報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「序章」

2016-06-23 21:06:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月24日10:00.天候:雨 某県霧生市郊外・とある屋敷]

 私の名前は私立探偵、愛原学。
 今回は仕事でこの町にやってきた。
 何県なのかは守秘義務によって明かせないが、そこの県庁所在地以外の町である。
 それにしたって、そこそこ大きな町ではあるのだが。
 私と助手の高橋は、クライアントからの依頼を受けて事件解決に頭を悩ませた。
 次々と殺されていく関係者。
 1度は犯人だと確証した容疑者の死。
 私と高橋はこの屋敷に泊まり込みながら、ついに真犯人を突き止める成功した。

「謎が全て解けました。そもそも、この事件の背景についてですが……」
 私は前置きを説明し、そして、
「真犯人“地獄よりの落ち武者”は、あなたですね?沖裏勝治さん?」
「怨嫉謗法はやめなさい!この老体のどこが犯人だと言うのだ!?」
「まず、第一のトリックですが、【以下略】」
「はっ、ハハハハっ!何のことかな〜?そういうことなら、そこにいる大沢にもできるだろうが」
「第二の犯行のトリックですが、【以下略】。これで容疑者候補の中に、まだ沖裏さんがいますね?」
「私以外にも、まだ岩子がいるじゃないか。こいつにだって、その時のアリバイが無いぞ?」
「わ、私は……」
「そして、そこで発生する第三の事件です!あなたは岩子さんにアリバイが無いことを知った上で、彼女に疑いの目が行くように仕向けたんだ。その時の証拠がこれです」
「愛原先生、それは……」

 【長くなるのでカット!🎬】

「……どうです!?これであなた、言い逃れをしますか!?」
「怨嫉謗法だ!頭破七分だ!いいですか!?怨嫉ばかりしていては、せっかくの功徳が台無しですよ!そんなことより功徳を語りましょうね!」
「いい加減にしろ、クソジジィ!」
「高橋君!」
 高橋が真犯人の胸倉を掴んだ。
「先生がこれだけの言い逃れできない証拠を揃えたんだぞ!いい加減に認めろ!」
「高橋君、放せ!」
 私は高橋を制した。
 まだ20代半ばの若者は、加減を知らんようだ。
「あ、あいつは……!あいつは、私の恋女房、カヨをバカにしたんだ……!それで、私は……私はーっ!」

 警察に連行される真犯人。
「今すぐ放しなさい!怨嫉謗法は最もやってはいけない謗法ですよ!?このままではあなた達は地獄行きです!それでいいんですか!?」
「はいはい、分かったから早くパトカーに乗ってくれ」
 パトカーで連行された真犯人だった。
「先生、確かあの爺さん、『不信謗法が最も罪障の重いものです』とか言ってませんでした?」
「そうだったかな?俺は学会員じゃないから分からんや」
「宗教絡みの動機だったのでしょうか?」
「ここから先は警察の領域だ。俺達、私立探偵は事件を解決する所まで。分かったか?」
「は、はい!メモっておきます!」
 バババッとメモを取ろうとするが、それがスマホという……。

[同日15:00.天候:雨 霧生市中心部・タクシー車内→東横イン霧生]

 現場となった洋館からタクシーで宿泊先のホテルに向かった私と高橋。
 もちろん事件を解決したからすぐに帰れるというわけではなく、私自身も事件の当事者として警察と色々話をしなければならなかったし、あとはクライアントと報酬について話をした。
 いくらかは明かせないが、これまでで1番高額の報酬を約束してくれた。
 振り込み日が楽しみだ。
 そんな話も終わり、私と高橋はクライアントが予約してくれたタクシーで町の中心部へ向かい、そして宿泊先のホテルへと向かった。
「あいつら、超一流の探偵である先生に、こんな扱いしやがって……!」
 タクシーで向かう間、高橋は何やら不満があったようだ。
 どうやら高橋の奴、ホテルは高級ホテルで、しかもハイヤーで送迎してくれるものと思っていたらしい。
 まあ、こんな地方都市で高級ホテルは無いだろうし、ハイヤーも、『霧生ハイヤー』という名前のタクシーだからいいんじゃないか。
 車種はトヨタ・コンフォートという、ごくありきたりな車であったが。
「まあ、いいじゃないか。報酬は私が探偵事務所を開いて以来の高額だ。キミにも夏のボーナスを渡せそうだよ」
「それはそれでありがたいですが、俺はもっと一流の探偵になれるよう、先生の下で勉強したいのです」
「それは涙が出るほどありがたい話だけど、そんなに慌てないようにな。キミは頭も良さそうだから、すぐにマスターできるよ」
「はい!」
 と、そこへ、タクシーが渋滞に巻き込まれた。
「おかしいな。まだ夕方のラッシュってわけでもないのに……」
 運転手が首を傾げる。
 止まっては走り出し、走り出しては止まるを繰り返す。
 おかげで時間制も併用されたメーターがどんどん上がって行くが、元よりタクシー代に関してはクライアント持ちだ。
 既にこのタクシー会社のタクシーチケットをもらっているので、愛原的にはいくらメーターが上がっても良かった。
「あ、先生。やっぱり事故みたいですね」
「んー?よく見えるなぁ……」
「俺、両視力2.0ですから」
「マジかよ!?俺の裸眼視力の20倍かよ!」
 そういうわけで、私は眼鏡を掛けている。
 ようやくパトカーの赤ランプが見えた。
 そして、ワゴンタイプのパトカーに、大きく『事故』と書かれているのが見えた。
「すいせんね、お客さん。この辺りは迂回路が無くて……」
「いや、いいよ」
 車同士の事故らしい。
 2台の車が激しく衝突しており、うち1台はひっくり返った亀のようだ。
 その車の運転席から、恐らくは既に死んでいるであろう運転手が、血だらけで這い出た状態で倒れていた。
「んっ?」
「どうしました、先生?」
「いや、今の車……。事故で死んだにしちゃ、何か死体の様子が変だったな……」
「変?」
「何か、全身が腐ったような……?」
「何ですか、それ?」
「……なワケないか。気のせいかな。さっきまでの事件のせいで、惨殺死体を何度か見たせいで、感覚がおかしくなってるのかも」
「先生、早くホテルに入って休んでください。運転手さん、まだ着かないんですか?」
「ああ、もうちょっとです。やっと事故現場を通り過ぎて、渋滞も解消されましたので……。あそこですね。東横イン」
 青いネオンサインが特徴のホテルの看板が見えてきた。
 タクシーはようやくそのホテルの前に止まる。
「お待たせしましたー」
「どうも。タクシーチケットで払います」
「はい」
 私がボールペンでチケットにメーターの金額を書き込んでいる間、高橋は荷物をトランクから降ろした。
「ありがとうございましたー」
 私がタクシーを降りると同時に、サイレンを鳴らした救急車がホテルの前を通過していった。
 そういえば、もうこれで何回目だ?
「さっきの事故現場の方に向かった感じですね」
 私の視線に気づいたか、高橋がそう言った。
「そうだな。まあ、それより、早くホテルに入ろう」
「はい」
 私と高橋は、キャリーバッグを引いてホテルの中に入った。

 今から思えば、ゆっくり1泊なんてしてないで、この時点で町から出ていれば良かったのかもしれない……。
コメント (3)
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