[5月27日07:16.天候:晴 東北新幹線“はやて”111号9号車内 平賀太一&1号機のエミリー]
「何だって?執事ロイドがいた?」
「イエス」
列車に乗り込んで座席に座ると、平賀はエミリーから聞いた。
「上越新幹線の・方に……」
「……か、もしくは北陸新幹線か?あっちの方に、執事ロイドを持ってる人なんていたかなぁ……?」
平賀は首を傾げた。
「関西の方には何人かいるけどね。所用で、向こうから来たのかな……」
平賀はグリーン車の座席の肘掛けから、収納式のテーブルを出すと、そこに朝食の駅弁とお茶を置いた。
そうしているうちに、列車がインバータの音を立てて発車した。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北新幹線、“はやて”号、盛岡行きです。次は、上野に止まります。……〕
「!」
その時、通路側に座るエミリーがフッと平賀越しに窓の外を見た。
「どうした?」
2人は進行方向左側に座っているが、そこから外は通勤電車が引っ切り無しに走っている。
神田駅の横を通過すると、京浜東北線が発車していく所だった。
各駅停車、蒲田行きと書かれている。
「シンディが・乗っていました。恐らく・敷島さんも」
「ほお。重役出勤かと思ったら、結構早めに通勤しているんだな。それも、通勤電車通勤とは……。敷島さんによろしく伝えておくよう、シンディに言っといてくれ」
「かしこまりました。プロフェッサー平賀」
[同日同時刻 天候:晴 JR神田駅→JR東京駅 京浜東北線615A電車・1号車内 敷島孝夫&3号機のシンディ]
〔次は東京、東京。お出口は、右側です〕
〔The next station is Tokyo.The doors on the right side will open.〕
電車が神田駅を発車した時、下りの東北新幹線が通過していった。
(姉さん!)
エミリーも気づいたのか、すぐに通信してきた。
「私は・プロフェッサー平賀と・共に・仙台に・戻る。シンディも・頑張れ。プロフェッサー平賀が・敷島社長に・『よろしく』との・ことだ」
すぐにシンディも返す。
「分かったわ。社長は寝てるけど、後で伝えておく。姉さんも気をつけて」
と。
敷島は座席横の白い仕切り板にもたれてうたた寝をしていたが、神田駅から東京駅に至る線路は緩いS字になっているにも関わらず、ダイヤに余裕が無い上、客扱い遅れを大抵起こしているからか減速しないで進むため、電車が大きく揺れるポイントである。
それで座っている乗客も揺さぶられて、作者もそれで起こされるのだが敷島はハッと顔を上げた。
敷島が顔を上げると、微笑を浮かべたシンディが見下ろしていた。
微笑した顔は、エミリーのそれとよく似ている。
さすがは姉妹機だ。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。車内にお忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。この電車は京浜東北線、各駅停車、蒲田行きです」〕
電車がホームに滑り込む。
敷島が欠伸をしながら席を立った。
ここで多くの乗客が降りる。
〔とうきょう〜、東京〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に止まります〕
敷島とシンディは目の前の階段を下りる。
「久しぶりに京浜東北線で通勤したもんだ。宇都宮線が事故で止まっていると聞いて、こっちにしたんだがな、大した影響は無かったみたいだ」
敷島達が大宮駅で京浜東北線に乗った時には、既に復旧していたもよう。
「おかげで、姉さんとも挨拶できたしね」
「? どういうことだ?」
「神田駅で東北新幹線が通過して行ったんだけど、その中に平賀博士とエミリーが乗っていたのよ」
「なにっ、そうだったのか」
「平賀博士が、社長に『よろしく』だってさ」
「ちっ。ものの見事に、逃げられたってわけか」
「何が?」
「ボーカロイドの秘密だよ。ついでに聞こうと思ってたのに」
「嘘ばっかw」
[同日07:27.天候:晴 東京駅八重洲南口・都営バス東京駅八重洲口バス停 敷島&シンディ]
朝の通勤時間帯ということもあり、バス停には長蛇の列ができている。
敷島達はバスを1本やり過ごすと、次のバスを待った。
「井辺君は錦糸町からの都営バスで来るって言ってたな」
「井辺プロデューサーは、錦糸町にマンション借りて住んでるんだっけ?」
「岩槻からじゃ、毎日の通勤も大変だろうしなぁ……。確か、親族のツテで借りれたとか言ってたな……」
そうこうしているうちに、次のバスがやってくる。
長蛇の列ができるほどの路線ということは、それだけ本数も多いということである。
〔「お待たせ致しました。東16系統、深川車庫行きです」〕
「これで行けば、ダイヤ上は8時までに着けるよな?」
「そのはずだけどね」
敷島とシンディはバスに乗り込んだ。
敷島は真ん中の1人席に座ると、シンディはその横に立つ。
奇しくも、この位置は豊洲駅から乗った平賀とエミリーの位置と同じであった。
背後には仕切り板があり、1人席なので隣に赤の他人が相席してくることもない。
その為、マルチタイプにとっては護衛のしやすい席であるという。
敷島達が8時までに会社に到着したいのには理由があった。
今日のボーカロイドのスケジュールは、9時以降に会社を出る者達ばかりで、先日敷島が疑問に思ったことを確認する為であった。
1時間もあれば、少しは分かるだろうというものだ。
バスはあっという間に満席になった。
〔「お待たせ致しました。深川車庫行き、発車致します」〕
〔発車致します。お掴まりください〕
バスはJRバスなどの高速バスが発着している方に合流すると、八重洲通りに出る信号機に向かった。
〔毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは住友ツインビル前、月島駅前、豊洲駅前経由、深川車庫前行きでございます。次は通り3丁目、通り3丁目でございます。……〕
今では『歌って踊れるアンドロイド』を越え、演技もできるほどになったボーカロイド達。
敷島にとっては、そもそもボーカロイドの開発経緯を聞いていなかった。
別に、聞かなくても良かった。
ただ、デイライト社のアルバート常務の言葉が、どうしても引っ掛かってしまったのだ。
『ボーカロイドがその持ち前の機能を存分に発揮したその力は、マルチタイプをも凌駕する』とは一体どういうことなのか。
明らかにアルバート常務は、敷島の目から見て、それを悪用しようとしていた。
悪用されるとマズいのであるなら、それを防止しなければならないが、そもそも悪用されるとマズい機能が何なのかが分からないようでは、手の施しようが無かった。
バスは眩い朝の陽ざしの中、江東区へ向かって進んだ。
「何だって?執事ロイドがいた?」
「イエス」
列車に乗り込んで座席に座ると、平賀はエミリーから聞いた。
「上越新幹線の・方に……」
「……か、もしくは北陸新幹線か?あっちの方に、執事ロイドを持ってる人なんていたかなぁ……?」
平賀は首を傾げた。
「関西の方には何人かいるけどね。所用で、向こうから来たのかな……」
平賀はグリーン車の座席の肘掛けから、収納式のテーブルを出すと、そこに朝食の駅弁とお茶を置いた。
そうしているうちに、列車がインバータの音を立てて発車した。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北新幹線、“はやて”号、盛岡行きです。次は、上野に止まります。……〕
「!」
その時、通路側に座るエミリーがフッと平賀越しに窓の外を見た。
「どうした?」
2人は進行方向左側に座っているが、そこから外は通勤電車が引っ切り無しに走っている。
神田駅の横を通過すると、京浜東北線が発車していく所だった。
各駅停車、蒲田行きと書かれている。
「シンディが・乗っていました。恐らく・敷島さんも」
「ほお。重役出勤かと思ったら、結構早めに通勤しているんだな。それも、通勤電車通勤とは……。敷島さんによろしく伝えておくよう、シンディに言っといてくれ」
「かしこまりました。プロフェッサー平賀」
[同日同時刻 天候:晴 JR神田駅→JR東京駅 京浜東北線615A電車・1号車内 敷島孝夫&3号機のシンディ]
〔次は東京、東京。お出口は、右側です〕
〔The next station is Tokyo.The doors on the right side will open.〕
電車が神田駅を発車した時、下りの東北新幹線が通過していった。
(姉さん!)
エミリーも気づいたのか、すぐに通信してきた。
「私は・プロフェッサー平賀と・共に・仙台に・戻る。シンディも・頑張れ。プロフェッサー平賀が・敷島社長に・『よろしく』との・ことだ」
すぐにシンディも返す。
「分かったわ。社長は寝てるけど、後で伝えておく。姉さんも気をつけて」
と。
敷島は座席横の白い仕切り板にもたれてうたた寝をしていたが、神田駅から東京駅に至る線路は緩いS字になっているにも関わらず、
それで座っている乗客も揺さぶられて、
敷島が顔を上げると、微笑を浮かべたシンディが見下ろしていた。
微笑した顔は、エミリーのそれとよく似ている。
さすがは姉妹機だ。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。車内にお忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。この電車は京浜東北線、各駅停車、蒲田行きです」〕
電車がホームに滑り込む。
敷島が欠伸をしながら席を立った。
ここで多くの乗客が降りる。
〔とうきょう〜、東京〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に止まります〕
敷島とシンディは目の前の階段を下りる。
「久しぶりに京浜東北線で通勤したもんだ。宇都宮線が事故で止まっていると聞いて、こっちにしたんだがな、大した影響は無かったみたいだ」
敷島達が大宮駅で京浜東北線に乗った時には、既に復旧していたもよう。
「おかげで、姉さんとも挨拶できたしね」
「? どういうことだ?」
「神田駅で東北新幹線が通過して行ったんだけど、その中に平賀博士とエミリーが乗っていたのよ」
「なにっ、そうだったのか」
「平賀博士が、社長に『よろしく』だってさ」
「ちっ。ものの見事に、逃げられたってわけか」
「何が?」
「ボーカロイドの秘密だよ。ついでに聞こうと思ってたのに」
「嘘ばっかw」
[同日07:27.天候:晴 東京駅八重洲南口・都営バス東京駅八重洲口バス停 敷島&シンディ]
朝の通勤時間帯ということもあり、バス停には長蛇の列ができている。
敷島達はバスを1本やり過ごすと、次のバスを待った。
「井辺君は錦糸町からの都営バスで来るって言ってたな」
「井辺プロデューサーは、錦糸町にマンション借りて住んでるんだっけ?」
「岩槻からじゃ、毎日の通勤も大変だろうしなぁ……。確か、親族のツテで借りれたとか言ってたな……」
そうこうしているうちに、次のバスがやってくる。
長蛇の列ができるほどの路線ということは、それだけ本数も多いということである。
〔「お待たせ致しました。東16系統、深川車庫行きです」〕
「これで行けば、ダイヤ上は8時までに着けるよな?」
「そのはずだけどね」
敷島とシンディはバスに乗り込んだ。
敷島は真ん中の1人席に座ると、シンディはその横に立つ。
奇しくも、この位置は豊洲駅から乗った平賀とエミリーの位置と同じであった。
背後には仕切り板があり、1人席なので隣に赤の他人が相席してくることもない。
その為、マルチタイプにとっては護衛のしやすい席であるという。
敷島達が8時までに会社に到着したいのには理由があった。
今日のボーカロイドのスケジュールは、9時以降に会社を出る者達ばかりで、先日敷島が疑問に思ったことを確認する為であった。
1時間もあれば、少しは分かるだろうというものだ。
バスはあっという間に満席になった。
〔「お待たせ致しました。深川車庫行き、発車致します」〕
〔発車致します。お掴まりください〕
バスはJRバスなどの高速バスが発着している方に合流すると、八重洲通りに出る信号機に向かった。
〔毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは住友ツインビル前、月島駅前、豊洲駅前経由、深川車庫前行きでございます。次は通り3丁目、通り3丁目でございます。……〕
今では『歌って踊れるアンドロイド』を越え、演技もできるほどになったボーカロイド達。
敷島にとっては、そもそもボーカロイドの開発経緯を聞いていなかった。
別に、聞かなくても良かった。
ただ、デイライト社のアルバート常務の言葉が、どうしても引っ掛かってしまったのだ。
『ボーカロイドがその持ち前の機能を存分に発揮したその力は、マルチタイプをも凌駕する』とは一体どういうことなのか。
明らかにアルバート常務は、敷島の目から見て、それを悪用しようとしていた。
悪用されるとマズいのであるなら、それを防止しなければならないが、そもそも悪用されるとマズい機能が何なのかが分からないようでは、手の施しようが無かった。
バスは眩い朝の陽ざしの中、江東区へ向かって進んだ。