報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ボーカロイドの謎」

2016-06-20 21:35:18 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月1日09:00.天候:晴 東京都江東区豊洲・敷島エージェンシー]

「おはようございます」
「おはようございます!」
 社員を複数抱えるようになってから朝礼を行うようになった敷島エージェンシー。
「今日から6月になり、暦の上では夏になります。特に営業で外回りを行う担当にあっては、夏バテや熱中症に注意してください。ボーカロイドも精密機械の塊ですので、熱は大敵です。御自身の体調はもちろん、マネージメントを行うボーカロイドの体調も気づかってください。端末のアラームが鳴ったり、ボカロ本人が体調不良を訴え出したら、すぐにマニュアルに則った対応を行うように」
 敷島が社員達に訓示を行っていた。
「……というわけで、今日も1日頑張りましょう!」

 社長室に戻ると、敷島の机のPCに電子メールが届いていた。
 それはアリスからのもので、試しにミクとLilyをサンプルとして、ある調査をさせた。
 詳しい結果を出すことはできなかったが、Lilyにあっては、そもそも機能として電気信号を音楽に換えて歌う能力自体が無い。
 試作機と量産機という呼び方で誤魔化されていたが、どうも、そもそも試作機たるミク達と量産機であるLilyとは用途が違ったのではないかと思った。
「うーん……」
「社長。取りあえず、コーヒー入れたわよ」
 ここでは社長秘書という用途で稼働しているシンディが、コーヒーを入れて来た。
「ああ、ありがとう」
「そんなにミクのことが気になるの?」
「…………」
「確かに、ミク達の歌でバージョン・シリーズ達の指令がメチャクチャになったのは事実だよ。でも、どうしてその時から調べなかったの?」
「元々ボーカロイド自体に、そういう付加機能があったのかと思ったんだよ。で、悪用されるほどのものでも無いんだと思ってた。だが、アルバート常務の話がどうも気になる」
「ミクじゃなくて、リンとレンだけだったりして?」
「何だと?」
「可能性は無くない?」
「うーむ……」
 その時、社長室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
 入って来たのは井辺。
「社長、MEGAbyteが番組制作会社と打ち合わせがあって、ちょっと出てきますので……」
「ああ。いいよ、いちいち俺に断らなくて」
「あ、いえ。鏡音さん達が、イベントの打ち合わせで近くまで行くので、ついでに乗せていきます」
「あ、そうなのか。……リンとレンは今日のスケジュールは……埋まってるか。さすが売れっ子だ」
「鏡音さん達が何か?」
「いや、何でもない。気を付けて行ってきて」
「はい」
 井辺達が退出すると、敷島は自分のスマホを出した。
「あ、もしもし。アリスか?今月の科学館さんの週末イベントはどうなってる?……GGRKS?あー、そうかよ!急きょ、こっちに回してもらえるボカロのイベントはあるか?……いや、もしかしたら、アルバート常務はリンとレンだから狙ったかもしれないと思ってさ。あれがミクやMEIKOとかだったら、興味が無かったかもしれない。……そう。だから、リンとレンを徹底的に洗ってもらいたいんだ。一応、あいつらも敷島エージェンシーの売れっ子だからな、ちゃんとした理由が無いと連れ出せない。そっちで何かイベントがあって、それに出る為となれば、いい大義名分になるんだ。……ああ、頼むよ」
 敷島は電話を切った。
「リンとレンか。確かに、不思議なコ達ではあるよね」
 と、シンディ。
「双子機の特性があるかもしれないな。それが何かあるのかもしれない」
 もちろん、相互に信号を送受信することは可能。
 リンとレン、お互いに離れていても、独自の緊急信号を持っている。
 これは他のボカロには無い。
 でも、それが何だというのだろう。
 それとも、それは違うのか。

 しばらくして、DCJの運営するロボット未来科学館のイベント企画担当者から電話が掛かってきた。
 それによると、PRの関係で今週末はさすがにムリだが、来週末なら『ゲリライベント』と称して行うことが可能かもしれないという。
 その為、詳しい打ち合わせをしたいので、なるべく早く来てほしいとのことだった。
「リンとレンのスケジュールを開けておこう」
「打ち合わせだけなら、社長だけでもいいんじゃない?」
「なるべくリン達への調査の機会を設けたいからな」
 敷島は片目を瞑った。
(ああ、なるほど)
 シンディは即座に理解した。
(せっかく科学館に来たのだから、ついでにリンとレンを『健康診断』するってことね)

[6月3日10:00.天候:雨 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

「社長、何もこういう所でのミニイベントより、テレビ出演の方がデカくないですか?」
 新たにリンとレンのマネージャーとして入社した社員が、不満そうに敷島に言った。
「まあ、普通はそうなんだが、今回はちょっと特別でな……」
 ハンドルを握る敷島が、ばつの悪そうな顔をしていた。
 助手席に座るシンディが、
「科学館様を敵に回すということは、私のオーナー様を敵に回すということなのよ。察してあげてよ」
 後ろを振り向いて、マネージャーにウィンクした。
「頼もしい奥様で」
「ボクは別に、歌のお仕事であれば、何でもやりますよ?」
「リンも!」
「うん。うちのボーカロイドも、頼もしい奴らばっかりで助かるよ」
 敷島は業務用駐車場に車を止めた。
 そして通用口から中に入り、警備受付に向かう。
「おはようございます。敷島エージェンシーの敷島です。打ち合わせに伺いました」
「これはどうも、お疲れ様です。今、担当の者に連絡しますので」
 警備室の中にいた警備員が敷島達の方を見てそう言うと、すぐに室内の電話で連絡していた。
 もちろん、アポありでの来館である。
 敷島達は、すぐに奥の会議室へ通された。

「あなた達、どこか体の具合は悪くない?せっかく来たんだから、点検しておくわよ?」
 イベントの打ち合わせの後で、アリスが待ち構えていたかのようにやってきた。
「あ、ボクは大丈夫です」
「リンも絶好調ですYo〜!」
「お、お前らなぁ……。(そこは空気読めよ!)」
「社長、夕方から雑誌の取材がありますので……」
「夕方からだろ?ちょこっと整備する時間くらいあるだろ?」
「ですが……」
 と、そこへ、
「ああっと!」
 シンディが部屋から出ようとしたリンに体当たり。
「きゃあっ!!」
 それはリンの監視端末から『損傷』のアラームが鳴るほどであった。
「リンの腕が!腕がぁっ!」
 リンは折れた自分の右腕を左手で押さえながら泣きじゃくった。
「シンディ!何てことするんだっ!」
 レンがシンディを睨みつける。
「ご、ごめんなさーい!左足がもつれちゃって……。ドクター、リンを優先して修理するのは当然ですが、その後で私も診て頂けますか?」
「も、もちろんよ!リン、早くこっちへいらっしゃい!すぐに直すわ!」
「痛いよォ!」
 会議室を出て研究室に連れて行かれるリン。
「あ、あの、社長……。シンディさん、わざとぶつかったような……?」
 マネージャーがまた余計なことを言い出したので、敷島は、
「黙ってろ!」
 と、一喝した。

 こうして、まずはリンの修理兼調査が始まった。
コメント (4)
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