報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「逸材の苦労」

2015-04-04 10:10:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月5日12:30.アルカディアシティ郊外の宿屋2F マリアンナ・スカーレット]

 ユタとエントランスホールで別れたマリアは、師匠の部屋の鍵を手に2階へ向かった。
 階段の下でユタがこちらに視線を向けているようだったので、一喝して注意したが。
「えーと……ここだ」
 2階にあるにも関わらず、129号室と書かれたドア。
 恐らく、1階の部屋からそのまま通し番号で付けているのだろう。
 古めかしい鍵を差し込んでドアを開けると、当然そこには誰もいなかった。
 しかし、誰かが(といっても師匠イリーナしかいないが)最近まで使用していた跡がある。
 机の上には、紫色の絹が被せられた台の上に水晶球が置いてあった。
 手を翳してみたが、何の反応も無い。
「ここに……手掛かりがあるのだろうか?」
 まあ、あることはあった。
 机の上にはイリーナと同期の姉弟子ポーリンとその直弟子、エレーナとが写った写真が立ててあった。
 当然、イリーナの前には自分が写っている。
 中央に凛として構えるが、しかしフードを目深に被っている為に顔は見えない大師匠の姿もあった。
 これは自分が弟子入りして間もない頃に撮った写真だ。
 イリーナや大師匠の呼び掛けで顔合わせをした際に撮ったもの。
 同じ写真はマリアも持っている。これはいい。
 問題はその隣の写真だった。
「これは……!?」
 それは自分の人間時代だった頃の写真。
 今から10年くらい前の写真で、両親と祖父と一緒に撮った写真だ。
「何で師匠がこれを……?」
 この他、机の上に置いてあった本を開いてみた。
 七つの大罪の悪魔についての本で、これはマリアも聞いているので問題は無い。
 クロック・ワーカーの素質のある魔道師は、七つの大罪の悪魔の1つと契約して力を得る。
 マリアも不祥事を起こして見習に降格させられる前までは、“怠惰の悪魔”ベルフェゴールと契約していた。
 イリーナは“嫉妬の悪魔”と契約しているし、ポーリンは“傲慢の悪魔”、エレーナは今後“強欲の悪魔”との契約が内定しているし、ユタは“色欲の悪魔”という話がある。
 マリアは再び“怠惰の悪魔”になるだろうと……。
 もう1つの本は、それとはまた違った“魔の者”と呼ばれる存在の伝承について。
 確かに先述した七つの大罪の悪魔達も、魔道師と契約する分にはいいのだが、普通の人間と契約すれば、その血や魂を啜る為におぞましい事件を契約先の人間に引き起こせるという。
 これはマリア自身が体験していたから分かる。
 もう一冊の本は七つの大罪の悪魔達も関知しない、また別の“魔の者”と呼ばれる存在についてだ。
 こちらは悪魔の方から契約を甘い言葉で持ち掛けるのではなく、これといった目星のついた人間に憑依して、やはり残虐な事件を引き起こさせるというもの。
 魔道師の一部は、そういった“魔の者”と戦っていたことがあるという。
(私には関係無い話だ……)
 と思ったマリアだったが、
「懐かしいな。あいつら、まだ活動していたんだな」
「誰!?」
 空間のどこから声だけが聞こえた。
「オレだよ、オレ。忘れたのか?……おっと!オレオレ詐欺じゃないぞ」
「……ベルフェゴール」
 かつて契約していた“怠惰の悪魔”ベルフェゴールの声だった。
「何の用?まだ再契約なら決定していないよ?」
「内定しているのならそれでいい。それより、その“魔の者”についてだ」
「何か知ってるの?」
「自分は無関係だと思わない方がいいぜ。そもそも何でオレが、人間だった頃のオマエの所にやってきたと思う?」
「……私が神に願いを掛けたところにアンタが来ただけでしょう?」
「へっ(冷笑)、分かってねーな。あそこでオレが来なけりゃオマエ、“魔の者”に取り憑かれてたぜ」
「どういうこと!?」
「“魔の者”はただ闇雲に人間を殺すだけだが、オレはちゃんとした復讐劇に仕立ててやったぜ。感謝するんだな」
「はぐらかさないで!何で“魔の者”が私を!?」
「20歳過ぎりゃ、それで終わりってわけじゃねーんだよ。逸材さん?」
「は?」
「15歳から25歳の間が勝負だったんだ。今が最終年だってことさ、オマエはな。25歳の誕生日が来るまで、逃げるも戦うもオマエ次第だ。……でもよ、今ここでオレと契約すれば、“魔の者”どもなんぞ、かる〜く、全員地獄に送ってやるぜ?あ?」
「帰れ!!」
 マリアは魔道師の杖を空間に向かって振るった。
「おっと!……じゃあ、そういうことだから、気が変わったら、いつでも呼んでくれ。ははははは……(笑)」
 やっと悪魔の気配が消えた。
「ちくしょうっ!」
 マリアはドンッと机を拳で叩いた。
「私は悪魔の駆け引きの道具じゃない!」
 マリアが強く机を叩いたものだから、その衝撃で横のチェストが開いた。
「……ん?」
 そのチェストの中に、鍵が入っていた。
「何の鍵だ???」
 机の引き出しにも鍵があるが、それにしては鍵が大きいし、そもそも引き出しに鍵が掛かっていない。
 この鍵を使いそうな鍵穴は、少なくともこの部屋のどこかには無かった。
(私は……“魔の者”に狙われていた。ベルフェゴールの話が本当なら、15歳から25歳の間まで狙われる……ということか。18歳でベルフェゴールと契約した私は……その後、師匠から剥奪されるまではベルフェゴールが“魔の者”から守ってくれていたということ?)
 では最初の3年間は……?
 そもそも15歳ピッタリになってから、急に狙われるものなのだろうか。
 七つの大罪の悪魔のような高級な者なら、意外とそれにこだわることがある。
 しかし、ベルフェゴールの話しぶりからして、どうやら“魔の者”とは、そんなに高貴な存在でもないようだ。
 そういう奴らは協定なんかどこ吹く風だ。
 だから契約ではなく、憑依という形を取るのだろう。
「まあいいや。とにかく、鍵を見つけたことだし……」
 マリアはベッドの上に上半身だけ寝かして、自分のケータイを取った。
 どういうわけだか、電波が入る。
「……ユウタ、今どこ?……変な人?……そうか。……分からない」
 どうやらユタも、悪魔か何かの存在と接触したのだろうか。
 今のところ、ユタを狙っているような素振りは無かった。
 それまでは妖狐と盟約していたから、それでまだ様子見しているだけかもしれないが。
「……でも、鍵を見つけたわ。どこかで使えるかも」
 ユタを2階に呼んだマリアは起き上がって、階段の所まで向かった。

[同日13:00.宿屋1F 稲生ユウタ]

(マリアさん、疲れてる感じだったな。まあ、無理もない。昨夜あんまり寝てなかったし……。ここは僕がしっかり手掛かりを探してこないと)
 ユタは鍵を手に、1階を再び探索することにした。

 悪魔との戦いが始まろうしている……。

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