報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「東武線の旅」

2020-11-12 20:24:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日14:13.天候:晴 栃木県栃木市 東武栃木駅→東武日光線1085M電車内]

 愛原達を乗せた電車は栗橋駅でJR宇都宮線と別れ、東武日光線へと入った。
 その際、栗橋駅に停車するわけではない。
 このJR線と相互乗り入れしている特急だけが使用する渡り線があり、ちょうどJR東日本と東武鉄道との境目で停車するのである。
 その停車場所には小さなホームがあるが、ちょうどそこに止まるのは先頭車の乗務員室扉のある個所と最後尾の乗務員室扉のある所。
 ここで下り列車なら、JR東日本の乗務員が東武鉄道の乗務員と交替するのである。
 だったら栗橋駅に停車して、そこで乗務員交替をすれば良いではないかと。
 客扱いしてもいいし、できないのなら運転停車でもいいだろう。
 しかし、わざわざ渡り線と乗務員交替用のホームを造ってでも、互いの駅に停車すらできない事情でもあるのだろう。
 それで、JR側の架線と東武側の架線が切り替わる為、いわゆるデッドセクションなるものがある。
 その部分の架線には電気が流れていない為、電車は惰行で停止位置に向かう。
 その間、電車内は停電し、空調も止まる(常磐線の取手~藤代間のそれと同じ。但し、今現在そこを走行する車両は蓄電池により、停電しない仕様になっている)。
 そこで乗務員交替を行うと、再び電車は徐行で発車する。
 そして互いの駅のホームには全く接さず、栗橋駅は通過となるのである。
 そんな不思議な体験をした後、電車は東武線内最初の停車駅、栃木駅に停車する。
 ここでも、少々の乗降はあったのだろう。
 車内は至って静かなものだが。

〔♪♪♪♪。この電車は特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。【中略】次は、新鹿沼に止まります〕

 リサ:「ちょっとトイレに行ってくる」
 愛原:「ああ、行ってらっしゃい」

 リサは席を立つと、後ろの車両にあるトイレに向かった。
 1号車にはトイレが無く、しかも1番近いトイレは2号車の後ろのデッキにある。
 そこまで行くと、2号車は車椅子対応の座席がある為か、トイレもそれに対応した多目的タイプがある。
 もう1つの個室は男性用小便器しか無いので、女性は必然的にそこを使うことになる。
 BOWも生物であり、例え食人でも食事をする以上、排泄をすることだってある。
 そこで用を足すだけでなく、人間としても思春期である以上、生理用品の交換をすることもある。
 BOWが本当の化け物であるなら、その必要は無いだろう。
 そもそも多くのBOWの場合、繁殖をしない(一部例外あり。GウィルスのG生物など。断っておくが、それはGKBRではない)。
 生物兵器は人間が使役するものなので、いかに生物といえど、勝手に繁殖されたら困るからだ(そこは飼育動物と同じか)。
 なので、繁殖をしないよう設計されているのだ。
 ところが、日本版リサ・トレヴァーは違った。
 実際、人間の女性より状態は軽いとはいえ、ちゃんとリサには初潮があったし、今でも定期的に生理がある。
 状態が軽いのは、人間ではないからだろう。
 それでもちゃんと生理があるということは、(哺乳類としての)生殖能力があるということだ。
 実際リサには性欲もある。
 他にリサがやったことは、ベルトでスカートを上げて裾を短くしたことと、その代わり下に黒いスパッツを穿いたことである。
 高野と違って善場は服装にうるさいわけではなかったが、高野と歳が似通っていることもあり、なるべく言われないようにしたかったからだ。
 トイレから出て、洗面所に寄る。

 リサ:「…………」

 顔をよく見る。
 今の彼女は第0形態という人間そのものの姿をした形態だ。
 よくアニメやマンガ等で、『本当に怖い化け物は、いかにも化け物の姿をしているヤツではなく、人間そっくりに化けているヤツだ』と言われる。
 リサ・トレヴァーも上手い事その定義に当てはまっていることになる。
 リサ自身も自信があるくらいだ。
 自分がラスボス、或いは大ボスを務めるくらいの強さがあるという自信。
 そんな自分が、今はただの人間に従っている。
 BOWでも、自分の命を助けてくれた恩には全力で返さなければならない。
 それができなくなった時、本当にただの化け物に成り下がるのだと思う。

 リサ:「!?」

 その時、鏡に何か映ったような気がした。
 パッと見、自分よりずっと年下の女の子のように見えた。
 リサが後ろを振り向くと、いない。

 リサ:「……気のせい?」

 リサは首を傾げてもう一度鏡を見た。

 リサ:「!?」

 するといつの間にか鏡の下の方に、手書きの赤い字で何かが書かれていた。
 子供のような字であった。

 リサ:「『古くさいリサ・トレヴァーよりもずっとあたらしいBOWエブリン』?……何よ」

 リサはその落書きを水を掛けて消した。
 そして、急いで自分の席に戻った。

 愛原:「遅かったな、リサ」
 リサ:「うん。色々と……」
 高橋:「先生。女のトイレは時間が掛かるモンですよ」
 愛原:「そうか」
 高橋:「ウィルス仕掛けたりはしてねーだろうな?」
 リサ:「してない」

 リサは普通に否定した。
 もちろんリサ・トレヴァーとしては、高橋の懸念通りのことをすることができる。
 触手を使って、相手に自分の搭載しているウィルスを送り込み、感染させることだってできるのだ。
 霧生市郊外の研究所に取り残されたリサは、そうやって研究所内でバイオハザードを引き起こしてやった。
 だが、同じリサ・トレヴァー同士、考える事は一緒だったのか、研究所の外に出た個体もウィルスをばら撒くなどして市中にバイオハザードを起こしている。

 リサ:「そんなことしたら、先生に迷惑が掛かる」
 高橋:「おう、その通りだ。分かってんじゃねーか。偉いぞ」
 リサ:「エヘヘ……」
 愛原:「善場さん達も順調だそうだ。こりゃ予定通り、下今市駅で合流できそうだな」
 高橋:「先に到着するのはどっちですか?」
 愛原:「俺達だ。だから電車に乗り込むのも、俺達が先だろう。乗り換え先の電車は下今市始発だから、さっさと席を確保しててあげよう」
 高橋:「あの姉妹達、こいつと同乗したがりますかね?」
 愛原:「一応、確認してこおう」

 愛原は自分のスマホを出すと、それで確認のメールを善場に送った。
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“私立探偵 愛原学” 「霧生市への旅」 2

2020-11-12 15:41:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日12:26.天候:晴 東京都新宿区西新宿1丁目 新宿駅・都営地下鉄新宿線(京王新線)ホーム]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今、私は助手の高橋とBOWリサ・トレヴァー『2番』と一緒に新宿駅に向かっている。
 BOW(人工生物兵器)とはいえ、うちのリサは私に懐いてくれて、上手く人間に化けて一緒に付いて来ている。
 着ている服は学校の制服だが、荷物が少し大きい。
 一体、中に何を入れているのやら……。
 本人曰く、『着替えとか』らしいが。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、新宿、新宿です。お出口は、右側です。新宿より京王新線直通、急行、大沢……失礼しました。急行、橋本行きをご利用のお客様は、降りたホーム4番線でお待ちください。12時30分の発車です」〕

 愛原:「取りあえず新宿駅に着いたな」
 高橋:「はい」

 電車は1面2線のホームに到着した。
 都営地下鉄新宿線の終点駅であり、京王新線の始発駅でもあるこのホームは1面2線になっており、4番線と5番線になっている。
 これはこの駅を京王電鉄が管理しており、地上の京王線ホームからの続きの番号になっているからである。
 基本的には都営地下鉄と相互乗り入れを行う電車がこのホームを使用するが、たまに京王新線始発の京王線直通電車が出たりすることもある。

〔「ご乗車ありがとうございました。新宿、新宿、終点です。京王線直通、急行、橋本行きは4番線から発車致します」〕

 私達は電車を降りると、他の乗客達と共に改札口に向かった。
 もちろん、中には次の急行電車を待つ者もいる。

 愛原:「よし、着いて来いよ」
 高橋:「うス」
 リサ:「うス」
 高橋:「真似すんな!」
 リサ:「ハハハ!」

 今やすっかり兄妹のような関係になった2人。
 高橋には実の妹が田舎にいるらしいが、どうも気軽に会えない関係であるらしい。
 別にケンカしたとか、そういうわけではないらしいのだが……。

[同日12:55.天候:晴 新宿区新宿3丁目 JR新宿駅・湘南新宿ラインホーム]

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」
 高橋:「ありがとうございます」
 リサ:「私、先生の隣がいい」
 愛原:「ああ、分かった」
 高橋:「2人席っスよね?」
 愛原:「そうだな」

 自動改札機からJR線のコンコースに入り、そこで昼食の駅弁を購入する。

 愛原:「俺は鮭はらこ弁当だ」
 高橋:「海鮮系行きますか」
 愛原:「最近、海鮮行ってないしな」
 リサ:「わたし、これ」

 リサは牛すきと牛焼肉弁当を所望した。

 高橋:「おい、先生より高いモン選ぶんじゃ無ェ」
 愛原:「といったところで、50円高いだけだろ?いいよいいよ。高橋も好きな物選べ」
 高橋:「はあ……。じゃあ、俺も先生と同じので」
 愛原:「いいのか?」

 新宿駅も特急列車が多く発着している駅なだけに、駅弁のバリエーションは豊富だ。
 上野駅や東京駅に引けを取らない。
 むしろ、小田急ホームでも、ロマンスカー向けに独自の駅弁を扱っているくらいなので、その点では新宿駅に軍配が上がるかもしれない。

 愛原:「それじゃ、行くか」

 駅弁や飲み物を購入すると、私達は乗り場に向かった。

 高橋:「車内販売あるんスか?」
 愛原:「確かJRと相互乗り入れしている特急は無いと聞いた」
 高橋:「マジっスか!?」
 愛原:「だから、ついでにキヨスクでお菓子とかジュースとか買っていいよ」
 高橋:「そうします」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。6番線に停車中の列車は、13時ちょうど発、東武線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。……〕

 キヨスクやら自動販売機やらで足りない物を買うと、私達は列車に乗り込んだ。
 GoToキャンペーンが実施されているはずだが、案外乗客は少ない。
 恐らく、東武スペーシアよりスペックが低く、車内販売も無い新宿発着の列車は人気が無いのかもしれない。
 観光目的なら、恐らくインパクトの強い東武スペーシアを狙うだろうから、これはビジネス利用としての客層だろう。
 時間帯的には、ホテルや旅館のチェックインの時刻になる15時過ぎに到着はできるのだが。

 愛原:「えーと……ここか」

 先頭車の1号車が指定されていた。
 オレンジ色のシートが並んでいる。
 運転席に1番近いデッキ側の座席が指定されていた。
 これは恐らく、リサ対策だろう。
 万が一リサが暴走した時に、すぐに電車を止められるようにし、また、BSAAなどが強硬手段に出る場合、先頭車を脱線させれば良いという考え方だ。
 その為、善場主任からは、リサと一緒に電車に乗る時は、なるべく先頭車ないしは最後尾に乗るように言われている。
 最後尾でも電車を止めることはできるし、何より外からリサを攻撃しなくてはならない場合、長編成の列車の中間車は狙いにくいが、先頭車や最後尾は狙いやすいからである。

 愛原:「こうして向かい合わせにしよう。高橋はリサの向かいに座ってくれ」
 高橋:「ハイ」

 リサは進行方向向きの窓側に座り、私はその隣、高橋はリサの向かい側に座った。
 ここで少し困るのが駅弁などの置き場。
 東武スペーシア等では窓の下に折り畳み式のテーブルが付いているのだが、JRの車両だと座席の背面またはひじ掛けに小さなテーブルが収納されているだけなのである。

 リサ:「いただきまーす」
 高橋:「もう食うのかよ」
 リサ:「お腹ペコペコだよー」
 愛原:「うん。リサの場合はガマンしない方がいい」

 この車両が指定されたメリットが発揮されては困る。

〔「ご案内致します。この列車は13時ちょうど発、東武線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。座席は全て指定となっております。お手持ちの指定席特急券の座席番号をお確かめの上、指定の席にお掛けください。新宿を出ますと、池袋、浦和、大宮、栃木、新鹿沼、下今市、東武ワールドスクウェア、終点鬼怒川温泉の順に止まります。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 列車の外から微かに発車メロディの音が聞こえてくる。
 曲名は“See you again”。
 正しく曲名の通り、この駅とは暫しの間、さよならだな。
 上りの列車については、まだ聞かされていない。
 恐らく、霧生市での状況次第なのだろう。
 最悪、満身創痍でヘリに乗せられ、そのまま帰京して入院なんてことも有り得る。
 そう考えると、とても民間の探偵の仕事とは思えないが、これも報酬の為である。
 私達の乗せた列車は、定刻通りに新宿駅を発車した。
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