善場:「触手の位置の変化です」
 愛原:「と、言いますと?」
 善場:「リサ・トレヴァーは背中から触手を生やすのがセオリーです。このリサはまだしていないようですが、アメリカのオリジナル版は、背面体当たりのような攻撃もしたそうです。リサ・トレヴァーの攻撃法は特殊な怪力と触手なわけですね。で、ネメシスも触手を出しますが、どこから出すと思いますか?」
 愛原:「確か資料映像だと、手から出していましたね?」
 善場:「はい。掌から触手を出すのです。それを鞭のように使ったり、硬化させて棒のように使うこともできます。先を尖らせて鎗のように使った例もあります。背中からだと、いちいち服を脱いだりしないとダメなので面倒だと思いますし、攻撃に使うにはやはり制約があるんですよ。背中からですと」
 愛原:「なるほど」
 善場:「一番いいのは背中からの触手が無くなることですね」
 愛原:「期待通りに行くといいですね。でも期待通りにできるということは、リサを人間に戻すことも現実味のある話ということになりますね?」
 善場:「はい。今、それを目下のところ研究中です。実際、Aウィルスワクチンなる物も開発されています。これはAウィルスという、感染者をクリーチャーに変えてしまう生物兵器ウィルスの1つなのですが、今までの他のウィルスと違うのは、感染して発症した場合、もう治療の手立てが無かったわけですが、Aウィルスにあっては、例え発症してクリーチャー化したとしても、ワクチンを投与すれば元の生物に戻れるという特徴があります」
 愛原:「それは画期的ですね」
 善場:「あいにくとそれはAウィルスに対する専用ワクチンですので、Aウィルスにしか効かないのですが、しかしそれを見ても、リサ・トレヴァーを人間に戻す薬を開発することは可能だと言えるわけです」
 愛原:「当てはあるんでしたね?」
 善場:「ええ。『0番』を見つければ。恐らく『0番』がカギです。『1番』が『0番』のことを知っているはず」

 アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーも元は人間だった。
 その研究を引き継いだのが日本アンブレラ。
 アメリカの本体は、廃棄処分となったオリジナルからGウィルスなどを検出しただけに過ぎない。
 本体はそこから更に新たな生物兵器の開発に乗り出したが、日本は違った。
 あくまでも、リサ・トレヴァーそのものを兵器として使うことを模索した。
 海外では21世紀に入って何年もしてからようやく『少女兵器』に注目したが、日本では既に20世紀の時点で注目していたのである。
 さすがは萌え文化の国だ。

 善場:「その『1番』を捕まえるのです。『2番』のリサと違い、何の制御もされていない『1番』を放置しておくのは危険です」
 愛原:「はい。仰る通りです」

 私は大きく頷いた。

[11月7日06:00.天候:晴 同町内 ダイワリンクホテル会津田島2F 愛原と高橋の部屋→1Fレストラン]

 枕元に置いたスマホのアラームが起床時刻を伝える。

 愛原:「ううん……」

 私は手を伸ばしてアラームを止めた。

 愛原:「おい、高橋。朝だぞ。起きろ」
 高橋:「うス……。少年院だと6時半起床なんスよ……」
 愛原:「そうかもしれないが、今日は6時起床だ」

 私はベッドから起きると、部屋の照明を点けた。

 愛原:「先に顔洗ってくるからな?」
 高橋:「ういっス」

 私は電気シェーバーを持ってバスルームに向かった。

 朝の支度が終わる頃には、6時半を過ぎていた。
 部屋を出て、急いで朝食を済まさなくてはならない。
 階段を下りて1階のレストランに行くと、既に善場主任とリサはいた。

 愛原:「おはようございます」
 善場:「おはようございます」
 リサ:「おはよっ!」

 どうやら、あれから何の異常も無かったようだ。
 ただ、いつも食欲旺盛なリサが、更に食欲が旺盛になっていた。
 朝食レストラン会場はバイキングだが、山盛りにした料理をペロリと平らげて尚お代わりをしているのである。

 愛原:「どうでした?」
 善場:「想定通りに行けましたよ。ちゃんと両手の掌から触手を出せるようになりました」

 いつもはポーカーフェイスの善場主任が、少し微笑を浮かべて答えた。

 愛原:「それは良かった。しかし、随分と食べるみたいですが?」
 善場:「変化によるエネルギー消耗の弊害です。そのこと自体は想定していましたが、さすがにこの勢いは想定を少し超えましたね」
 愛原:「リサ、気持ちは分かるが、腹8分目にしておけよ?腹がパンパンになったら、戦いにくいだろう?」
 リサ:「それもそうだね」

 後から栗原姉妹がやってきた。
 さすがにリサが積み上げた皿の数にはドン引きしていた。
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“私立探偵 愛原学” 「南会津での一夜」

2020-11-18 15:15:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日18:30.天候:晴 福島県南会津郡南会津町 麺や焚く蔵]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は霧生市から少し離れた町、南会津町で一泊する。
 ホテルにチェックインした後、夕食を取りに再び出発する。
 そこは新しめのラーメン店であり、国道289号線バイパス沿いにあった。
 6人で夕食時ということもあり、少しだけ席が空くのを待って、それからテーブル席へ通された。

 善場:「ラーメンなら予算内です。好きな物注文してください」
 愛原:「ありがとうございます」
 リサ:「このメニュー全部!」
 高橋:「先輩ホストの奢りか!」
 栗原蓮華:「化け物が……」
 愛原:「チャーシュー麺とギョーザ5個いいですか?」
 善場:「ビールもいいですよ。一杯まででしたら」
 愛原:「いいんですか!?」
 善場:「何せ所長方には、これから死地に赴いて頂くことになりますから」
 愛原:「死地ねぇ……」
 リサ:「私は『2番』で、敵は『1番』だよねぇ?」
 高橋:「『7番』の七じゃねぇ!死亡フラグ立ちまくりの戦地って意味だよ!」
 愛原:「それでは、瓶ビール頂きます。高橋の分もいいですか?」
 善場:「結構ですよ。あなた達もドリンク頼んでいいですからね」
 リサ:「じゃあ私も先生と同じので」
 善場:「あと5年ガマンしなさい」
 愛原:「暴走するからやめろ」
 リサ:「JCが何言ってやがんだ」
 栗原愛里:「ぷっ!くくく……!」

 私達のやり取りに、リサとはなるべく離れた対角線上に座っていた栗原愛里さんが吹き出してしまった。

 愛原:「あはは……。こんな感じでね、いつもやらせてもらってます」
 栗原蓮華:「そうですか」
 愛原:「『化け物と仲良くしやがって気持ち悪い』と思うかもしれないが……」
 善場:「もしもこのコが1人でも人間を捕食していたら、殺処分は当たり前です。しかし、このコからはそのような証拠を取ることができませんでした。そこで私達の組織は、このコを人間に戻すプランの対象にしたわけです。このように、人間と仲良くするのも、そのプランの1つです。いくら見た目が人間でも、中身が化け物のままでは意味がありませんからね」

 もちろん、中身が人間で外側が化け物でも困るが。
 まあ、ディズニーのアニメみたいな感じにはなりそうだが。

 蓮華:「ウーロン茶ください」
 愛里:「わ、私もウーロン茶で」
 リサ:「じゃあ、オレンジジンジャー」
 善場:「すいません。まずはドリンクから注文お願いします」

 善場主任は店員を呼んで、まずはドリンクから注文した。
 ラーメン屋なのだが、ノリが明らかに居酒屋である。
 いや、ここにいるのが大人だけだったら、駅前の居酒屋でも良かったのだろうが。
 その後でラーメンやら何やら注文する。

 高橋:「先生はオーソドックスにチャーシュー麺とギョーザですか」
 愛原:「うん。『フツウガステキ』だよ」
 高橋:「何かの呪文っスね!さすがっス!」

 高橋はササッと私の言葉をメモに取った。
 リサの場合、私と同じチャーシュー麺を注文したまでは良かったものの、それが麺大盛りな上、更に唐揚げまで注文した。
 ラーメンが食べたいと言っておきながら、チャーハンの写真を見て迷っていたが。
 善場主任がむしろラーメンではなく、チャーハン。
 肉チャーハンと唐揚げを頼んでいた。
 ドリンクはノンアルビール。
 引率者として、さすがにアルコールは御法度か。
 栗原姉妹達は味玉中華そばとか、味噌チャーシュー麺とか頼んでいた。
 で、高橋は味噌野菜ラーメン。
 確かこいつ、いつもラーメン屋ではタンメン系を頼むんだった。

 高橋:「さっ、センセ!まずは一杯」
 愛原:「おっ、ありがとう」

 私は高橋からグラスにビールを注いでもらった。

 愛原:「お前もやれ」
 高橋:「あざっス!」

 私も高橋に返してやる。

 リサ:「次、わたし!私にもやらせて!」

 リサがお酌を買って出た。

 愛原:「ああ。次、頼むよ」
 善場:「明日は激戦地に赴きます。今のうちに盛大にやってください」
 蓮華:「愛里、あなたはホテルに残ってていいんだよ?」
 愛里:「私も家に帰ってみたい」

 霧生市では至る所で火災が起きていた。
 ゾンビパラダイスと化したあの町で、消火活動など思うようにできるわけもなく、地区によっては、まるで震災の後の火災のように焦土と化した所もあるという。
 口に出しては言えないが、果たしてこのコ達の家は無事なのだろうか。
 因みにこの時点で、リサも蓮華さんも私服に着替えている。

 愛原:「主任、現地へは車ですよね?」
 善場:「はい。私の部下が迎えに来ますので、それで向かいます」
 愛原:「そうですか」

 おおかたハイエースが1台、運転役と補佐役の部下2人で迎えに来るって感じだろう。
 別のホテルに泊まっているのかもしれない。

[同日19:30.天候:晴 同町内 麺や焚く蔵→ファミリーマート]

 夕食を終え、店舗を出た私達。
 善場主任は領収証を切ってもらっていたから、後で組織に請求するのだろう。
 最近はレジで単なるレシートではなく、法律上認められる領収証を発行できる。
 善場主任もそれを受け取っていた。
 ホテルに戻る際、途中にコンビニがある。

 高橋:「先生、俺タバコ買ってきます」
 愛原:「そうか。じゃあ、俺は外で待ってよう」

 他にも栗原姉妹がコンビニに入っていった。

 善場:「愛原所長、ちょっとよろしいですか?」
 愛原:「あ、はい。何でしょう?」
 善場:「所長が八丈島から帰宅された時、私が申し上げたことを覚えていらっしゃますか?」
 愛原:「八丈島から帰った時?えーと……」

 私は首を傾げた。

 善場:「秘密兵器を用意している旨、申し上げたと思いますが?」
 愛原:「おっ、そうだ!でも結局、何も無かったと思いますけど……」
 善場:「ええ。それがようやく用意できたので、早速リサに試してみたいと思うのです」
 愛原:「何ですか、それは?」
 善場:「ネメシスの遺伝子情報です。元々ネメシスの遺伝子情報は、アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーから採取されたものです」

 その為、ネメシスやG生物の生みの親とも言える存在である。

 善場:「それをリサに投与したい思います」
 愛原:「えっ!?大丈夫なんですか!?」
 善場:「はい。元々はリサ・トレヴァーの体内にあったものですし」
 愛原:「だったら、別に投与しなくてもいいんじゃ?」
 善場:「強化の為です。恐らく『1番』は現在の『2番』より強くなっていると思われます。これは極秘情報なのですが、既に散発状態で、現地ではBSAAとリサ・トレヴァー達との小競り合いが発生していまして……」
 愛原:「えっ?」
 善場:「その戦闘データによりますと、『2番』のリサよりも格段に強いことが分かりました。こちらも『2番』を強化しておく必要があります」
 愛原:「変に化け物になったりはしないですよね?」
 善場:「大丈夫です。数字上は今のリサが暴走するようなことはありません」
 愛原:「分かりました。主任を信じます」
 善場:「ありがとうございます」

 うちのリサですら、ラスボスを張れるほどの強さだぞ?
 裏ボスくらいの強さがあるというのか。
 蓮華さんが言っていたのだが、うちのリサは既に学校でもラスボスの片鱗を見せていて、イジメのスタイルでよくあるのが、『特定の1人を全員がイジメる』というものだが、リサはその逆。
 『リサ1人が全員をイジメる』スタイルなのだという。
 リサとしては仲良く遊んでいるつもりだが、既に多くの生徒を『捕食』していて、『捕食』された生徒はリサの言う事を聞くようになるのだという。
 リサの周りにはいつも人がいて人気者のように見えるのは、実は斉藤絵恋さんを中心とした取り巻きなのである。
 リサに突っかかる者は後で『捕食』される。
 そして、既に『捕食』された側が、リサの『捕食』を手伝う有り様なのだそうだ。
 学校を停学になってから、リサの中で何か吹っ切れたらしい。
 学校の中では『捕食』していないらしいが……。
 それでも、本当に食人して強化されている『1番』よりも弱いというのか。
 蓮華さんは決闘に負けた以上、リサをどうこうすることは無くなった。
 自分の妹が『捕食』されなければ動かないようだし、そもそも妹は無期限停学状態だ。
 上級BOWはどうしても、独占欲や支配欲が強いらしい。

 愛原:「リサ。そういうわけだ。受けてくれるな?」
 リサ:「うん。頑張る」
 愛原:「偉いぞ」

 私はリサの頭を撫でた。
 照れ笑いを浮かべるこの少女は、とても裏で支配欲を満たしているとは思えぬものだった。
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