報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「サウスエンド監獄」 2

2020-06-01 11:15:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月8日10:00.アルカディアシティ南端村 サウスエンド監獄跡 視点:稲生勇太]

 今は打ち棄てられた強制収容所、サウスエンド監獄に到着した稲生達。
 打ち棄てられているといっても、その重厚さは現役時代と変わらない。
 正門は硬く閉ざされており、これはややもすれば内側からも開けられないのではと思うほどだった。
 それでもこれだけ老朽化しているのだから、どこかしら侵入経路はあるはずだと、監獄の周りを探索することにした。

 茶取:「でやっ!」
 マリア:「あっという間……」

 監獄の周りにはモンスターが徘徊している。
 ゴブリン達のような哺乳類系もいれば、今倒したウデムシの巨大化したものもいた。
 しかし、この時点では幽霊に類するような者との遭遇は無い。
 本来なら、こういった廃墟にはそのような輩が棲み付くものなのだろう。

 稲生:「あっ、あれは!?」

 少し開けた所に出ると、ほんの僅かに開いたシャッターを見かけた。
 どうやら搬入口か何かだったのだろう。
 壊れた荷車などがそのまま放置されていた。
 で、ここにもウデムシの化け物が3匹ほど徘徊していたが、茶取が一刀両断にした。

 マリア:「ここから入れそうだな」

 シャッターは上に開けるオーソドックスなタイプで、下から30センチほど開いていた。

 稲生:「もうちょっと開かないかな?」

 稲生がシャッターを持ち上げようとした。

 稲生:「結構重いぞ!?」

 シャッター自体が錆び付いているからだろう。

 茶取:「ボクも!」

 見た目は華奢な体つきながら、そこは妖狐。
 稲生とは比べ物にならない力で、チャッターをこじ開けた。
 そして、1メートルくらいの開口部を作る。

 稲生:「マリアさん!行って!」
 マリア:「All right!」

 マリア、前屈みになって侵入した。

 茶取:「稲生さんも行ってください!」
 稲生:「分かった!」

 稲生も中に入る。
 そして、茶取も中に飛び込んだ。
 すると、ガッシャーンと勢い良くシャッターが閉まった。
 もう、ここから出られそうにない。

 稲生:「ヘタすると閉じ込められましたかね?」
 マリア:「こうやって入れる場所があったんだ。出られる場所もあるはずだよ。いざとなったら、私が壁に穴開けるから」
 茶取:「さすが魔法使いさんですねぇ……」

 意外にもこの監獄、停電していなかった。
 もちろん、点いている明かりは所々なものなので、明るいわけではない。

 稲生:「例の亡霊はどこにいるんだい?」
 茶取:「話によると、この監獄のどこかに広場があるそうです」
 稲生:「広場?運動場か何か?」
 茶取:「多分……。ただ、聞いた話では公開処刑場でもあったとか……」
 稲生:「何それ?」
 マリア:「多分、アレじゃない?この収容所を脱獄しようとして失敗したヤツとか、或いは暴動を起こそうとして失敗したヤツか、そういう奴らを見せしめにする為の公開処刑じゃない?」
 稲生:「なるほど」

 稲生は一瞬、北朝鮮で行われているような公開処刑をイメージしてしまった。

 稲生:「まあ、まずは公開処刑場……運動場か。それを探しましょう」
 マリア:「強制収容所なだけに、なかなか広いな。迷わないといいけど……」

 すると、薄暗い廊下の向こうから……。

 アンデッドA:「アァア……!」
 アンデッドB:「ウゥウ……!」

 呻き声を上げ、ヨタヨタモタモタしながらこちらに向かってくるアンデッドが現れた。
 半分白骨化しており、顔に肉は殆どついていないし、手足も申し訳程度に皮が貼り付いているだけの状態だった。
 手や足には鎖の切れた手錠や足枷が付けられていることから、収監者の成れの果てだろう。

 マリア:「死体は燃やす!Fi la!」

 マリアは杖を構えると火炎魔法を使った。
 杖の頭から火炎の帯が伸びて、アンデッド達を包み込む。

 アンデッドA&B:「ギャアアアアッ!」

 アンデッド達はマリアの火炎魔法により、『火葬』された。

 マリア:「アンデッド系は任せろ!」
 稲生:「お願いします!」
 茶取:「いざとなったら、オレが首を刎ねる。首と胴体を切り離されれば、例え屍人とて歩けまい」
 稲生:「頼むよ……」

 しかし、稲生は茶取の言葉は半信半疑であった。
 確かに茶取の剣の腕前は、さすが師匠の威吹が推すだけのことはある。
 だが、威吹はかつてこうも言っていた。

 威吹:「この戦国劇、いとも簡単に敵将を首を刎ねてるけど、実際、人間の首をスパッと切るのは難しいよ?ボクでも上手く斬れるかどうか……」

 と。
 もちろんだいぶ昔の発言で、威吹は更に強くなったはずなので、今はどうか分からない。
 だが、稲生が茶取の腕前を見ている限り、稲生がまだ学生だった頃の威吹の剣の腕前と同等か、或いはそれ以下のように見えた。
 もちろん、ここでザコ敵を倒す分には十二分なほどの強さなのだが。
 まだマリアの火炎魔法の方が頼りになるような気がした。

 稲生:「ん、何だこれ?」

 事務所のような場所に入ると、机の上に本が開かれた状態で置かれていた。
 英語で書かれている。

 マリア:「フランツ・カフカの“In the Penal Colony”だよ」
 稲生:「日本語にすると?」
 マリア:「私は英語版しか読んだことないから」
 稲生:「……あっ、分かった。“流刑地にて”だ」

 開かれていたページは、主人公の旅人と監獄の看守長との会話の部分が開かれていた。

 旅人:「あの囚人は自分の犯した罪を知らされずに、これから処刑されるのですか?」
 看守長:「知らせる必要は無いでしょう。何故なら、これから自分の体に刻み込まれるのですから」

 稲生:「この監獄は、“流刑地にて”の監獄を参考にして造ったということなのかな?」
 マリア:「可能性はあるな。大師匠様の表の顔は詩人。その旧友たるバァル大帝も、趣味は文学だったというから」

 インドアの趣味は読書。
 その為、魔王城旧館には掃いて捨てるほどの本が収められているという。
 もっとも、大魔王の蔵書だ。
 普通の本ばかりであるはずがない。
 中にはモンスター化した本があったり、そもそも蔵書されている大図書館そのものにデストラップやギミックが仕掛けられているほどなのだそうだ。
 アウトドアの趣味は言うまでもなくゴルフ。
 魔の森を潰そうとした計画の根底には、そこに自分専用のゴルフ場を造る為だったという噂がある。
 とんでもない大魔王である。

 マリア:「この監獄もバァル大帝の息が掛かっていたのなら、きっと何かこういう文学に因んだものを造ったと思う」
 稲生:「なるほど。脱出の際の糸口にはなるかもしれませんね」

 事務所内で鍵と監獄の見取図、その他アイテムを入手した稲生達は更に先へ進んだ。

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