報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「狂科学者の遺産」 3

2014-06-30 20:19:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月1日14:00.東京都千代田区霞ヶ関 合同庁舎7号館 敷島孝夫、アリス・シキシマ、エミリー、初音ミク]

「聴取と調査は終わりましたが、念のためにいつでも連絡は取れるようにしておいてください」
 仏頂面の官僚達に見送られ、敷島達は不機嫌な様子で“科学技術省”こと、文部科学省の中央科学技術局(※架空の部局です)をあとにした。
「ったく。ミクのスケジュールがメチャクチャになったことへの謝罪は無しかよ!これだから公務員はァ!」
 更に続けて、
「本当は今日、朝から帝都テレビで収録があったんだぞ」
「だからそれは何度も聞いたって」
 さすがのアリスも敷島の愚痴に閉口していた。
「どうするの?アタシ、取りあえず財団本部に顔出してくるよ?」
「ああ、オレも行く。結局いつ終わるか分からんから、今日のミクのスケジュールは全部キャンセルにしちゃったからな」
「ごめんなさい、たかおさん……」
「いやいや、ミクが謝ることはないよ。えー、財団本部……新宿か。丸ノ内線で行けるな」
 庁舎を出ると、霞ヶ関駅へ向かった。
 ミクだけに千代田線か都営新宿線が良かったが、仕方が無い。
「まだ経済産業省や防衛省の担当者の方が、話が通じるよ」
「アタシらのロボットを、どう使うかで頭がいっぱいだもんね」
 つまりは、省庁間でもマルチタイプやボーカロイドをどう扱うかで、水面下のアレがあるらしい。
 特に、エミリーの取り合いが凄い。
 なので財団が介入して、何とか抑えてる状態だ。
 防衛省はエミリーを兵器に使いたいし、経済産業省はメイドロボットとかの用途で、ここに来て厚生労働省も介護ロボットとして注目しだした。
 一般財団法人である日本アンドロイド研究開発財団も、今のところは文部科学省の管轄に入っているが、おいそれと法人取り消しにできないのは、他の省庁からの引く手数多があるからだ。

[同日14:17.東京メトロ霞ケ関駅丸ノ内線ホーム 敷島、アリス、エミリー、ミク]

〔まもなく1番線に、新宿行きが参ります。乗車位置で、お待ちください。……〕

「おっ、ちょうど来た。ここでMEIKOがいたらギャグなんだが、そうもいかんか」
「あのね」
 さっきから何なのかというと、日本の地下鉄にはラインカラーがあるのと同じように、ボーカロイドにもイメージカラーがあるということだ。
 ミクは緑系。だから千代田線とか都営新宿線とか言ったのだ。
 MEIKOは赤系。だから、ラインカラーがレッドの丸ノ内線って……。
 誰ですかー?城衛って言ったの?

〔霞ケ関、霞ケ関です。日比谷線、千代田線はお乗り換えです。1番線の電車は、新宿行きです〕

「しかし、あれだな。財団の関係者とかも迎えに来てくれたらいいのに……」
「まあ、最大のツッコミは『アンタだよ』だけどね」
 敷島の肩書きはアリス研究所の事務員兼ボカロ・プロデューサーだが、実は財団仙台支部の参事というのも正式に消えていない。
 だから財団所属のロボット達は、今でも敷島の敬称に参事を付けるのである。
 電車は短い発車メロディを流した後、すぐに発車した。

〔次は国会議事堂前、国会議事堂前。乗り換えのご案内です。千代田線、南北線はお乗り換えください〕
〔The next station is Kokkai-gijidomae.Please change here for the Chiyoda line and Nanboku line.〕

「明日はミク、何か予定あるの?」
 アリスが聞いてくる。
「ラジオ東京で公開収録と、NHKのテレビとラジオ両方で収録がある」
「引っ張りだこね」
「ミクはトップアイドルだからな」
 もっとも、今は顔バレしないよう、変装している。
 帽子を被って、ダテ眼鏡という“ベタな有名人変装の法則”だ。

[同日15:00.東京都新宿区西新宿 財団本部会議室 敷島、アリス]

「そうか……。“科学技術省”は厳しかったか」
「はい。とにかく、『遺産を全部集めろ』の一点張りで……」
 敷島は本部の役員に、辟易した様子で報告した。
「ここ最近、防衛省がエミリーに接触しかけてきているので、面白くないんだろう」
「ロシア政府が抗議してきませんかね?もともとエミリーなど、マルチタイプは旧ソ連の秘密兵器だったわけですし……」
「エミリーをそのまま使うわけではないよ。それを言うなら、シンディを使っていたウィリアム博士だってアメリカ人じゃないか。旧ソ連の遺産をアメリカに持ち逃げしたようなものだぞ?」
「そういった意味では、十条理事が1番賢かったわけか」
 本人は否定も肯定もしていないが、“3バカトリオ”で1人だけマルチタイプを持っていなかったとは考えにくい。
 十条もまた昔はエミリーやシンディのようなマルチタイプを抱え、使役していたと見るべき。
 恐らく後に面倒なことになるのを恐れ、処分したものと思われる。
 それをベースに作ったのが、執事ロボットのキール・ブルーだったと。
「まあ、そういうことになるかな。だけど、これは財団……いや、もう我が国の物だ。現・ロシア政府が所有権を明確に主張していない以上、エミリーは日本の財産でいいだろう」
 明確に主張できるわけがないという足元をしっかり見ている役員だった。
「とにかく今現在、エミリーは南里名誉理事の遺産を受け継いだ平賀副理事の個人財産ということになっている。そしてキミは、あくまで登録されたユーザーであり、整備者としてアリス君がいるだけのことだ」
「分かってますよ。ボーカロイドはどうします?はっきり言って兵器にするつもりは全く無いですよ?」
 なので防衛省的には、ボーカロイドには興味が無いようだ。
 ポーロカロイドに興味を持っているのは、文科省と経産省である。
「もちろん、プロジェクトとしてはそうだからね。それでいいよ」
「しっかし、何かあるたんびに霞ヶ関に呼ばれるのも鬱陶しいですな」
「まあ、財団でも何とかしてるけどね。結果的にウィリアム博士の遺産の回収に失敗したのは事実だから、その辺は受け止めないと」
「はあ……」
「ところでキミ達的にはどうなのかね?」
「は?」
「特にアリス君。キミはウィリアム博士の孫娘として、本当に何か心当たりは無いのかね?」
「あったらとっくに何かやってますよ。じー様、シンディには色々書き込んでたみたいだけど、今はもう当の本人もいないし。だいたい……あ」
「ん?」
「じー様の遺産、あった」
「どこに!?」
「つっても、どこまで価値があるかどうか分かんないよ?」
「ということはアリスは、中身も知ってるんだ」
「うん。シンディの設計図」
「……何だそりゃ」
「ね?あんま価値無いでしょ?エミリーと基本スペックは同じだし、エミリーの設計図は財団でも押さえてるもんね」
「まあ、そうだな……。基本的な造りは、エミリーもシンディも変わらんとのことだが……」
「それでも、育ての親の遺品なんだろ?回収して手元に置こうとか思わないの?」
「シンディの設計図くらいなら、アタシも持ってるしねぇ……」
「持ってたのかよ!何で言わなかったんだ?」
「だって、必要無いじゃん。エミリーの設計図があれば」
「いや、あのな!そこに、何かが書かれてるかもしれないんだぞ?」
「いやー、多分無いよー」
「見てみないと分からんだろう」
「ちょっとキミ達。すぐに他の理事達を呼んでくるから、もう少し待っててくれないか。アリス君、その話を詳しく聞かせてくれ」
「はーい」

 その頃、ヒマしていたエミリーとミクはビル1階のカフェにあるバーでピアノを弾き、ミクがそれに合わせて歌うというゲリラライブで盛り上がっていたという。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「マリア邸の訪問者」

2014-06-30 00:08:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月29日15:00.長野県内某所の森の中 マリアンナ・スカーレット]

「♪」
 禁忌の魔法を無断で使用した廉で、屋敷にて謹慎処分を受けたマリア。
 師匠イリーナから言い渡されたその処分は無期でも長期でもなく、ユタが通う大学が夏休み期間に入るまでという変な期間であった。
 その間は屋敷の敷地外に出てはならぬという言い渡しであったが、元々インドア派のマリアに取ってはさほど苦痛ではなかった。
 何が1番辛いかって、やはり真剣に自分に初めて愛情を向けてくれているユタと自由に会えなくなっていることだ。
 そこで謹慎期間中、マリアがやっていることと言えば……。
「うーん……」
 人形使いの資格を持つマリアは、人形作りに精を出していた。
 それも、ここ最近作っているのはフランス人形ではない。
「……よし。今までで1番出来がいいかも!」
 完成したての人形、それはユタをデフォルメ化した“ユタぐるみ”であった。
 満足の行く出来栄えに、ご満悦の表情を浮かべて抱きしめるマリア。
「ふふ……いいなぁ……。“ユタぐるみ”いいなぁ……。とはいうものの……」
 マリアは普段の居室として使用しているリビングの中を見渡した。
「ちょっと作り過ぎたかな……」
 テディベアサイズからクレーンゲームの景品サイズまで、大中小様々のサイズのユタぐるみがソファの上や棚の上に所狭しと置かれていた。
 天井から糸で吊るした(もちろん首ではなくて、背中に糸を通している)ものもあった。
「ま、いっか。どこに飾ろうかな……」
 もしかすると、フランス人形の数より多いかもしれない。
「さすがにこの部屋、師匠以外の者には見せられんねぇ……」
 と、その時だった。
「どうしたの、ミカエラ?」
 ミク人形が部屋の中に入って来た。
「……え?お客さん!?」
 既に廊下の向こうに気配がした。

[同日同時刻 マリアの屋敷 エレーナ・マーロン]

「何だかんだ言って、この屋敷に1人で住むのって大変だねぃ。えーと……確か、普段マリアンナがいる部屋はこの辺……」
 エレーナはミク人形の後で、リビングに通じるドアを開けようとした。
 すると、慌ててマリアが出て来た。
「ちょ、ちょっと待った!いきなり、何の用!?」
「あ、マリアンナ。この前、クロを直してくれた御礼をしに来たのと……」
 窓の外を指さす。
「ちょっと雨宿りさせてもらえませんか?」
 外はいつの間にかゲリラ豪雨に見舞われていた。
「わ、分かった!分かったから、その……別室で!使ってない応接室とかあるからっ!」
「い、いや、アタシなんかの為にわざわざ応接室なんて用意してくれなくていいよ。この前みたいに、そこの部屋でいいから……」
「いやちょっと今その……この部屋ちらかってて……」
「アタシの部屋も似たようなもんだよ。てか、その部屋だけで、うちのホテルのツインルームより広いし」
「いや、その、散らかってるというか……その……地雷があるかもだし……」
「何故、部屋に地雷!?何かの魔術の実験中!?部屋の中で!?」
「と、とにかく今、すぐ片づけるから、ちょっとそこで待ってて!」
「は、はあ……」
 マリアはリビングに取って返した。

 それから……。
「お、お待たせ!」
 しばらくして、マリアが廊下に顔を出した。
「お邪魔~」
 エレーナはリビングの中に入った。
「何だ。きれいな部屋じゃん」
「い、いま掃除したから……。て、適当にその辺座って」
「あ、そうそう。これ、手土産。街の方で買って来たケーキだよ」
「あ、ありがとう。でも、どうしたの、急に?」
「いや、実はさ、ポーリン先生から、クロの件ばれちゃって……」
「あらま」
「いつまでも貸しを作られたままにすんなって怒られちゃって、それで……」
「それで、こんな雨の中?別にいいのに」
「いや、アタシもいずれこの借りは返すつもりでいたんだけど、先生がなるべく早くって」
「相変わらず厳しい師匠だな、あんたの所は……。裏でこっそり『バァさん』とかないの?
ないわ~。いやー、マリアンナの所が緩すぎるだけだと思うよ」
「まあ、いい。別に私は貸しだとか、そんなことは考えていなかったから。もし『借りを返す』つもりなら、このケーキでいいよ」
「それと、クロのついでにもう1ついいっすか?」
「ん?」
「実はここに来る途中、ゲリラ豪雨に当たっちゃって……」
「確かに体全体が湿っぽいぞ?」
「少しばかりここのシャワー、たしなめさせてもらってもいいですかぁ!?」
「勝手に使え」
 マリアは半ば呆れた。

[同日16:00.同場所 マリア&エレーナ]

「ふう、さっぱりした……」
 シャワールームから出て来るエレーナ。
「あんたの服、乾かしておいたから」
 と、マリア。
「さすが!持つべきものは弟子友(でしとも)ですな!」
 エレーナは歓喜しながら、畳まれた下着から着始めた。
 黒い服が基調のエレーナだが、下着は白系を着用するらしい。
(良かった。この分なら、“ユタぐるみ”がばれることは無さそうだ)
 マリアはエレーナの様子を見ながら、少しホッとした。
 そこへまたミク人形がやってくる。
「どうしたの?え?電話?ユウタ君から!?」
 謹慎処分を受けているマリアだが、別に外部との通信まで制限されているわけではない。
 マリアは急いで、電話の場所まで向かった。

「うーん……。まだ、よく髪が乾いてなかったな……。ごめーん、マリアンナ。タオルもう1枚貸して……」
 シャワールームからリビングに戻って来たエレーナ。
 しかし、そこに屋敷の女主人の姿は無かった。
「あれ?」
 そこへミク人形が代わりにやってくる。
「マリアンナはどこ?……電話中?……ああ。マリアンナ、彼氏持ちだったっけ。しゃあない。タオルくらい自分で探すか。えーと……そこにあるの?」
 エレーナはクロゼットを開けようと、取っ手に手を伸ばした。
 すると、急に無重力感に包まれる。
「あれ?アタシ、浮いてる」
「浮いてるねぇ!」
 いつの間にか、魔法でエレーナを浮かび上がらせていたマリアだった。
(まずい!そのクロゼットの中には“ユタぐるみ”が!)
「あの、アタシ、タオル1枚貸して欲しいんだけど……」
「たっ、タオルね!い、今持って来るから、ちょっと待ってて!」
「そんなに慌てなくていいよ?」
 エレーナが目を丸くするほどだった。

 そして……。
「お、お待たせ……」
 バスタオルを持ってきたマリア。
 カーペット敷きの床で滑ってタオルを放り投げ、それは広がってエレーナの頭に覆い被さり、マリアは勢い余って、クロゼットの観音扉にぶつかった。
 その衝撃で扉が大きく開いてしまい、中から……。
「!」
「!?」
 大量の“ユタぐるみ”が雪崩落ちて来た。

 気まずい空気が流れる。

 最初に口を開いたのは、エレーナだった。
 頭にタオルを乗せたままである。
「これ、人間の男がモチーフだよね?何で同じ物が沢山?」
「そ、それはその……」
「ああ、そうか!分かった!」
 エレーナはポンと手を叩いた。
「な、何が?」
「これがマリアの彼氏だね。で、練習とかしてて、いつの間にかこの量になったと。そういうことだね?」
 図星であった。
「確かにこの広い部屋でも、これだけあると置場に困るだろうねぇ……。それでさっき『散らかってる』って言ってたんだ?」
「あ、ああ……」
 マリアは観念することにした。
 だがエレーナは、けしてバカにするような態度は取らなかった。
「マリアンナは今、魔道師の中の人形使いなんだし、その人形使いの家が人形で散らかってるのは、ある意味ベタな法則なんだって。だから、そんなに気にする事ないよ!」
 あまりにもあっけらかんとしているエレーナに、
「そ、そう?」
 ホッとする一方、
(なに1人で騒いでたんだろう……?)
 一瞬自己嫌悪に陥ったマリアであった。
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