報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「まずは南会津へ」

2020-11-16 20:04:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日16:59.天候:晴 福島県南会津郡南会津町 会津鉄道会津線 会津田島駅→ダイワリンクホテル会津田島]

〔「長らくの御乗車お疲れさまでした。まもなく終点、会津田島、会津田島に到着致します。1番線に入ります。お出口は、左側です。会津田島から先の区間ご利用のお客様、お乗り換えの御案内です。今度の会津若松行き、普通列車リレー129号は、4番線から発車致します。お降りの際はお忘れ物の無いよう、ご注意ください。ご乗車ありがとうございました。まもなく会津田島、会津田島です」〕

 愛原:「よーし!やっと到着だな」
 高橋:「腰が痛いっス」
 リサ:「もうすっかり外は暗いね」
 愛原:「ああ。冬が近いな」

 そして冬は豪雪地帯でもある。
 11月ではまださすがに雪は降っていないが、外は寒かろうと思い、薄手ではあるがコートは持って来ている。
 それは善場主任も同じようで、紺色のドレスコートを羽織り出した。

 高橋:「ここからホテルは近いのか?」
 善場:「はい。ご案内します」

 電車が到着してドアが開くと、明らかに都内より寒かった。
 バイオハザード最中の霧生市に行った時は6月だったので全く寒くなかったが、さすがに今は寒い。
 昼はまだ暖かいのだろうが。

 駅員:「はい、ありがとうございました」

 駅の改札口は自動化されておらず、ブースの中に立っている駅員にキップを渡して出る。
 改札口の外は典型的な地方の駅らしく、観光物産館などが併設されていた。
 レストランもあるようだが、もう既に閉店している。

 

 善場:「ではホテルへ向かいます。付いて来てください」

 駅の外に出ると、私達は善場主任に付いていった。
 福島県の会津地方は山間にあるというイメージだが、この駅周辺は開けた場所にあるのだろう。
 霧生市も市街地はこのような感じだった。

 高橋:「それにしても先生、まるで霧生電鉄に乗ったみたいな感じでしたね」
 愛原:「そうか?」
 高橋:「トンネルの中に駅があるなんて、正にそうだったじゃないですか」
 愛原:「リサがいた秘密の研究所入口のホームか。まあ、そうだな」
 高橋:「俺、つい秘密の入口があるんじゃないかと思って、トンネルん中ずっと外見てましたよ」
 愛原:「お前のあの行動、そうだったのか」

 会津鬼怒川線内には湯西川温泉という駅がある。
 その駅は山岳トンネルの中に設けられているのだが、その駅を出てから高橋のヤツ、やたらトンネルに入る度に目を凝らしていたのだが、そういうことだったのか。

 愛原:「で、あったのか?」
 高橋:「いや、見つかんなかったっス」
 愛原:「だろうなw」

 駅前ロータリーの前の通りを右に曲がり、郵便局の前を通る。
 そして最初の交差点をまた右に曲がると、会津線の踏切がある。
 さっき電車で通った所だ。
 夕方ラッシュの始まる時間帯だからか、道路の方はそれなりに交通量があったが、踏切が閉まるタイミングには当たらなかった。
 首都圏だと、開かずの踏切があるのが嘘みたいである。
 その踏切を渡って少し行くと、今夜の宿であるホテルに到着した。
 どうやら最近できたらしく、外観など新しい。

 善場:「こちらです」
 愛原:「新しそうなホテルですね」
 高橋:「いいんじゃね?ねぇ、先生?」
 愛原:「そうだな」

 交差点を挟んで斜め向かいにはコンビニもあるので、不便ではない。
 中に入ると、ロビーとフロントがあった。
 右側にはレストランらしき所があるが、そこが朝食会場なのだろう。
 夕食はやっていないようだ。

 善場:「ちょっと待っててください」

 そう言うと善場主任はフロントの方へ歩いて行った。

 高橋:「先生、夕飯はどうします?」
 愛原:「そうだな……。朝食はそこのレストランでいいだろうが、夕食まで善場さんに頼るのもなぁ……」

 市街地だし、駅前を見た限りでは、飲食店はいくつかあった。

 善場:「お待たせしました。部屋は2階ですので、カードキーを持ってください」

 しばらくして、善場主任がカードキーを3枚持ってやってきた。
 ツインの部屋が3つらしい。
 すると部屋割りは自動的に私と高橋、栗原姉妹、そして善場主任とリサということになるわけだ。

 善場:「朝食はあそこのレストランで、6時半からだそうです」
 愛原:「やっぱりそうか」
 善場:「部屋は全室禁煙なので、タバコは1階の喫煙所でお願いします」

 善場主任はこの中で唯一の喫煙者である高橋を見て言った。

 高橋:「へーへー」
 愛原:「今のうち吸っておくか?」
 高橋:「後ででいいですよ」
 善場:「今のうち、明日のことでお願いがあります」
 愛原:「何ですか?」
 善場:「明日はなるべく早く出発したいので、朝食は開始時間に食べて頂きたいのです」
 愛原:「つまり、6時半ですね」
 善場:「そうです。で、7時台には出発したいです。霧生市には9時ぐらいに着きたいので」
 愛原:「ここから霧生市って、どのくらい掛かるんですか?」
 善場:「およそ車で2時間です。もっとも、高速道路は通っていないことはお分かりだと思います」

 もっと霧生市に近い町はあるのだが、田舎過ぎてそもそも宿泊地が無いとか、そういう問題に直面するのとは別に、リサが他のリサ・トレヴァーを呼び寄せてしまいやすいという警戒からだ。

 愛原:「じゃあ、明日は6時に起きるか」
 高橋:「うっス」
 愛原:「今夜の夕食はどうするんですか?」
 善場:「そこは決めていませんので、所長方にお任せしますよ」
 愛原:「えっ、私ですか?……高橋、何とかしろ」
 高橋:「えっ?あー……。えっと……ですね……。ああ!ラーメン屋!さっきラーメン屋の看板見えましたよ!そこはどうっスか!?」
 愛原:「ラーメンかぁ……」
 リサ:「ラーメン!?食べたい!」

 リサがパンと手を叩いて言った。

 善場:「お2人は何かありますか?」
 栗原蓮華:「ファミレスは無いですよね?」
 愛原:「駅前見た限りでは無かったし、多分国道沿いにはあると思うけど、それってつまり、車が無いと不便な場所だってことだよ」
 蓮華:「そうですよね。分かりました。ラーメンで手を打ちます」
 善場:「話は決まりましたか?それでは18時に、またロビーに集合しましょう」
 愛原:「ああ、善場主任も御一緒で?」
 善場:「いけませんか?」
 愛原:「いえ、そんなことは!」

 ただ、ラーメン屋は当たりハズレが大きいので、もしハズレに当たったとしたら、高橋のヤツ、総スカン食らうだろうな。
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“私立探偵 愛原学” 「私鉄路を往く」 2

2020-11-16 10:45:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日16:00.天候:晴 栃木県日光市藤原 東武鉄道・野岩鉄道新藤原駅]

〔「まもなく新藤原、新藤原です。2番線に入ります。お出口は、左側です。お降りの際はお忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。本日も東武鉄道をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今は各駅停車の鈍行に乗って、山間を北に向かっている。
 首都圏から東北へ向かう鉄道路線は数あれど、これだけあえて山の中を進むルートは珍しいだろう。
 そして電車は、東武鉄道最北端の終点駅に到着する。
 東武鉄道としては終点であるが、列車としてはまだまだ先へ進む。
 下今市駅を発車してから線路は単線となり、それ故の所要時間増加もあった。
 新高徳駅では5分、小佐越駅では10分停車させられたものだ。
 これは対向列車との行き違いを行う為のダイヤである。
 今後も単線区間を走る以上、このようなことは多々あるのだろう。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。新藤原、新藤原です。2番線の電車は16時2分発、会津線直通、普通列車の会津田島行きです」〕

 東武鉄道仕様の駅名看板を見るのは、これが最後か。

 栗原愛里:「お姉ちゃん、そこでジュース買ってきていい?」
 栗原蓮華:「ああ、うん。行っといで」

 通路を挟んで隣のボックスシートに座っている栗原姉妹が、そんな会話をしていた。
 鉄道会社が変わる境界駅ということもあり、停車時間は2分取られている。
 ホームの自販機に行くだけなら、余裕だろう。
 但し、自販機は3番線側にあり、そこまで行かなくてはならない。
 因みに自販機の横には、閉店した売店もあった。
 ホームの有効長はそんなに長くはないし、隣のホームに行くには跨線橋ではなく、構内踏切を通る必要がある。
 それだけ列車本数も少ないということなのだろう。

〔「ご案内致します。この電車は16時2分発、会津鉄道会津線直通、普通列車の会津田島行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 この駅は東武鉄道の北端駅であると同時に、野岩鉄道の本社もある駅である。
 駅周辺には住宅もあり、決してうら寂しい駅ではない。

 愛原:「そういえば、俺達が仕事をした屋敷も、こんな感じの場所にあったな?」
 高橋:「そうっスね」

 霧生市は山に囲まれた町であったが、その中でも特に山間にあるのが霧生電鉄東西線の西側の終点駅、大山寺駅周辺と、南北線の北側の終点駅、紫雲山駅周辺であった。
 紫雲山駅周辺は、この新藤原駅周辺のような雰囲気であった。

〔「お待たせ致しました。16時2分発、普通列車の会津田島行き、まもなく発車致します」〕

 こんな放送が流れた後、愛里さんが戻って来た。

 愛里:「お待たせー!」
 蓮華:「ギリギリだったよ」

 プシューという大きなエア音がして、ドアが閉まった。
 そして警笛一声、2両編成の電車が走り出す。

〔「本日も野岩鉄道会津鬼怒川線をご利用頂き、ありがとうございます。16時2分発、会津鉄道会津線直通、普通列車、会津田島行きです。これから先、龍王峡、川治温泉、川治湯元、湯西川温泉、中三依温泉、上三依塩原温泉口、男鹿高原、会津高原尾瀬口の順に停車致します。【中略】次は龍王峡、龍王峡です」〕

 作者も顕正会時代に参加した夏合宿、そのオプショナルツアーで行った龍王峡を通る鉄道である。
 これまでの東武鉄道以上に山間を走ることが、この路線の駅名だけでも十分想像できるというものだ。
 何より、温泉がやたら多いのが特徴だ。
 ただ、申し訳ないが、どうしても鬼怒川温泉のインパクトに押されて、これらの温泉があまりスポットを浴びることは無いような気がする。
 で、実際車内の様子だが、明らかに観光客っぽいのは少ない。
 GoToキャンペーンの客らしき者達は、殆どが東武線内の駅で降りて行った。
 今乗っているのは、地元客らしき者達ばかりがパラパラ。
 確かにこれなら、2両編成で十分だろう。
 何しろ同区間を走る特急でさえ、3両編成なのだから。

 愛原:「ちょっとトイレ行って来る」
 高橋:「どうぞどうぞ」

 私が席を立つと……。

 蓮華:「私もトイレ」
 愛里:「行ってらっしゃい……」

 愛里は不安そうな顔をしたが……。

 善場:「私が見ておくから大丈夫ですよ」

 と、言った。
 愛里が不安なのは、反対側の窓側に座るリサのことであろう。
 特急列車だと男子用小便器の個室があったが、普通列車となるとそうもいかない。
 古式ゆかしい和式便器が1つあるだけである。
 しかも水洗は足踏みペダル式。
 日常的にこの路線を利用しているならともかく、他のJR線などを利用している最近の若者には、この足踏みペタル式はどう思うだろうか。
 もっとも、直接水洗装置に手を触れないという意味では、清潔性は高いと思う。
 で、個室内にある小さな洗面台も足踏みペダル式。
 用を足した後で個室の外に出ると、蓮華が外にいた。

 愛原:「あ、お待たせ」
 蓮華:「愛原先生。途中で他の化け物と遭遇することはありませんでしたか?」
 愛原:「えっ?いや、別に。え、なに?キミ達はあったの?」
 蓮華:「私は特に。ただ、愛里がトイレに行った時に、変な女の子を見たっていうんです。エブリンと名乗っていたみたいなんですが、見た目は10歳くらいの女の子だったって言いますし、まあ、日光方面なら外国人観光客も来るだろうからと言っておいたんですけど」

 この姉妹は霊感が強い。
 特に霧生市のバイオハザードを体験してから、それが顕著になってしまった。
 しかしそんな蓮華さんでさえ特に感じなかったBOWの気配を、愛里さんは感じたという。
 そういえばエブリンって、リサも言ってたな……。

 愛原:「いや、俺達も知らないな」

 私はそう答えておいた。
 現時点ではまだ気のせいで済ませられる段階だし、余計な不安を煽りたくはない。

 蓮華:「そうですよね。失礼しました」

 蓮華さんはホッとした様子で、トイレの中に入っていった。
 バリアフリーとはかけ離れた構造のトイレだが、左足が義足の蓮華さんにとっては何でも無く使えるトイレのようだ。
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