報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

特別読切!“私立探偵 愛原学” 2

2016-06-10 20:55:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 私の名前は愛原学。
 東京都内で小さな探偵事務所を開いている。
 今日は仕事で東北の小さな町へやってきた。
 東京駅から新幹線に乗り、それが1時間に1本しか止まらないような駅から、今度は1時間に1本しか出ない在来線に乗り換え、更に1時間ほど電車に揺られた。
 しかし、クライアントの家までは、これで終わりではない。
 最寄りの駅から、更にバスに乗り換えてやっと到着できるような場所であった。
 ところが、だ。
 そのバスというのが、1日に3本しか無いと来る!Σ(・□・;)
 時刻表を見ると、朝に1本、昼に1本、夕方に1本あるらしい。
 昼の便までは、あいにくと1時間以上待たされてしまうようだ。
 それでクライアントは、約束の時間は午後で良いと言っていたのか。
 仕方が無い。
 この町で、バスの時間まで時間を潰すとしよう。
 幸いダイレクトに、私の腹は昼食の時間であることを告げている。
 うむ。私の体内時計は正確だ。
 さて、と……。どこかで、昼食が取れる場所は……と。

 この田舎町、良く言えば静かなのだろう。
 だが、悪く言えば活気が無い。
 はっきり言って、寂れている。
 駅前の商店街は、軒並みシャッター街と化してしまっている。
 辛うじて、コンビニくらいは開いているが。
 長旅で疲れていることだし、どこかゆっくり座って食べたいものだ。
 私は寂れた商店街を歩いた。
 と!商店街の外れに、一見のファストフード店を発見した。
 こんな田舎町にも、ファストフード店はあるものだな。
 だが、チェーン店ではない。
 しかし店の入口には、ハンバーガーやフライドポテトの絵が描かれている看板が立っていた。
 一応営業しているみたいだし、ここに入ってみることにしよう。

「いらっしゃいませー」
 店に入ると、一応そこはベタな法則のファストフード店ではあるようだ。
 だが、外の商店街と同様、店内も活気が無い。
 何というか……チェーン店のそれと比べると、そんなに明るくない。
 それに、お昼時だというのに、私以外に客の姿が見受けられない。
 これでは開店休業状態だ。
 一応、カウンターレジの前には、20歳〜30歳くらいの店員の兄ちゃんが立っているが……。
「こちらでお召し上がりですか?」
「あ、はい」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、えーと……」
 店の雰囲気はチェーン店のそれと比べると違和感があったが、店員は普通のようだ。
 メニューを見ても、変な物が売っているという感じもしない。
 どうやら、私の思い過ごしであるようだ。
 私はメニューの中から商品を選んだ。
「この、Gセットを1つ。飲み物はホットコーヒーで」
 と、私が注文すると……。
「ええっ!?」
 店員は突然驚きの声を上げ、震える声でキッチンに言った。
「じ、ジ……Gセット……プリーズ……!」
「ちょ、ちょっと待て。ちょい待ち!何をそんなにうろたえてるんだ?」
「な、何言ってんスか、お客さん……?ぼ、ボクは何も……」
 店員は震えながら私の疑惑を否定しようとする。
 だが、態度が明らかにおかしい。
 これは事件の臭いか!?
 と、そこへ!
「ぅぎゃああああああああああっ!!」
 キッチンの奥から、断末魔が聞こえてきた。
「!!!」
 見ると、キッチンの奥から、血だらけの店員が倒れ込んできたではないか!
「どうした!?」
 レジの店員が、その血だらけの店員に駆け寄る。
「じ、じ……Gに、殺られ………た…………」
 ガクッと事切れるキッチンの店員。
「バイトくーん!しっかりしろーっ!!」
 こ、これはマズい!
 もしかして、とんでもない店に迷い込んでしまったのか!?
 いかにプロの探偵と言えど、犯人そのものと格闘するわけにはいかない!
 コナンや金田一だって、警察がいる前で真犯人を暴いているではないか。
 さすがに警察がいない所で、犯人と遭遇するのは、それはイコール死亡フラグを意味する!
 私は急いで、店の外に避難しようとした。
 確か、駅前に駐在所があったはずだ。
 取りあえず、そこへ行こう。
 だが!
「待てや、コラ!!」
 後ろからレジの店員に羽交い絞めにされた。
「わあっ!?な、何なんだ!?」
「アンタのせいで人が死んでんだっ!食ってから帰れ!!」
 朴訥な村の青年団員といった感じの店員だったが、今では鬼のような形相になっている。
 これは素直に従わないと、私もヒドい目に遭わされるかもしれない。
「わ、分かった!分かったよ!ただ、Gセットは危険なのでキャンセル!えーと……そうだ!チーズバーガー!チーズバーガーのSセットだ。これをくれ!」
「かしこまりました。……チーズバーガーは増殖するのとそうでないのとがありますが、どちらになさいますか?」
「いや、しない方に決まってんだろ!何だよ、増殖って!?」
「……ただいま、キャンペーン中ですので、こちらをどうぞ」
 店員はレジの下から、クジ箱を取り出した。
「くじ?」
 よくコンビニなんかでも、何百円以上お買い上げで1枚引けるというのがある。
 それをファストフード店で行うこと自体は、何らおかしいことではない。
 だが、何だろう?『クジ箱はミミックだった!!』的な展開がありそうな気がするのは?
「どうなさいました?」
 店員の目がギラッと光る。
「……手を入れた途端、噛み付かれる可能性はあるか?」
「な、何言ってんスか、お客さん。そんなこと、あるわけじゃないですか……。去年、別のクジ箱に手を入れたお客さんが、そのまま吸い込まれて亜空間に消えたくらいっスよ」
「何だよ、それは!?」
「今度は大丈夫ですって」
「本当だろうな!?」
 私はクジ箱に手を入れてみた。
 噛み付いて来ることも無ければ、吸い込まれることもなかった。
 指先は、確かにクジらしき紙の感触がある。
 私は1枚取って、手を抜いた。
「ほら、お客さん。普通のクジだったでしょ?」
「まあ、な……」
 早速私はクジの表面をコインで削ってみた。
 すると、現れたのは4等賞であった。
「ん?4等?当たりなのか?」
「はい。これはですね、今ならランダムで、セットをもう1つプレゼントというものでして、ここが剥がれるようになってるんスよ」
「そうなのか」
 私はクジの表面を剥がしてみた。
 すると、出て来たのは……。
「ら、ら……ラッキー……!じ、ジ……Gセット……プリーズ!」
「くぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 その後、この店員の兄ちゃんも、血だらけの状態で発見されたという。
 この店で何が行われていたのか、今では知る由も無い。
 クライアントの依頼を解決した後、試しに再び行ってみたら、どういうわけだか自衛隊が出動しており、商店街が全て封鎖されていたという事実だけ確認できたことだ。
 何の事件だか知らんが、そっちからの依頼でなくて、本当に良かったと思う。
                                                         終
コメント (2)
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