報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

特別読切!“私立探偵 愛原学” 「ひったくり犯を追跡せよ!」

2016-06-18 21:50:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 私の名前は私立探偵、愛原学。
 東京都内で小さな探偵事務所を営んでいる。
 この時、私はある重大なミスをしでかしてしまった。
 探偵というのはその職業柄、往々にして事件に巻き込まれることが多い。
 もちろん、その程度は覚悟していた。
 だが、さすがにこれは頂けない。

 まさか、私が被害者になろうとは……。

 事の発生は今から数時間前、昼下がりの都内で起きた。
 私はクライアントとの打ち合わせを終え、契約書から何やら重大な書類を鞄に詰め、事務所に戻ろうとしていた。
 地下鉄の駅まで近道をしようと裏路地に入ったのが福運の尽き。
 後方からバイクが接近してきたと思ったら、そのバイクをひったくられてしまったのである!
 ここは大阪か!
 私は急いでバイクの後を追ったが、当然向こうは全速力で逃げる。
 当然、走って追いかけられるものではない。

「止まれ!止まってくれーっ!」
 私はたまたま表通りを走っていた車を止め、その車に協力を依頼した。
 運転手は驚きつつも、引き受けてくれた。
 よくよく見たら、それは大型トラック。
 しかも、何だか……随分と派手に改造されている。
 もしや……とんでもない車に乗ってしまったのではなかろうか?
 アルミ製の荷台にはド派手な歌舞伎の絵が描かれており、明朝体よりも更に筆で書いたかのように崩した字で、『酔王丸』と書かれていた。
 もしかして、もしかすると、もしかしなくても、これがあの映画の“トラック野郎”でお馴染みのデコトラってヤツなんじゃ……?

「いやあ、まさか探偵さんが乗ってくるなんてねぇ!まるで、ドラマみたいだねぇ!?」
 運転手は40代くらいの男性で、私より年上か。
 頭にねじり鉢巻きなんかしている。
 長距離トラックの運転手よろしく、豪快な笑い方をした。
「そ、そう?何か、自分も映画みたいな感じがするよ……」
 助手席に座る私は、少し動揺していた。
「後で謝礼は必ずするから、よろしく頼みますよ」
 私の依頼に、運転手は大きく頷いた。
「安心しな、探偵さん!何故なら、俺は仲間内じゃ『韋駄天ゴロー』と呼ばれるスピード野郎。必ずや、あのバイクぶっちぎってみせるぜ!」
「ブッちぎってどうすんの!?捕まえて、俺の鞄取り返すの!」
「分かってるって!この『酔王丸』に乗り込んでくれたからには、必ず……」
王丸?……ちょっと待った。いくらひったくり犯を捕まえる為とはいえ、酒を飲んで運転するのは良くないな?」
「バッキャロ!誰がそんなマネするか!いいか!?俺はこう見えても運転歴は軽く20年越えだぜ?酔うのは酒じゃなく……」
「酒じゃなく?」
「車。オェェェ!」
「ダメじゃないか!20年間、何やってたんだ!」
「冗談だおw」
「コラーッ!」
 するとその時、追い掛けていたバイクがいきなり対向車線を右折して、路地に入って行った。
 どうやら私の追跡に気づいたらしい。
 対向車線に車が来ているにも関わらず、突然の右折!
 対向車が急ブレーキを踏んだり、その後続車が追突しそうになったり、横断歩道を渡っていた歩行者と接触しそうになったりと、危うく大惨事だ。
「し、しまった!気づかれた!は、早くさっきの場所へ!早く!」
「分かってるって!慌てなさんな!俺の運転テクをとくと御覧あれ!しっかり掴まってろ!……必殺!サブロックターン!!」
「おおお!?」
 そこはプロの運転手。
 トラックの周りに車などがいないことをちゃんと確認し、運転手はドリフトを行った。
「体験して驚け!これが360(サブロック)ターンだ!」
 ドヤ顔の運転手。
 だが……。
「ん?360?どういうことだ?」
「だーかーらっ!360度回転ってことだよ!」
「……それって結局、元通りの向きってことなんじゃ?」
「……あ!」
「あ、じゃないよ!おぉぉい!?どうすんだよ!?バイクを見失ってしまうじゃないか!」
「心配すんなって!実は俺達、トラック野郎の頭の中には全国のありとあらゆる抜け道がインプットされてるんだ。元の道に戻るなんざ、朝飯前よ!」
「何だ、そうか。それなら……」
「安心したか?なぁに、こんなこともあろうかと、既にこの模様は無線で仲間内に飛ばしてある」
「ん?」
「俺の仲間達も、探偵さんのバッグを盗りやがったバイクを追跡してるってわけよ」
「そうだったのか!」
「まあ、謝礼は後でもらうけどな」
「それはもちろん!何か、安心したよ」
「だろぉ!?よーし!そうと決まったら、BGMと行こうぜ!」
 運転手はオーディオの電源を入れた。
 そこはさすがデコトラ。
 音響設備にも拘っており、車内全体がまるでステレオのようである。
「おっ、演歌か?いいねぇ!」
「そうだろ、そうだろぉ!?」

〔「恐れも知らずに♪化他行折伏♪極めよ罪滅♪仏法国家♪」「日の丸印の♪荷車まろがし♪東西南北♪広宣流布♪」〕

 ……演歌か、これ?
 どっちかというと、軍歌かな?まあいいや。

〔……「往くぞ此の仏道(みち)♪何処迄も♪」「海はうねり♪大波迫るこの道を♪我ら仏弟子……」〕

「ん?海!?」
 いつの間にか、車窓には海岸線が広がっていた。
「おう、海だぜ!」
「バイクはここまで来たの!?」
「バイク?」
「バイクは!?犯人のバイクは!?」
「あー……そうだな……」
 運転手と私はキョロキョロと辺りを見回した。
 もちろん、そんな姿はどこにもない。
「…………」
「…………」
 車内に流れる気まずい空気。
 運転手は赤信号で止まると、唐突に後ろの仮眠スペースにぶら下がっているカレンダーを捲り上げた。
 AV女優のエロカレンダーである。
「いねーよ、そんな所!!」

 トラックはとあるドライブインに入って休憩した。
 だが、私のむかつきは収まらない。
 くそっ!やはり、とんでもない車に乗ってしまったようだ!
「うー、あの兄さん、さすがにキレちまったなぁ……」
 運転手だけがトラックを降りて、自動販売機の所へ向かう。
 そして、ジュースを2つ買って戻ってきた。
「兄さんよ、まあ、そうカッカすんな。人間、誰しも間違いはある。問題はそれが許せるかそうでないかだ。まあ、これでも飲んで落ち着いてくれ」
 運転手はそう言いながら、助手席のドアを開けた。
 ……隣のトラックの。
「あ?」
「えっ!?」
 隣のトラックの運転手が、酔王丸の運転手を睨みつける。
「何だ、オメェ?いきなり開けやがって……」
「さ、サーセン!間違えました!」
「おーい!何やってんだ?!こっちこっち!」
 私は呆れて酔王丸の運転手を呼んだ。
「うほぉ、焦ったァ……!俺、ついてっきり自分の車かと……」
「んなワケないだろ!どこがあんな真っ黒いトラックと、こんなド派手なデコトラを間違えるよ!?」
 と、その時だった。
 無線に着信が入る。
「おっ、無線だぜ!」
 運転手が急いで無線を取った。
「はい、こちら酔王丸ゥ!どうぞォ!」

〔「あー、こちら、『星海号』!」〕

「おう、山さんじゃねーか!」

〔「例のバイクなんだが、どうやら◯◯県の国道で、乗り捨てられてたらしい!」〕

「何だと!?」
「!?」

〔「で、その犯人は近くに止まっていたトラックをパクって逃げたんだとよ!」〕

「そうなのか」
「そ、そのトラックの特徴は!?」

〔「ナンバーが練馬130……」〕

 その時、隣に止まっていたトラックが走り出した。
 私は咄嗟にそのトラックのナンバーを見た。
「練馬130……」

〔「あ 82-39だ!何でも、高速で更に海沿いの県に向かったらしい。ゴローちゃんは今どこだ?」〕

「あ……82-39……って、あれじゃん!」
「なにっ!?」
 ゴロー運転手が大ボケかまして、隣の運転手に睨まれたトラックである!
 そのトラックは国道を左折した。
「急いで追ってくれ!」
「了解!」
 酔王丸も国道に出る。
 奇しくもスピーカーから流れて来たBGMは、

〔「……サイレンの音♪『ウー!』高らかに♪地球の裏まで♪一っ飛び♪ただいま出動♪『オー!』ヤッターマン♪」〕

(何故にヤッターマン!?)
「行くぜ、オラァッ!」

〔「仮面に隠した正義の心〜♪ドロンボー達を♪ブッ飛ばせ〜♪」〕

 だが、件のトラックは高速の入口に入ってしまった。
「くそっ!奴め、また高速に!?」
 すると運転手は、
「よーし!こんなこともあろうかと、この酔王丸に導入された新兵器を使う時が来た!」
「な、何だそれ!?」
「ポチッとな!」

〔「カードの挿入を確認しました」〕

「レッツ!ETC!」
「ええーっ!?」
 ひったくり犯のトラックにはETCが無いのか『一般』の所に並んでいたが、酔王丸はETCをスイスイと通過した。
 ……って!

〔「生かしたルックス♪ポーズ決めて〜♪ビジネスに繰り出すのよ〜♪」〕(GS美神ED曲『BELIEVE ME』)

「なにエンディング流してんだ!?」
「……ビリーブ・ミー♪」
「歌ってんな!おぉぉい!」

 この後、結局どうなったのかは【お察しください】。       
                                    終
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする