報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

特別読切!“私立探偵 愛原学” 1

2016-06-09 22:54:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
(※この作品は私が高校時代に校内コンクールに出品して、入賞したものです。しかしながら、現在の私の目で読むと、とても稚拙なものです。従いまして、公開するに当たり、今の私の技量でリメイク&アレンジしたものをお送りします)

 私の名前は愛原学。
 東京都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事で長野県、山奥の村までやってきた。
 仕事の依頼さえあれば、どこにだって行くつもりである。
 クライアントの元へ到着した時には、既に21時を回っていた。
 何故そんな時間なのか。
 答えは簡単。
 クライアントがこの時間に来てほしいと依頼したからである。
 現場は長野県の山奥の村の更に村はずれ。
 確かに、洋風のペンションなどが途中で散見されてはいたが、クライアントの家はそれにもっと輪を掛けたものだ。
 はっきり言って、西洋の洋館風。
 幸い今の天気は晴れで、上空には東京では見られない美しい星空、そして月が煌々と輝いている。
 これで雷雨なんかあった日には、間違い無くホラーチックな佇まいであろう。
 そんな雰囲気を放っていた。
 大きな屋敷である。
 いかに地方の山奥とはいえど、こんなに大きな洋館を建てられるのだから、クライアントはよほどのセレブに違いない。
 これは高額な依頼料が期待できる。
 天候が悪ければホラーチックと言ってしまったが、正門の門扉やそこからエントランスに通じる中庭には煌々と明かりが灯り、そして館内にも照明が灯っているのが分かる。
 だから決して、廃屋ではないことが分かる。
 明らかに、クライアントは私を待ってくれている。
 そう確信した。
 正門から敷地内に入り、玄関へ向かう。
 クライアントが私の元に寄せて来た依頼内容は、とても不可解なものだった。
 長野県内にも探偵事務所はあろうに、それが悉く断ったが故に、ついに回り回って私の所に依頼が来たという次第だ。

「何者かに命を狙われている。それが何者なのかは分からない。どうか、私の命を狙っている者が誰なのかを突き止めてくれ」

 というもの。
 もしこれが本当だというのなら、もう私立探偵を通り越して警察の出番となるであろう。
 だがクライアントはその疑問を見越してか、

「警察は私が死体にならないと動いてくれない」

 と、言っていた。
 結構その通りかもしれないので、クライアントの気持ちは分かる。
 私も命の危険にさらされる恐れはあるが、しかし実はハードボイルド系の探偵に憧れている所があり、また、高額な依頼料も約束してくれるとのことだ。
 また、それにクライアントの被害妄想などで、実は犯人だと最初からいなかったという場合も考えられる。
 とにかく、私は他の探偵達が断る中、あえてこの仕事を受けてみることにした次第である。

 玄関前に到着し、私はベルを押した。
 しばらく経ってから、ドアが開けられた。
 出て来たのは歳の頃、60歳から70歳くらいと思しき老人。
 だが、クライアントである屋敷の主人ではなさそうだった。
 白髪頭のてっぺんは禿げ上がっており、まるで河童のようである。
 タキシードにネクタイを着けていることから、恐らく執事か何かであろう。
「……どちら様ですか?」
「あ、私、東京から参りました探偵の愛原と申します。クライアント様からこの時間に来るように依頼されて、伺ったのですが……」
 私が自己紹介していると、ふと何やら違和感を覚えた。
 この老執事らしき男から、血の匂いがしたのだ。
 よく見ると、黒いタキシードに、所々シミがついているうな気がする。
 黒いタキシードに赤黒い血がついても、乾いてしまえば、薄暗い屋敷内だ。
 パッと見、分かりはしないだろう。
 だが、私の探偵としての鼻は誤魔化せない。
 言葉に気をつけないと、私も酷い目に遭わされる恐れがある。
 どうもこの執事、クライアントから聞いていないのか、それとも聞いていて忘れているのか、何だか私を警戒するような目つきで見ている。
 何だか気まずい。
 ここは1つ、何か話しかけなければならない。
 私は言葉を選んだ。

(以下、愛原の妄想劇。
「こんにちは」
「今は夜じゃああああぁぁぁぁっ!!」
 男は上着のポケットからジャックナイフを取り出すと、いきなり私の心臓に突き立てた。
 何度も、何度も……私の心臓を抉り出すかのように……。
 咄嗟のことで成す術の無い私……。
 段々と私の意識は薄れていった……。 完)

 いかんいかん!
 狂った殺人犯に、揚げ足を取られる言葉は御法度だ!
 そ、それならば……。

(以下、愛原の妄想劇。
「河童くん、こんばんはw」
「怨嫉謗法はやめろォォォォォォッ!!」
 男は上着のポケットからジャックナイフを取り出すと、いきなり私の心臓に突き立てた。
 何度も、何度も……私の心臓を抉り出すかのように……。
 咄嗟のことで成す術の無い私……。
 段々と私の意識は薄れていった……。 完)

 だ、ダメだ。
 某サウンドノベルゲームのような展開しか思いつかん!
「どうかしましたか?」
 老執事が更に警戒するように私を見据えて来る。
 いい加減答えないと、やはり時間切れで私の命が危ない。
「ぱ、パンツはかせてください!!」
 咄嗟に言ってしまった。
 何故か、頭の中に浮かんでしまったのだ。
 こ、これもマズいのではないか……!?
「……ああ、確かご主人様が来客があるからと仰せでした。あなたがそうでしたか。これは失礼しました。どうぞ、中でご主人様がお待ちですので」
 男は私を屋敷内に招き入れた。
 さっきの私のセリフは大正解だったのか?
 それとも、華麗にスルーされてしまったのか?……家令なだけにw
 屋敷の外観はとても古い造りだったが、中も相当年季が入っている。
 それに拍車を掛けているのが、やはりアンティークな家具や調度品だ。

(以下、愛原の妄想劇。
「古い家具ですね」
「古くて悪かったなあぁぁぁぁッ!!」
 男は振り向き様、鬼のような形相になり、上着のポケットからジャックナイフを取り出すと【以下略】 完)

 だから!
 殺人鬼に常識的な声がけは、却って危険であるって!

(以下、愛原の妄想劇。
「壁に死体が塗り込められているんじゃないですか?」
「塗り込んで何が悪い!!」
 男は振り向き様、鬼のような形相になり、【以下略】 完)

 壁が一部新しくなっているので、ついそう思ったが、さすがにストレート過ぎるか。
 しょうがない。
 壁については、後で調べることにしよう。
 それにしてもこの男、必要なこと以外は喋るつもりが無いようだ。
 屋敷はとても広い。
 進んでいる間、無言はさすがに気まずい。
 何か、話し掛けないと……。
「あなたと一緒にスキーがしたいな」
「!」
 私が声を掛けると、男はビクッと体を震わせたが、何も答えずにスタスタと私の前を歩く。
 ……と、男の肩に糸くずがついているのが分かった。

(愛原の妄想劇。
 私は普通に糸くずを取ってやった。
「俺の糸くずを取るなァァァァァァァッ!!」
 男は振り向き様、鬼のような形相【以下略】 完)

 やはり、いくら何でも黙って取るのはダメか。
 それならば……。

(愛原の妄想劇。
 御本尊を巻いたもので取ってやった。
「御本尊はタダの物だァァァァァッ!幸福製造機だァァァァァァァァッ!!」
 男は振り向き様、【以下略】 完)

 いや、今さっき、仏間があって、そこに掛け軸が掛かっていたものだからね。
 しょうがない。
 私は後ろから抱きついたその瞬間に、サッと取ってやった。
「!!!」
 男はビックリした様子であったが、それでも平静を装い、スタスタと歩みを止めようとしない。
 ここまでしても平静を装うとは、やはりこの男、何か隠しているな。
 男はやっと屋敷の奥にあるドアの前で立ち止まった。
「どうぞ。こちらが、ご主人様のお部屋でございます」
 私は……。

(「ここまで加代わせてもらってありがとう」
「カヨって言うなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 男は後ろから私の背中を心臓目掛けて突き刺した。何度も……何度も……【以下略】 完)

 ダメだな。

(「功徳の小噺は無いのかい?」
「俺の功徳を否定するなぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 男は後ろから【以下略】 完)

 これもイマイチ。
「ありがとう」
 と言って、私は男の頬にキスをした。
「ううーん……」
 何故か男は泡を噴いて倒れてしまった。
 一体、何だと言うのだろう?
 はっ、まさか!?しまった!私は油断してしまった!
 クライアントたる屋敷の主人が命を狙われているということは、この屋敷の関係者のうち、誰かが犯人でもない限り、それ以外の人間もまた命を狙われているということだ!
 そして、必ずしも屋敷の主人が先に殺されるとは限らないことにどうして気づかなかったのか!?
 私は……私はぁぁぁぁぁぁッ!!orz

「あー、メイド長のガンコさん?執事君が倒れてしまったから、至急、医務室に運んであげて」
 フツーに無事の屋敷の主人。
「あと、何か頭のおかしいのが入り込んだみたいだから、大沢警備隊長とマイケル警備員に頼んでつまみ出して」

                                                       終
コメント (11)
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